3.秘密の庭の管理人
―― 城塞都市ヴェルザン城。城内 ――
『秘密の庭』
『秘密の庭』の奥まった場所は、フェアリー達ですら近付かない。
トリカブト、ジギタリス、イヌサフラン、スズランが植えてある。側にはキョウチクトウの木に赤、桃色、白の花が咲いていた。どれも立派な毒を持つ植物である。
ラウルは目についた葉を少しづつ摘み取り器に入れていく。毒に体を慣らすため朝食に混ぜるのだ。
館に戻り適当に用意した朝食を無心で口に運ぶ。
「味も苦みも完璧に消えてますね」
体調も崩れない。長年毒に慣らした体は反応すらしなかった。
ラウルの母親は毒を摂取して亡くなっていた。後ろ盾のないラウルは母親の死後、何度も毒を盛られて死にかけた。そんな生活に嫌気がさして、体を毒に慣らすことにしたのだ。
幸い、母親は秘密の庭を作り上げフェアリーの加護を受け立場を確立していた。
子供の頃からフェアリーと過ごしたラウルも同じく加護を受けている。
(この庭の管理人として過ごして、権力から遠ざかれば無難には生きていけます。早くフェアリーに帰ってきてほしいものですね)
殺伐とした陰謀渦めく城内で、安寧を貪って平和に生きるのがラウルという人物なのだ。そして美しい庭とフェアリーに癒されながら日々を送ることを心より望んでた。
食後の紅茶を飲みながら、届いていた手紙を確認する。
差出人不明のものは読まずに破棄した。次に手に取ったのはミカエルからの手紙だった。
「エルフの里から使いが来たのですね。討伐隊にも参加するのですか。中々強者の方のようでなによりです。エルフの休息に秘密の庭を提供して、私のサポートを望むのですね」
適切な依頼内容に、快諾の返信を送る。
その後は、手紙の指示に従い薬の準備をすべく立ち上がった。
「フェアリー達のお菓子の準備が無くなりましたから、その時間をあてましょう」
薬草を摘みに、ラウルは再び『秘密の庭』へと足を運んだのだった。
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金色のふわふわの髪に真っ白な肌は、人離れした美しさがあった。華奢な体躯に弓と剣を装備した少女が『秘密の庭』に入ってくる。
「初めまして。今日から魔物討伐隊に参加する、ハーフエルフのティアラです」
「初めまして。ラウル・シュル・オーベロンと申します。『秘密の庭』の管理人をしています」
想像していた強者のイメージが、ガラガラと音を立てて砕け散る。
「ここはフェアリーの住む庭でエルフの回復に適した場所だと伺いました。これから回復と浄化の度にお世話になります」
「はい。話は聞いています。気兼ねなく足を運んで下さい」
ティアラと名乗った少女は笑顔で手を差し出した。
彼女のまとう雰囲気は、いなくなったフェアリー達を思い出させた。
親近感がわき、自然と友好的に迎え入れる気持になり、差し出された手を喜んで握り返す。
が、その手がぐっと力強く握り返され、思わず焦った。なにか気づかないうちに不快な態度でも取ってしまったのだろうかと、慌てて彼女を確認する。
ティアラと目線が合うと、まるで蕾がほどけて花が咲くかの如く、蕩けるような笑顔になった。
その顔をまっすぐに向けられ、ラウルは戸惑い息を呑む。
「こんな素敵な庭の管理人なんて、素晴らしい方ですよね。ラウル様のこと、やっぱり好きです。愛してます」
「は?」





