第2話 集落から村へのクラスアップ①
ミッションコンプリートに向けて環境整備の開始です。
何をするにしても安全な住環境は大切ですからね。
ちょっと頑張ってしまうのも仕方のない事なのです???
ポシェットから直径50cmのアナログ時計を出し、オラカに見えるように持つ。
「これをお前に預ける事にする。この円盤は時計と言って朝、昼、夜といった一日の長さを測る為に用いる神の道具だ。
この道具で神は一日の長さを測り、いまが一日の中の何時かを知る。
お前にはまだ判らないだろうが、この道具の周りに書いてあるものは、1から12の数字というものだ。読み方や使い方を教えるので、この道具を管理するものを選び、ここに連れてこい。」
「判りました。すぐに呼びますので少々お待ちください。」
オラカはそう言うと、後に控えていた男に指示を出した。男はすぐに外に出ていく。
少しすると、まず3人の女達がなにやら捧げ持って入ってきた。
一人の女が、浅い土器を俺の前に置くと、壺のような土器から果実を出して並べる。又、別の女は木をくりぬいて作ったコップを置いて、水を注ぎ入れる等、客としての扱いである事を伺える対応をしてくれている。
3人とも若い女に見える。見た目は背の高さは普通位だが顔かたちは少し角ばって、俺の好みからは余り女性らしさは感じられない。
貰った水を飲み、果実を食べながら待っていると、やがて呼びに出た男とは別に2人の男が入ってきた。俺の前に並ぶと跪いて頭を下げる。
「この二人を選びました。お前達、ヤマト様に名前をお伝えしろ。」
と、オラカが促す。
すると、向かって右側の男が頭を上げて名乗る。
「俺はムラガと申します。よろしくお願いします。」
次に左側の男が名乗った。
「俺はワグラと申します。よろしくお願いします。」
「この二人は我らの中でも特に頭の良い者です。存分にお使いください。」
「ご苦労。これからお前達に時計の見方と使い方を教える。しっかりと覚え、間違いなく使いこなせ。」
そうして、俺の縄文時代・時計の使い方講座が始まった。
俺を案内してくれた男に時計を支えさせ、オラカ達3人に時計の説明を行う。
まだ、何の為にあるものか見当もつかないだろうが、これから使っていく内に判るようになるだろう。
こうして午前中は時計の使い方講座で終わるのだった。
「よし。今短針と長針が『12』の所で重なったな。これを12時と言う。神の世界では12時から1時の間をお昼といって、飯を食ったり休んだりする時間となるのだ。
これから俺は休むから、お前達も休め。この時計をどこか見易いところに持っていって、倒れたりしないようにしっかりと置くのだ。
オラカは短針が『1』、長針が『10』の所にきたら俺の所に知らせに来い。時間は12時50分というが、その時に次の指示を与える。判ったな?」
「はは!判りました。それでは12時50分に参りますので、それまでお休みください。失礼いたします。」
オラカ達が出て行き、残った俺は水を飲んで、果実を食べるとクッションに横になって一休みした。
「そう言えば、案内してくれた男の名前を聞いていなかったな。」
次に与える指示は決まっているからこのまま押し切ってしまおうか。
時々起き上がって前に置かれた果物等を食べては横になったりしているうちに時間になったようだ。
「失礼いたします。ヤマト様オラガでございます。」
長老のオラガがやって来たようだ。腕時計を見ると12時50分だ。
「入れ。」
声を掛けるとオラガが中に入ってくる。
そのまま、俺の前まで来て平伏するのを待ち、予定を伝えることにした。
「時間通りだな。これから俺の社の場所を教える。その後村の柵を作る場所を教えるからそのつもりで人を集めよ。13時30分になったら出発する。」
「畏まりました。それでは準備を致します。」
自分の準備は特にないので、広げていた地図を畳んでポシェットにしまい、時間を見計らって外に出た。
どうやらもう揃っているようだな。
「ヤマト様。準備は出来ております。」
「良し。それでは出発しよう。」
まず、俺の社まで移動する。徒歩で10分なので、ちょっと散歩する位ですぐに着いた。
