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モブを愛した私は愚かにも人生を3回やり直す  作者: 咲倉 未来
Second Attack

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6.学者は、その優しさに心絆される

 ―― ミストルティンの森 入口 ――

『川辺の野営地』


(ふぅ。不味いですね)


 学者のフィン・バルグは栄養補給のためだけに味気の無い肉や焼き魚を口に運んだ。咀嚼(そしゃく)しながらノルマを消化する。


 先ほどから目の前の焚き火で毒々しい色のキノコが炙られている――気になって仕方がない。


「ティアラ。そのキノコはどうしたんです?」

「さっき採ってきたの」

「毒はないですが、本当に食べる気ですか?」


 返事は無い。既にむしゃむしゃと勢いよく食べていた。


「ごくん。回復するわよ。食べる?」

「不味くて有名な回復キノコです。私は遠慮します」


 ティアラが全てを平らげると効果が現れはじめる。肌や髪が艶をおび見るからに回復していた。

 連日の移動で体が重く節々が痛む。まだ数日続く討伐を考えれば、ティアラのようにちゃんと回復すべきなのは分かっていた。


(でも、私は魔物討伐隊から早く離脱したいんです)


 学者のフィンは戦略担当で討伐隊に参加していた。


 しかし、目の前で繰り広げられるのは、作戦など関係ないような小競り合いばかりだった。

 一度戦闘が始まれば、後方支援にまわるふりをして避難してばかりだった。いくら名誉ある任務でも、この適性の無い環境に身を置くことを苦痛を感じていた。


「――敵襲! 敵襲!」


 見張りをしていた、カイの声が響く。

 食事をとっていたフィンもティアラも丸腰だ。声に反応したティアラが近くにあった武器を掴む。


「フィン。これ使って」


 投げられた短剣を受け取る。

 その時、頭上から四体のゴブリンが落ちてくるのが見えた。


「うわっ」


 後ろに飛び退いて攻撃をかわす。

 短剣を振り回しながら、早く応援が来ることを願った。


(護身用程度の剣術しか使えないんです。下手に戦わないほうがいいでしょう)


 ふと、ティアラを気にした。フィンに短剣を渡して、彼女はどうやって戦っているのだろうか。見れば手に矢を持っていた。


(――っ。どうして矢しか持っていないんですか!)


 ティアラは、矢を握りゴブリンに突き刺していた。その想定外の戦い方に唖然とする。


「めちゃくちゃですね。しかし、ゴブリンが一体消滅しました」


 ティアラに二体のゴブリンが狙いを定めている。

 残りの一体はフィンに向かって距離をつめてきた。


「ああ、もう!」


 短剣を握り、目の前のゴブリンに斬りかかる。力任せに振り下ろした剣は外れ、よろけて膝をつく。

 そこにゴブリンが飛びかかってくるのがわかり、慌てて剣をまっすぐ突き出した。


 手応えがあり、ゴブリンが黒い霧となって消滅した。


「と、とにかく刺せばいいんですよ」


 学生時代に嫌々習った後は、学者だからと剣を握ることは避けていた。今さら取り繕ったところで上手く扱えるわけがなかった。


(とにかく当てることだけ考えましょう。格好悪いとか、下手だとか気にしている場合ではありません!)


