第11話 不老不死?と初仕事に向けて
時空転移装置から出陣する為に準備中の主人公。
拠点建設も未来からの技術で簡単らくちん!!
ミッション内容を改めてマリアと確認していますが、結構ハードルが高くて心配です。
「転送機か。便利なものが実用化されているものだね。しかし、非常用シェルターを改造した家屋?どんな物なんだ?」
『普通の非常用シェルターは縦横10m、高さ3mの箱型で、収容人員25人になります。1m四方の大きさに収まっていて、設置場所に置いて起動スイッチを押せば10秒で展開し地面に固定されます。災害時に使用されますから最大風速200mの暴風雨内でも安全に居住できます。内部の仕切りは自由度が大きく、家族ごとに区切ったりも出来ますし、ベッドや炊事場、トイレ等も完備ざれています。』
「なにそれ。俺の時代にも欲しいぞ。災害時に大助かりじゃないか。仮設住宅なんていらないし。」
『この非常用シェルターを今回のミッションに合わせて改造し、外観は高床式の神殿を小型にして様な感じです。縦横は普通型と同じですが、高さは8mになっています。内部は最新の設備で4LDK。太陽光発電で一旦フル充電すれば1週間は無充電でも冷暖房完備を満喫できます。水も循環型の完全リサイクルシステムですから、使い放題ですね。』
「それを村落ごとに設置するのか?何基持ってきてるんだ?」
『1千基搭載されています。世界中に拠点を作る必要が有りますから、最低これ位は必要になるだろうとの事でした。シェルターの一室を転送機室としますから、この施設との行き来は時間を考慮する必要はありません。』
「そいつは助かるな。それじゃあ、村落内の女性をピックアップして、転送機を使ってここまで連れて来ればいいんだな?」
『それが一番時間が掛からず、かつ安全な方法と考えます。』
それにしても、アニメから夢を貰った未来の人たちは、本当に良い仕事をしたんだな。
『№1村落の村落作りと人間集めが終わり次第、人工授精に掛かります。№2村落以降については人工授精と並行して実施し、順次人工授精を進めていきます。この方法で9箇所の地域を回る計画ですが、目標の70%から80%を達成するにはスケジュールの調整が必要ですので、後程スケジュール表をお渡しします。弓状列島はシミュレーションでは15年で介入の必要がなくなり、後は自然に目標を達成できる予定です。』
「15年後には凡そ20000人中の16000人に免疫が有る事になるわけだな。ところで、これは日本だけの話だよな。他の国は良いのか?」
『そうですね。この時代の世界人口は推定で1000万人と考えられます。世界人口に見た弓状列島の人口比率は0.2%ですので、その中の70%から80%など微々たるものです。そこで、あなたには世界も回って頂く事になります。』
「やっぱり、世界中回らなければならないんだな。推定人口が1000万人で、その内女性を500万人と仮定して、さらにその中の妊娠可能数を推定すれば350万人位か?」
今までと同じペースで行うとすると1周するだけでも180年位は掛かることになる。目標の70%以上にまで持っていくとすれば何年かかるのか、計算したくもないな。
『概ね正しいと思います。この時代のヨーロッパでは大きいところで3000人~4000人規模の集落から小さいところでは50~100人規模の遊牧民の集団といったものが各地に分布していますので、弓状列島と同様に村落作りから始めなければなりませんが、1村落当りの人数を10000人規模にしたいと思います。』
「集団の人数が増えれば効率は良くなると思うが、それでも掛かる年数的には大して変わらないんじゃないか?何か効率的な方法があるのか?」
『一村落に対して、あなたの遺伝子を持つ子供が集団の25%程度の人口比率になるように処理を行います。例えば10000人の集落があればその内半数の5000人を女性として、妊娠可能な人数は3500人と仮定します。
その3500人を対象として処理を行えば350日で完了します。
妊娠後のケアを完璧に行えば1年後には3500人以上の子供が生まれていることになります。そうすれば15年位でその子供たちも出産可能になりますから、後は集落の中でそれぞれが交配を行う事で自然に免疫遺伝子を持った人類が増えていくことになります。』
「それで上手くいくのかね?」
『村落の数は1000個程度になりますから、この方法では1000年掛かる事になります。
もっとも、普通の寿命ではとても終わりまで生きていることは出来ませんから、あなたには改造と一緒に出来る限りの不老処理を行っています。』
