2.再びゲーム・オープニング
ブックマークしてくれた方、評価を入れて下さった方、ありがとうございます。
―― 美しい森が深い霧につつまれる。それは破滅への序曲であることを、まだ誰も知らない ――
『ミストルティンの森、エルフの住む里』
目を開き、手を広げて握り感触を確認する。部屋の鏡に映る顔を見て、まじまじと確認する。エメラルド色の瞳に金色の髪がふわりと波打つ容姿は、ティアラが見知った姿だった。
「本当に、戻ってきたわ」
創世者様の言うとおり、望んだ世界の望んだキャラクターに転生したことを自覚し、おそろしくて体が震えた。思わず両手で体を抱きしめる。
「うん。攻略情報も覚えてる。なんなら前世の記憶もあるわ。なら前の失敗も踏まえて今世はもっと上手くやれるわね」
本当に、こんなに都合良く今世が始まって良いのだろうか。ティアラは少しだけ不安になった。けれど、持ち前の前向きな性格は、くよくよ悩むことをしなかった。
「まぁ、来ちゃったんだから悩むだけ無駄ね。なら、まずは―――」
領主に呼ばれているのだから、行かねばならない。
「領主様から、路銀をたっぷりふんだくらなきゃね!」
□□□
―― 高くそびえる城壁に囲まれた難攻不落の城塞都市ヴェルザン ――
『昼間の城下町』
里を出発し、きっかり半年かけて路銀を稼いで到着した。レベルも前回より高くなっている。
「まさに、パーフェクトだわ」
そして、自分はメインストーリーが始まるであろう道に立っている。
実は、ここ数日毎日立っていた。
(デュラハンが町に出没して、討伐隊が町を見回りするのよね。それで出会い頭にぶつかるはずなんだけど――)
誰とぶつかるかは場所と時間で変わるので、朝昼晩と場所を移動して待っていた。正直、ぶつかれるなら誰でもいいから、早く出会いたい。
『ドン!』
「うわぁ」
小さな衝撃と悲鳴を聞いて、ティアラが振り返える。そこには魔道士のエミルが倒れていた。
(なんで?!)
ここはティアラが倒れて擦り傷を負い、手当のために討伐隊メンバーの溜まり場に連れて行かれるはずだった。
「いってぇ。あ、そこのお嬢さん。怪我は――なさそうだね」
俺、かっこ悪いなぁと恥ずかしそうに頭をかいて、エミルは立ち上がる。そして去って行った。
「ま、ま、まって下さい手を擦りむいてますよ」
「え? ああ、この位なら大丈夫だよ」
恥ずかしくて早く立ち去ろうとするエミルの腕を掴む。ここで去られたら、メインストーリーが始まらないではないか。慌てたティアラはエミルに自分を連れて行ってもらえるよう、身の上を説明し始めた。
「じ、実は私、魔物討伐隊に参加するためにミストルティンの森のエルフの里から来たんです。紹介状もあります。ミカエル殿下のところに連れて行って下さい!」
「はい?」
「ほら、紹介状!」
ガサガサと手荷物の中から手紙をとりだし、エミルに見せたが、その顔は不信感をあらわにしていた。
「どーして俺が、魔物討伐隊やらミカエル殿下と関係あるって思ったのかな?」
「あ! えーっと。ま、魔道士の方特有の杖タコがあったので、魔物討伐のことはご存じだと思いまして」
「うん。君、怪しいね。すっごく怪しい」
「っ!」
しくじったティアラは、含み笑いをするエミルを見上げて呆然とした。
(まさか、二周目にしてメインストーリーに入れないかもしれないってこと?)
ゲームの予定調和に何とかしてもらいたいところである。
「でも、すっごく可愛いよね。デートに付き合ってくれたら、おにーさんがお願いきいてあげる」
「~~はい。行きます」
「へー。中々積極的なんだね。いいね。じゃあ行こうか」
そのままティアラの手を握る。その行為に驚いてティアラの顔は真っ赤に染まった。
「なんだ。積極的な割にはウブな反応だね」
「だって、こんなの知らないもの!」
デートも手を握るのも想定外だったが、今はエミルについていくしかない。ティアラは諦めて、繋いだ手を握り返したのだった。





