2.メインストーリー手前
―― 高くそびえる城壁に囲まれた難攻不落の城塞都市ヴェルザン ――
『昼の城下町』
城まで続く大通りは人で溢れごった返していた。行きかう人々は活気に溢れ、市場は商品が所狭しと並んでいる。
とても、厄災に見舞われる直前の光景には見えない。
その、見知った光景を前にティアラは肩を落とす。
「戻ってきてしまったわ」
直前まであんなに拒否していたのに、気づけばティアラに転生していた。
三回目だ。
心当たりがあるとすれば、ラウルの最後の言葉を聞けなかったせいだろう。
(よく考えてみれば転生したら最初からやり直しなんだから、続きを聞けるとは限らないのよ……。うぅ、私のバカ!)
それでも、来てしまったものは仕方ない。そう割り切って今世をどうするか悩みに悩んだ。
はじめはエルフの里で使命を拒否して逃げようとした。けれど祖母に「世界が滅びてしまう」と泣きすがられて決心が揺らいだ。
どうにか旅立ちはしたものの、中々ヴェルザンまで足が向かず気を紛らわすために魔物を倒していた。
悩みすぎて無心に狩りをしたのがまずかったのだろう。気づけば過去最大のレベルに到達し、やることがなくなった。
そして、仕方なくヴェルザンの城下町まで来てしまった。
外套のフードを深くかぶり、見目麗しい容姿を隠しながら人込みを避けるように進んでいく。
すでにデュラハンの出没情報は噂で流れ、討伐隊は結成されている。
(出会わなければ、始まらないのよね――。そうだ! 適当に観光して出会ってしまったら諦めて討伐隊に参加しよう)
運を天に任せて歩き出したその時だった。
『どん!』
「きゃあ」
ズザザーっと勢いよく顔から転んだ。打ち付けた所がジンジンと痛む。
「すまない。ケガはないか?」
その声にティアラは起き上がれずに固まった。
その反応を大けがをしたと勘違いした声の主、は慌ててティアラを抱き上げる。
「この先で手当てをしよう。運ぶぞ」
髪を茶色に染め騎士団の服を着たミカエル・シュル・オーベロンによって、騎士団の溜まり場へと運ばれる。
メインストーリーが始まりを告げた。
□□□
溜まり場には、ゲイル・ハーゲンとカイ・ハーゲンの二人が待機していた。
ミカエルに指示されて、ゲイルがティアラの手当てを施してくれる。
その間に、エミル・ダールとフィン・バルグが示し合わせたように次々と現れる。
(結局こうなるのね……)
予想通りの展開に、ティアラは遠い目をしていた。
「お前はエルフか? なぜアルフヘイムへ逃げ帰らず我が国へ来た」
「私は、ハーフエルフのティアラです。世界を厄災から救うためにエルフの里より参りました」
「それを証明するものはあるか?」
「領主より紹介状を預かっています」
手元のカバンから紹介状を取り出し、ミカエルへ渡した。
聞かれたことだけに従順に答えれば、ゲームのシナリオ通りに事が運んでいった。
三度目にして予定調和を体感し、今更ながら過去の自分の前のめりな行動を悔やんだ。
「やる気があるなら、俺の討伐隊に配属するがどうする?」
そう言ったミカエルの顔は、ティアラを全く信用していない。
ほぼ初対面なのだから無理もない。ミカエルの討伐隊に入れるのは監視が目的だ。
しかも、ここでやる気を見せなければ冷やかしだと思われて追い出される。
「やる気……ですか」
前回、前々回と二度も活躍したのに、能力を疑われるなんて心外だ。
もちろんミカエルはそんなことは知らないが、ティアラをその気にさせるのには十分だった。
腹は決まった。今世も含めて三回とも完遂してやろう。
「私、こう見えて強いんです。誰よりも役に立ちますよ」
「は。面白い。中々の自信家だな」
こうして、ティアラは全く別の人生を生きる選択肢を切り捨てたのだった。