「不老処理までしてたのか?本当に何でもありだな。」
どうやら、俺の体は物理的な強化だけではなく不老処理というものまで受けているらしい。
「それで、その処理をすると、どれくらい寿命が延びるんだ?」
『まず、体の強化分で病気や怪我に対する抵抗力が通常人の10倍以上になっています。大抵の病気には罹る事はありませんし、普通の人が死ぬような怪我でも簡単に治癒して大抵大丈夫なはずです。
それに上乗せして科学者達が無駄に力を入れて考案した老化防止処置の中から、特に効果が有ると確認が出来て、当時実際に行われていた数種類の不老処理を合わせて行いましたから、それぞれの相乗効果で10000年以上現の寿命になる事は保障します。
それ以後、どれ位まで寿命が延びるかは、実際に死ぬまで解りません。
見た目は老いる事のないままで、いつまでも生きているというホラーのような状態ですが、それでも50000年以上になる事は無いと推定されます。
但し、想定以上の規模の事故等で即死した場合はその限りではありませんのでご注意ください。』
「ホラーにされた。他の人間から見たら化け物だろうけど、実際にそれを言われると傷つくんですが。それで想定以上の事故ってどれ位の規模になるんだ?」
『恐竜絶滅の原因となった隕石の落下位とか、地球の軌道がずれて太陽に突入するとか、要するにカタストロフ級の災害ですね。』
「つまり地球上の生物が全て死滅する位の災害に巻き込まれるような事がなければ、死ぬ事はないという訳だね。それって完全に人間辞めていないか?」
『余り細かいことは気にしない方が良いですよ。この先考える時間は幾らでもありますし、それよりも世界中を回る方が忙しいのですから、せっかく伸びた有効時間を使って頑張って人工授精に協力してください。』
「そこまで言い切るか。やれやれだな。ところで、寿命の話になったんでついでに聞いてみたいのだが、縄文時代の日本人の寿命はどれくらいなんだ?」
『有る研究によりますと、縄文時代の日本人の平均的な寿命は31歳程度です。ただし0歳から15歳までの人骨が余り出土していない為、その部分の推定死亡数を含んで計算すると、平均寿命は12歳程度にまで落ちてしまいます。
これは縄文時代における乳児や幼児の死亡率が極めて高かったと思われるからで、これが人口が増えなかった原因の一つと考えられます。
問題は、乳幼児の高死亡率の為に種族を維持する事が困難となる事で、これを解決する為に女性は15歳から平均寿命までの間に、2年に1人の子供を出産する事になります。
これにより、出産に伴う死亡数が多くなり、女性の平均寿命が24歳程度まで落ち込んでしまいます。』
「ずいぶん厳しい状況だな。現代日本でも少子化が問題になっているが、それを解消する為に2年に1人子供を産めなんて解決策を発表したら大問題になるだろうな。さぞかし関係する政治家や団体が大騒ぎして国会が紛糾する事だろう。
そうすると、免疫遺伝子を持って生まれてくる子供についても、同じ事が言える訳だな。」
『あなたの遺伝子が入った事で、他の子供達よりも寿命が延びることは確実でしょうが、それでも子供の生存率が低い事には代わりがありません。
その為、処理した女性には各種の予防接種を施すと共に、出産までの経過を常にトレースして、健康状態や栄養状況も確認できるようにしておきます。
出産後も母子共にケアが必要となりますから、出産前と同様にトレースを継続して、万一、生存に問題が発生するような事があれば、直ちに介入できるように準備しておきます。
これを可能にする為に、村落の各所にはモニター機材を設置する予定です。
これにより、出産までの安全率を上げ、出産後は乳幼児の生存率を上げる事が出来るようにします。』
「解った。それくらいやればかなり状況は良くなるだろうな。それじゃあ、まず日本から順番に初めて、次にヨーロッパ、その後は又別の土地に移動という感じで良いんだな。」
『そうですね。主な流れはそのようになります。途中、状況によっては一度回ったところを再度訪れることもあるかと思いますが。それでは、計画準備段階の仕上げとして、楽しい映画を始めましょう。』
マリアがそう言うと、画面の外の様子がいきなり変わり出す。
今まで綺麗な朝焼けから抜けるような青空に変わって、とても気持ちの良い景色となっていたが、急に空が西の方から見る見る曇りだし、朝なのにまるで夕方のような暗さになってきた。
やがて、渦巻く雲の中から一条の光が地上に降りてきて、遠くに見える火山を背景に映像が出現する。
どうやら何かの映画で見たような神様の降臨を演出しているようだ。
