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8話:新しい朝

 ──夜。


 用意された個室に入ると、スイ子さんが前で手を組み待機していた。


「あれ、何かありましたか?」


 スイ子さんが近づいてきて俺の着ているスーツを脱がしてくれた。


「ご主人様~、申し訳ありません~、まだお布団がありませんので~」


 なるほど。と木製のベッドに目を向ける。


 確かにこのまま寝るのは体が痛くなってしまうかもしれない。


 どうしよう?


 スイ子さんはスーツを壁にかけてくれている。


「つきましては~、わたくしがご主人様のお布団になりますね~」


「……ん???」


 スイ子さんは今、自分が布団になると言っていた気がする。


 いや、言っていたが一瞬理解できなかった。


「一体何を──」


 どういうつもりなのか問おうとした瞬間、スイ子さんの全身が液状化して、木製のベッドまで這って移動した。


 そしてベッドに形を合わせるように形を変形させていく。


「お待たせしました~、わたくしの上で寝て頂ければお体を痛めることなくお休みいただけます~」


「なるほどそうきたか」


 混乱しつつも変形したスイ子さん(?)に近づき触れてみた。


 指で押すと沈み、離すと元に戻る。


 スイ子さんは弾力性のあるマットのようなものに変わっていた。


「いやしかしこれは……」


「……お気に召しませんでした~?」


 ウォーターマット(スイ子さん)から不安そうな声が聞こえる。


 これはスイ子さんが俺のためにしてくれたことだ。


 折角のスイ子さんの気遣いを無下にする訳にはいくまいて。


「い、いや、じゃ、じゃあ上に乗るよ……?」


「はい~」


 さっきの不安そうな声とは違い、今度はとても嬉しそうな声に変わっていた。


「そ、それじゃあ失礼して……」


 膝からゆっくりと乗っていく。


 足を引っかけて傷つけてしまわないかと慎重に体を動かしていく。


 そうして全身がスイ子さんのウォーターマットに乗った。


 そのまま横になると、頭部分が少しせり上がり枕のようになった。


「枕の高さは丁度良いですか~?」


「あ、うん、丁度いいかな……」


「わたくしの感触はいかがでしょうか~?」


「……うん、凄き気持ちいよ」


 体に一切の負担がかからず、優しく包み込んでくれるような感触に心地よさを覚え、早くも睡魔がやってきた。


「もし寒ければ遠慮なく仰ってくださいね~」


「わかった……うん、ありがとうスイ子さん」


「いえいえ~、これもご主人様のためですから~」


「ありがとう……それじゃあお休み、スイ子さん……」


「はい~、お休みなさいませご主人様~」


 ウx-ターマット(スイ子さん)の心地よさに負け、そう言えば今日風呂入ったっけと思いながら、俺は眠りに落ちていく。



 ◇   ◇   ◇



 朝。


 開いている窓から朝日が差し込み目が覚めた。


 目を開けると、知らない天井だった。


 昨日のことを思い出す。


「そうか、転生したんだっけ……」


 瞼を閉じ、気持ちを切り替えてから起き上がった。


「おはようございますご主人様~」


 下から声が聞こえてきた。


 そう言えばスイ子さんがマットになってくれたおかげで快眠できたんだった。


「……あぁ、おはようスイ子さん、昨日はありがとう」


「いえいえ~、わたくしもご主人様と眠れることができて幸せでした~」


「はは……」


「それじゃあ他にみんなにも挨拶してくるよ」


 そう言ってベッドから降りて歩き、ドアを開けたらアス子がいた。


「おはようございますご主人さま……ん? なんか匂いますね……?」


 アス子が俺の体の匂いをかいてくる。


「あ、風呂に入ってなかったからかな、ごめん」


「……いえ、この匂いは──」


 アス子が部屋の中を覗く。


「……ご主人さま?」


 アス子のその声は、とても酷く冷たいものだった。


 俺何かやっちゃった?


 後ろを振り向くのがなんだかとても怖くなったが、俺は勇気を振り絞ってゆっくりと後ろを向く。


 スイ子さんと寝はしたけど、みんな知ってると思──


「……昨日はお楽しみでしたね~」


 ベッドの上には人の形に戻ったスイ子さんの姿があった。


 ただ今までと違うのは、服がはだけて髪も乱れていた。


「…………は?」


「昨日は凄かったですね~、ご主人様の全てをわたくしが包み込んで~、ご主人様も気持ちいいって言ってくださいました~」


 ポッとスイ子さんの顔が赤くなる。


「……そうなんですか?」


 アス子のほうに顔を向けると、瞳孔が開いて瞳のハイライトが消えていた。


「い、いや、ただ俺は一緒に寝ただけで……!!」


「一緒に寝たんですか……?」


 アス子の目が更に開かれる。


「い、いや寝たけど、やましいことは何もしてないから!!」


「昨日はご主人様の汚れを舐めるようにして~、体の隅々まで奇麗にいたしましたから~、大変でした~」


「ナニイッテンノ?」


 スイ子さんの言葉の意味が理解できなかった。


 しかし意識して見ると、風呂に入っていないときの体の不快感が一切なく、逆にリフレッシュしているまである。


「スイ子、あなたとは決着をつける必要がありそうね」


「もう勝負ついてますから~」


「ぐぬぬぬぬ~……勝ったと思うなよーー!!」


 アス子が走って下の階に行ってしまった。


「はぁ……スイ子さん、程々でお願いしますね……」


「はい~、アス子ちゃんが可愛くてからかい過ぎちゃいました~、あとで謝っておきます~」


「……はぁ~~」


 朝から深いため息をつくことになったが、俺の気持ちは晴れていた。


 こんな楽しい朝は生まれて初めてだからだ。


 異世界生活二日目、全自動生活に向けて今日も頑張っていこう。

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