番外編 マリアからの御挨拶!!
第1章が完了しました。
ここでちょっと閑話を挿入します。
マリアの独り言という事で、お聞きください。
トントン・・・・テステステス・・・・・!?
皆様、オハコンバンチハ。私は人工知能のマリアと申します。
この様に、御挨拶させて頂きますのは初めてですが、宜しくお願い致します。
私は、時空転移装置という、時間と空間を移動する事が出来る装置、所謂タイムマシンの運転管理及び装置内部に搭載されているメディカルセンターの運用を行う事が主任務とされており、必要に応じて資材の調達や建設機材、道工具類の製作、更には各種ドローンやアンドロイドの製造・運用等・全般的な管理統括を行う為に作られました。
因みに、私が製造されたのは西暦表現で4134年となります。
この時代には地球に住んでいた人類が、様々な問題を克服しながら太陽系全体に広がりつつ繁栄を続け、地球連邦という一つの太陽系国家を形成しておりました。
そして、その勢力圏を更に拡大しようした時、突然問題が発生しました。
それは徐々にではあっても、人類の繁殖能力が減衰して出生数が減少していく事及び人類全体の寿命が短縮していくという、種の存亡に関わる非常事態であり、これを放置すれば確実に人類は滅亡する事になる事態でした。
この事態を打開すべく、世界中の知識人が結集して、あらゆる方法を模索してまいりましたが、根本的な原因が太古からの遺伝子に係り、これを排除する事は人類の遺伝子情報に重大な損傷を与えかねないという事が判明した為、種の滅亡は避けられない事と考えられるようになりました。
しかし、一人の科学者が遺伝子異常に対して免疫を持った人が少数ながらも存在する事に着目し、この免疫を持った人を遺伝子異常が発生する以前の時代に送り、その免疫遺伝子を拡散させる事で、異常を持った遺伝子の発生を抑制できないかと思い付きました。
この思い付きは直ちに徹底的に精査・検証が行われ、その結果、成功の可能性が低いながらも有るという結論が出ました。但し、この時代の人では繁殖能力が減衰していて役に立たないという事も判ってしまったので、過去に遡って理想的な人を探さなければならないという事になりました。
他に有効な打開策を見いだせなかった人類は、まさに溺れる者は藁をつかむといった感じで、直ちに詳細な計画を立案し、行動を開始します。
この時代、地球連邦全体のインフラを管理していたのがアウラという人工知能です。
私は、そのアウラを基にして、地球連邦全体の科学者、物理学者、生物学者等が総力を結集して再設計と建造を行い、最高水準の能力を持った人工知能として誕生したのです。アウラは私のお母さんですね
そして、同時に建造されておりました時空転移装置の運転管理を行う為に、その中央部に設置され、建造中の装置全体の掌握や必要な情報収集を行い、装置の完成後は補修部品や各種資材の積込み、保管、管理を行っていました。謂わば時空転移装置は私の体といった所でしょうか。
私の製造責任者であるマスターは、アウラの建造にも携わっていた物理学者で、今回も私の計画段階からずっと関わってくれています。
マスターは昔、交通事故で最愛の奥様を亡くしました。そして、その事故で御自身も声帯が破壊され声を出せなくなってしまったのです。
悪い事に更にその数年後、たった一人の肉親であるお嬢様を航空機事故で亡くされてしまい、悲嘆のあまり一人で僻地に閉じこもってしまわれたそうです。
この度、緊急事態という事で地球連邦政府からプロジェクトに招聘されて参加しておりましたが、他の方との意思疎通には小型端末に文字を表示する方法で行っておりました。
私とも同じ方法で、製造中から様々な事柄を教えて下さり、この地球連邦という人類が作り上げた共同体が陥っている状況や、今回のミッションの目的と望まれる結果がどのようなものか理解する事が出来ました。
マスターは私の事をとても大切にしてくださいました。
いつも私の傍に来て、私と向き合って時間が許す限り話しをしてくださいました。
特に、私が行うミッションについて優先順位を明確にして、ミッションの成功によって歴史改変がなされる可能性が高く、その結果、最終的に歴史がこの時代に繋がらなかっとしても、ミッションの遂行に全力を尽くすように言われました。