集落ではいきなり始まったスペクタクルに大騒ぎになっているようで、男達は動揺しながらも手に手に槍や石斧等を持って立ち向かおうとしている。
その内に、映像が安定して火山の上にギリシャ神話の大神風の装束をした人物が映し出されると、その周囲に雷光が走り、轟音が響く。
一瞬、驚愕により集落内が静寂に包まれると同時に、映像から声が聞こえた。
【下界の生き物たちに伝える。私はおまえ達を作り出しこの世界に生きることを許した神だ。頭を下げ、跪いて聞くが良い。】
辺り一帯に響き渡るような声なのに、不思議とすんなり耳に入ってくる。
この言葉を聞いた集落の住民は、慌てて一様に跪くと地面に手をついて頭を下げた。
「うわ~。テンプレな神様降臨の図だ。これは見ている方が恥ずかしくなってくるぞ。」
『こういったものは勢いと乗りといいますか、お約束というものがありますから、ベタな方が信憑性が増すというものですよ。』
【しばらく後、おまえ達の所に私の使いの者が訪れるだろう。その者は私と同じ容姿をしている。間違えることなく、丁重に迎えるのだ。】
「ああ、なるほど。どこかで見た事があると思ったら、俺だったのか。」
『その方が、色々と都合が良いので、同じ容姿にしておきました。この映像は弓状列島中の集落に同時放送されています。内容は到着時期が違うだけでほぼ同じになっていますから、あなたが行った先で一々自己紹介をしなくてすむようになります。また、はっきりと顔を見せていますから、あなたを騙った偽物も出にくくなるので一石二鳥です。』
「なるほど、偽物の心配もあるんだな。よく考えているな。」
【この者は、おまえ達に大切な事を行う為に私が使わす者だ。
おまえ達はくれぐれもこの者が行う事に疑いを持たず、その行いを妨げないようにせよ。
そして私が使いに与えた指示をおまえ達にも伝える。
私はおまえ達が繁栄する為に神の血を分け与える事とした。
女達に命ずる。子をなす事が出来る女は、使いに従い使い住処に出向け。そこで新しき命を授けられるだろう。月日を経てやがて生まれた子供は神の血を与えられた神の子である。大切に育てよ。その子供成長する事によりおまえ達を繁栄に導くだろう。
子をなす事が出来る全ての女達に子を孕ませた後、私の使いはおまえ達の基から去るだろう。
しかし、私はおまえ達の事を常に見ている。子を授かった女達に難が訪れないように、生まれた子供達が元気に育つように、私は見守り続けている。
子を授かった女達が元気に暮らせるように、この地に恵みを与え、木の実や獣が多く取れるようにしてやろう。
もし、困難な事が起これば、私の使いがおまえ達の基に現れ、その困難を排除するだろう。
これは神である私が、おまえ達に命ずる事である。決して我が命を忘れ、疎かにする事がないよう心せよ。
私の使いを害する者、その行いを妨げる者は、その集落もろとも滅する。
私の目を欺く事が出来ると考えるな。私は夜も昼も常におまえ達を見ている。おまえ達の話を聞いている。
私の目も耳もおまえ達のそばに眠ることなく何時もいる事を忘れるな。
良いな!!】
その言葉が終わると、今までで一番大きな音と共に稲光が天を走り、辺りを真っ白に染め上げた後、まるで霧が晴れるかのように辺りが明るくなってきて、上空の雲も無くなり、映像も消えていった。
「また、とんでもない事をでっち上げたもんだな。俺が神の使いになって、神の指示した事を行うのか?この時代の人間なら簡単に信じそうだが、これだけで計画通りに行くのかね?」
『これは、状況を進めやすくする為の前振りみたいなものですよ。こんな大規模な演出はこの時代にはありませんから、いかにも神様が降臨して命じたように見えるでしょう?まだ半信半疑の者もいるでしょうが、それでも何かあったら簡単に神様を信じる土台ができたんです。
これで、実際にあなたが各集落を訪れる時に、暗示効果がある周波数の音を混ぜ込んだ音楽を流したり、判断力を鈍くするガスを散布する事で、完全に此方の言う事を信じさせる事が出来ます。』
「やっぱり、そんな事までやるんだな。科学力を変な方向に使っている気がするが、この場合は仕方がないという事にしておくか。」
『何はともあれ、これで下準備は完了しました。さあ、お仕事を始めましょう。非常用シェルター改を転送機で拠点に移送します。続けてあなたを拠点傍に移送しますから、非常用シェルター改を起動してください。』
「とうとう仕事になったか。間違ってはいないんだろうが、なんか違う気がするんだよな。」
いよいよ神様出現からのミッションスタート!
最早お仕事になっていますが、めげずに頑張ります。