 開き直ったフィンは、ティアラに向かうゴブリンを追いかけた。

 そして、短剣を頭に思いっきり振り下ろす。

 叩き切る衝撃とともに、ザラリと黒い霧になりゴブリンは消滅した。


「大丈夫ですか!」

「ええ。なんとか」


 矢しか持たないティアラに、何を言うか迷う。その武器で戦うのはよくないだろうと説教してやりたかった。けれど短剣を借りた手前、文句も言い辛い。


「その、短剣をお返しします。ありがとうございました」

「フィンは敵の奇襲でも、ちゃんと体が動くのね。安心したわ」


 短剣を受け取りながら笑うティアラは、フィンの戦い方を見ていたはずだ。

 あんな情けない姿を見られたことを、今さら取り繕いたいと思った。


「めちゃくちゃな攻撃でした。格好悪いですよね」

「ゴブリン相手に格好つけて殺されたら、そっちのほうが笑われるわよ。魔物相手なんて勝てば何でも良いのよ」


 ここは負ければ終わりの戦場。どんなやり方でもいい。勝ち続けるのが正解だ。


 それは正しい。


 けれど、ティアラの言葉がフィン気遣って選んでくれた言葉だと伝わってくる。

 ティアラは手持ちで接近戦に一番使える短剣を投げて寄越した。それでも勝てる余裕があるのだ。


 情けなくて腹立たしくて頭にきた。これ以上、学者を言い訳にして逃げ回る自分がみっともなくて、どうにも許せなくなった。


 ずっと荷物に括りつけて持ち歩いていただけの剣を腰に装備する。

 せめて、彼女が自分の戦いに集中できるように、自分の身ぐらいは自分で守ろうと決めたのだった。


 □□□


 次の遠征ルートが書き込まれた地図に、ティアラは張り切って赤丸を書いた。


「ティアラ。これは何の印ですか?」


「ここは、大トカゲの巣がある場所。今の時期なら卵を生んでるはずよ」


 ティアラの説明を聞いて、フィンのこめかみが僅かに動く。


「ここは、薔薇岩塩(ソルト・ローズ)が採れる岩場ね。こっちはグリ鳥がよくでるの。ここは回復キノコが生える場所。それから――」


「全て食糧とアイテム調達の場所ですか?」

「はい。私のとっておきです」


 元気よく返事をすると、溜息が返ってきた。


「貴重な情報ではあります。ですが食糧調達のために迂回するのは本末転倒です」


「えー。帰りでも良いので寄りましょうよ」


 食べ物は回復だけでなく、レベルアップも助けてくれる。たくさん食べておくほうが良い。


(あまり食べ物でレベルアップする習慣がないのね。このありがたみが共有できないなんて悲しいわ)


 強請(ねだ)ってみたが、フィンは首を縦に振ってくれない。

 諦めきれないティアラは、思わず口を尖らせて抗議する。


「まったく。小さい子供のようですね」


 フィンに笑われて、ティアラはムッとした。


「ルートに近いところは寄れるように検討しましょう。あと、ティアラにこれを差し上げます」


 フィンに渡された紙袋を開けると、色とりどりの粉末が入った小瓶がたくさん出てきた。


「これ、もしかして……!」


「特殊調味料セットです。あの回復キノコは、やはりそのまま食べるのはどうかと思いますよ」


 特殊調味料は、素材の効果を強化し味を変えてくれる便利アイテムだ。

 普通の店には売っていない。超超超レアなアイテムなのだ。


「どうしたの、これ!」

「ちょっとしたツテです。まだありますから無くなったら遠慮なく言って下さい」


 特殊調味料とフィンの顔を交互に見る。


「高価すぎて、頂けません」


 断腸の思いで断った。

 でも、なぜか紙袋から手が離れない。なぜ。


「言っていることと態度が合っていませんよ」


「うぅ。だって一度は試したいレアアイテム」


 ゲームで味は分からない。なら、やはり試したいと思うのは避けられない。


 それに不味い回復キノコが、あんなに不味いと思っていなかった。我慢しているが、できることなら美味しく食べたかった。


(これで美味しくできるなら、山ほど食べれるわ)


 そうなると、この特殊調味料は何としても手に入れたかった。

 悩むティアラの考えなどお見通しのフィンは交換条件を持ちかける。


「私も、美味しい食事にありつきたいんです。ティアラだって同じでしょう? 対価を気にするなら、私の食事当番を代わって下さい」


 そういう話であればお安いご用だ。ティアラは喜んで頷いたのだった。

【不味い回復キノコ】

丸くコロンとした形のキノコ。奇抜な色で傘に三つの斑点があり顔のように見えるが顔ではない(シミュラクラ現象)。吐くほど不味いが、飲み込めればちゃんと回復する。


【特殊調味料】

ふりかけた食べ物の味を変えて、効果を高めてくれる。

貴族育ちで野営ご飯に自信の無いフィンが、持てる人脈を総動員して金にモノを言わせて常備しているアイテム。色は七色あり味もそれぞれ違う。


【グリ鳥】

丸々とした地上を素早く走る丸い鳥。地面に横穴を掘って巣を作る。肉も卵も美味しい野営ご飯にもってこいの食材。繁殖力が高いので乱獲しても大丈夫。


薔薇岩塩ソルト・ローズ

薔薇の形の結晶化をする岩塩。美容に効くので遠征先のお土産として奥さんに贈ると喜ばれる。

味は塩と変わらないため、男性には塩としての需要しかないらしい。

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