表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブを愛した私は愚かにも人生を3回やり直す  作者: 咲倉 未来
Last Attack

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/38

15.ハッピーエンド

 ―― 幸せになれるわけがない


 その言葉は、ラウルの心に苦く響いた。


 母はラウルを守るために死んだ。他にも理由があったかもしれない。でもラウルを守るという理由は間違いなく含まれていたはずだ。


 だから、一人でも生きてきた。

 今まで通り、『秘密の庭』を手入れして。

 今まで通り、フェアリー達にお菓子を作って。

 今まで通りのはずなのに全然違った。ちっとも幸せにならないのだ。


 でも、そんなこと言ってはいけない。

 だって、母が命を落としてまで守ってくれたのだから。



 ―― 幸せになれるわけがない


 母の命と引き換えに押し付けられた生は、ラウルにとって不自由だった。ただ消費するだけの毎日は、穏やかに虚しく過ぎるだけなのだ。母はラウルが一人で残って幸せになると思ったのだろうか。なら間違いだ。


 不幸が多少減っただけの、平和で寂しくて孤独な毎日が続いただけだった。


 母が自分にしたことと、ティアラにしようとしていることは同じ。


「手を放した人に幸せを願われても困りますよね。私が軽率でした。すみません」


 気づけば謝罪を口にしていた。願われたくなどない。願ってくれるなら、本当に願ってくれてたのなら――


「一緒に危険を乗り越えるなんて、魅力的な提案で困ってしまいますね」


 例え今以上の過酷な人生になったとしても。

 その選択を後悔することになったとしても。

 愚かだったと泣き崩れることになったとしても。


 一緒にいて欲しかった。

 それが母を看取ったラウルが、ずっとずっと言えなかった気持ちだ。


「ラウル様?」


「―― やるからには努力は惜しみません。ですが、やはり危険ですし、もしもの時はちゃんと一人で幸せになってくださいね」


 遠まわしすぎてティアラには伝わらない。体が離れゆっくりと首を傾げて見つめ返される。


「分かりづらくてすみません。私と一緒に居てもらえますか?」


「っ!―― もちろんっ~~~!!!」


 ラウルの言葉に歓喜したティアラは、背中に回した手をラウルの首に巻こうと勢いよく動く。

 そして、残念ながら全身に激痛が走り、そのまま倒れた。



「ティアラ。大丈夫ですか!」


「えへへ。幸せですぅ」

 涙目で顔を苦痛に歪めながら、それでも幸せだと言うティアラが、心配やら愛おしいやらで、胸がいっぱいになった。抱き起し、優しく優しく頭を撫でて慈しんだ。


 □□□


 ―― 二人の気持ちが成就してから数日後


『秘密の庭』の隣の館に用意した治療部屋のベッドの上で、ティアラは頭からリネンを被って抵抗姿勢をとっていた。部屋に入ったラウルは、その姿を見て笑う。一緒についてきたフェアリーも慣れたもので、ティアラのリネンをさっさと剥ぎとった。


「まずは薬湯です」


 差し出された器を、ティアラは無言で受け取り飲み干した。


「次は――――、マッサージにしましょうか」

 用意したボウルに湯を張り、マッサージオイルの香りを選んでサイドテーブルに置く。

 手慣れた様子で準備をするラウルを、ティアラは始終胡乱な目で見つめ続けた。


 準備の済んだラウルがベッドに腰をおろすと、待ってましたとばかりに遠慮なく威嚇した。


「その手には乗りません。今日こそは自分で薬を塗りますから!」


「ええ。そうして下さい」


 ニッコリと笑い、ラウルは自分の使命を全うすべく手を差し出した。

 しばらく見つめあい、根負けしたのはティアラだ。

 諦めてラウルの手を取る。ボウルにつけて温めた手にオイルをなじませ、ゆっくりと押してゆく。

 そのまま手のひらをほぐして腕から二の腕を揉みほぐす。両手を終えたら次はヘッドマッサージをするから寝るように伝る。


「ラウル様、これ以上はダメです」


「気持ちよくありませんでしたか?」


「気持ちよすぎて、寝てしまいます」


「ええ。良いことですね」


 口で不満を訴えてはいるが、その顔は瞼が少し下がりトロンとした目は焦点が合っていない。


「さぁ、寝転がって下さい」


 ラウルが少し力をかけると、抵抗もなくコロリとベッドに転る。

 そしてヘッドマッサージを始めればティアラはスヤスヤと寝てしまった。


 すべて終わると、一応念のため優しく肩をゆすって確認をとることにした。


「ティアラ。薬を塗りますが自分で出来ますか?」


「……うぅ。むりれす」


「なら、今日も私とフェアリー達で塗りますね」


 伝えたなら遠慮はいらない。背中に腕をまわしてクッションを差し込み少しだけ体を起こす。

 傷を確認するため寝間着の裾を少しだけめくれば、痛々しいそれは大分綺麗になっていた。


「うぅ。ラウル様、ズルイ」


 眠さに勝てないティアラは、不自由に口を動かして不満をこぼす。

 そして、いつも通りフェアリー達が薬を塗りたくるのを享受している。


 今日もラウルは嬉々として世話を焼く。

 ティアラは、それが恥ずかしいと思いつつ、心地よさに負けて世話を焼かれた。


 ―― こんな穏やかな幸せを、心から願っていた

 ―― 二人で過ごす時間を、ずっとずっと求めていた


 それは、傷だらけで駆け抜けた少女と、一人きりで耐え抜いた青年が、二人で寄り添い、羽を休め、共に歩むと決めたときから訪れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
咲倉 未来 作品紹介
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*

[創世者様シリーズ]の紹介ページへ

↓↓新連載・おすすめ作品を紹介しています!
作品紹介
※[活動報告]掲載の[作品紹介]へ遷移します
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