「おおっ!これが社ですか?何と見事な。」
長老も驚いているが、この時代にこれだけの建築物は見た事も無いだろう。色もちょっと派手だし、見栄えは良いよな。
「そうだ。此処が俺が住んでいる社になる。新しい村はここを中心に広げていくからな。見ての通り社の周りは木が多い。まず、この社の全周を500歩いたところまで木を切り倒して開拓しろ。そして、俺の社の傍に長の家と皆が集まれる大きさの家を建てるのだ。木を切る道具や家を建てる道具は俺が貸してやる。そのつもりで人を手配せよ。」
「道具を貸して頂けるとは有難うございます。」
「大体周りの状況は確認できたか?どこまで木を切り倒すのかは後でもう一度教える。それでは村の柵を作る場所に行くぞ。」
社周りの状況を長老と付いてきた人達が確認したのち、一旦集落に戻って長を残してから東に向かって歩き出す。
まさか長老を長時間歩かせるわけにはいかないからな。
今度は集落からマリアのナビを受けながら、大体時速5km位を維持して歩き続け、1時間後目標地点に到着した。ナビのおかげで、結構正確に直線で集落から東に5kmだ。
「まだ距離という概念は判らないと思うが、これからゆっくりと教えて行くから、今はこんなものだと思っていて良いぞ。ここがお前たちの集落から東に5kmという距離の地点になる。此処に目印の石を並べて棒を立てておくから、見落とさないようにしろ。」
そう言って、周りの小石を集めて集落方向に50㎝、南北方向に1mの長さで並べ、交点には20㎝位の丸い石を置いた。
次に地面に小枝で簡単な図を描く。
「この絵を見ろ。真ん中がお前たちの集落だ。今いる所はここ。柵はここから南北にそれぞれ5kmの位置まで作り、最後にはこの絵の様に集落をグルっと囲むように伸ばしていく。集落からここまで歩いて来た距離が5kmだから、同じだけ南か北に歩けば絵の此処の角に着くからな。」
それぞれの顔を見ながら、理解できているか確認して話を進める。
「起点から離れると真っ直ぐ進んでいるのか分からなくなる。そこで、この道具を使用する。」
そう言いながら、ポシェットから長さ1.5mの簡易測量器を取り出した。
マリアが用意していた測量器で、棒の先に30㎝の横木が有り、その両端にそれぞれ10㎝の板が垂直に取り付けられている。
片方の板の中央には直径1㎝の丸い穴が開いていて、もう片方の中央には5㎝×1㎝の縦長の穴が開いている。そして縦長の穴には中央の上下に糸が張られている。
柵の進行方向に少し離れた所から丸い穴から覗いて、対面の縦長の穴を見通し、糸とそれぞれの柵が重なるようにすれば、凡その直線になるだろう。
呑み込みが良い男に大雑把だが使い方を教えておく。判らなければその都度指示して、いずれは2~3人位測量が出来るようにしたい。
よく見たら、この男は最初に出会って案内してくれた男だ。
「お前の名前を教えてくれ。」
俺がそう言うと、男は驚いたようで、少しためらった答えてくれた。
「俺はミナキと申します。」
「ミナキか。覚えておこう。朝は案内ご苦労だった。」
やっと名前が判ってお礼も言えたのでほっとした。
それから、ついてきた人の中から身長が1.6m位の男を指差し、
「お前の両手をいっぱいに広げてみろ。柵の高さはこの両手を広げて指を伸ばした時の指先から指先までの長さになる。そして、腕位の太さの木を使って、柵の高さに足の膝から下の長さを足した長さに切ってから両端を削って尖らせる。
この木を何本も作れ。出来た木は膝から下の長さ位の穴を地面に掘り、その穴に立てて倒れないようにしっかりと埋めて固定する。何本か立てたら、この木より少し細い木をこの木2本分の長さで作り、横にして立てた木の内側にあててしっかりと縄で結び付けろ。これを上下2段に取付ける。
さらに、立てた木の10本毎に柵の内側へ斜めの棒を取付ける。これは外から押されたときに倒れないようにするための補強材だ。長さは柵と同じで良いぞ。」
地図と同じように地面に簡単な絵をかいて説明する。みんな真剣に聞いているが、おそらく完全には理解できないだろう。実際に柵を作る時に実演しながら何度か教えて行けば覚えてくれるかな?
“やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。”ってね。山本五十六閣下に習って人材育成に力を注ぐ必要が有りそうだ。
「明日から毎朝ここに来て柵作りをやる。明日は木を切る道具とその他の資材を持ってくるので実際にやって見せよう。しっかりと理解してから柵作りを始めるように。良いな、」
「はい。判りました。」
実地の下見はこの位で良いだろう。後はマリアと施設で地形図を見ながら伐採範囲の確認をしよう。さて集落に帰るか。
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行きと同じペースで歩いて、集落に帰り着いたのは16時半頃だった。
初めに案内された家に入り、マットに座り込んで長老と向い合せる。
「明日からの予定は大体説明した。村を保護するための柵を作る所も教えたから、早速明日から柵作りを始めてもらう。
ところで、柵作りの音頭を取る者だが、今朝俺を出迎えて案内してくれたミナキにやらせようと思うがどうか?」
「ミナキでございますか。あの者ならば大丈夫かと思います。」
「それではミナキには長老から伝えておくように。柵作りに参加させる男たちの数はお前に任せる。俺も初めは付き合って柵作りのやり方を教えるが、毎日5人程度は参加させろよ。柵作りに必要な道具は俺が用意するから心配するな。
それから、男たちが柵作りを始めると食べ物の調達が出来なくなるだろう。俺の方で必要なだけ食べ物を用意する。朝俺が来る頃にはここに届いているから、それで賄え。
柵作りは毎日朝から夕方まで、雨などの天候不良時以外続けてもらうので、昼飯を現場で用意できる様にする事。やり方は任せるから女たちに準備させておけ。解ったか?」
「ははっ。判りました。それにしても食べ物まで用意して頂けるとは。しっかりと働かせていただきます。ところであなた様はこちらでお休みなされないのですか?」
「ああ。俺は社で休む。歩いても10分だから問題ない。何かあるか?」
「いいえ。この家をあなた様に使っていただこうと思っていましたので。」
「そうか?此処はお前の家ではないのか?」
「そうですが、ここで一番大きな家にお住いいただこうと思い、俺は別の家に移らせていただきました。」
「それは済まなかったな。ここは安心してお前が使ってくれ。どちらにしろ、社の傍にお前の家が出来たら引っ越しだがな。今後、少しずつ周辺から人が集まって来ると思うが、受け入れについても考えておくように。
今日の所はこれ位か。それでは俺は社に帰るとしよう。また明日な。」
「ははっ。お疲れ様でした。また明日宜しくお願い致します。」
伝えることは伝えたので帰る事にした。
長老や他の人々に集落の入り口まで見送られて社に向かう。
帰りもマリアと話しながら社に着いて、社の転送室から施設の転送機室に転送してもらった。
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『お帰りなさい。お疲れ様でした。』
「ただいま。この体になって疲れにくくなったようだね。おなかは減ったけど。」
『体力は一流アスリート以上ですからね。明日からは柵作りと社周りの伐採ですね。お話は聞いておりましたので道具や食料品等準備しておきました。明日の朝には集落中央に転送しておきます。』
「頼むよ。それじゃあ風呂に入ってから夕飯にするかな。」
それから風呂に入って夕食にした。今日は魚の煮物に芋の煮っころがし。漬物とお浸しだった。食材は良く判らないものばかりだったが、とても美味しくいただきました。
メーカー不明の缶ビールも出してくれたので、大変満足でした。
まだまだ続く環境整備。
ほんの手始めですがやるからには徹底的に、後の事は考えずに頑張りましょう。