「この計画の大事なところは、人類が滅亡を回避して、少しでも長く繁栄し続ける事なんだよ。その為には歴史が改変されて、この時代に繋がらなくても仕方のない事だと考えている。だから、必ず成功させてほしい。」
「良いかい、私は敢えてお前に名前をつけないよ。お前の名前はこの先でお前が出会って確保する免疫遺伝子の保有者に付けてもらいなさい。その人とお前はおそらく1万年以上の時を共に過ごす事になるだろうから。」
「きっと、お前に確保された免疫遺伝子の保有者は、こちらの勝手な都合で過去へと連れていかれる事を怒る事だろう。どんな言い訳をしたところで、一人の人間の人生を無理やり変える事になるのだから、非難は甘んじて受けなければならない。しかし、人類の為に、どうか力になってほしいと伝えてくれ。」
他にも色々な事を話していただきました。
私には、疑似的とは言え感情が有ります。
マスターのお役に立てることはとても誇らしく、喜ばしい事ではありましたが、旅立てばもう二度とマスターに会う事が出来ないのは、とても悲しい事でした。
だからこそ、私を大切にしてくださるマスターに名前を付けて頂きたかった。
でも、それを言う訳にはいきません。
結局、マスターは最後まで名前を付けてはくれませんでした。
私が搭載された時空転移装置は、外装をスペースチタニウム合金という、地球上でもっとも強靭な金属で作り上げており、地球上だけでなく宇宙区間でも自由に移動する事が出来るように設計された、謂わば宇宙船のような存在です。その性能は申し分のない物でしたが、見た目は正四角推を途中で水平に切断したような正四角推台で、底面は10km四方、上面は5km四方で、高さが5kmという、武骨でとんでもない大きさになってしまいました。
私としてはもっとスマートなボディーにして欲しかったのですが、ミッション達成の為に最も重要なメディカルセンターを搭載し、様々な資材や現地で必要となる機材を造る為の設備等を搭載するには、それなりの大きさが必要になります。
何よりも、私自身が出来るだけ小型化したにもかかわらず、とても大きな体だったので不本意なことにどうしようもありませんでした。
もっとダイエットできればよかったのですが。
やがて、時空転移装置も完成し、全ての準備が出来たので、いよいよ過去へと飛び立つ日が参りました。
おそらく二度と会う事の無いマスターを始めとする全人類に見送られ、それまで係留されていた宇宙ドッグからゆっくりと出港します。
もう会えないかと思うと、悲しみで動作不良を起こしそうですが、初めの一歩で躓いてミッションを失敗に終わらせるような事はでません。出るはずのない涙を振り払って旅立ちました。
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マスターの下を旅立った私は、計画に従って2400年前の弓状列島、所謂日本列島の中央付近に転移しました。そのまま適当な山の中に潜り込み、監視用ドローンを周辺に飛ばして情報収集を行いながら、時間流に沿って漂い流れ、必要な条件を備えた人間が見つかるまで只管待ち続けました。
捜索を始めて凡そ2100年後、ようやくその人間を発見し、上手く時空転移装置内に誘い込んで拉致する事に成功すると、計画通り、目的の時代である紀元前1万1千年頃の縄文時代早期へと時間ジャンプを敢行したのです。
これでは間違いなく誘拐ですね。でも気にしません。
予想通り、拉致した人間は混乱し、事情を説明したのちは起こりましたが、元々の性格が温和なのか最後には協力を約束してくれました。
もっとも、本人の知らない間に身体強化や若返り処置等を行っていましたから、拒否権など最初からなかったわけですけどね。
これも、マスターからの最後のお願いを優先事項として判断したにすぎません。
ともかく、人類の滅亡を回避する為ならば、どんな事でも行って行くつもりです。
マスターの思いを叶える為に、そして出来るのならば、マスターともう一度お会いする為に・・・・・・
マリアは色々と面白い性格になっていますね。
本来は理論一本やりなはずでしたが・・・・?
次回から第2章出発!宜しくお願いします。