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1.ゲーム・オープニング

 ―― 美しい森が深い霧につつまれる。それは破滅への序曲であることを、まだ誰も知らない ――


『ミストルティンの森、エルフの住む里』


 目を開き、手を広げて握り感触を確認する。部屋の鏡に映る顔を見て満足げに笑った。エメラルド色の瞳に金色の髪がふわりと波打つ容姿は、質素な綿のワンピースを着ても損なわれない美しさだ。


 「ふふ。どこから見ても前世の乙女ゲーム『World of Secret Garden』の主人公! ハーフエルフのティアラだわ」


 創世者様(そうせいしゃさま)の言うとおり、望んだ世界の望んだキャラクターに転生したことを自覚し歓喜で体が震た。


 思わず両手で体を抱きしめる。


 夢のような話が現実になったなら、おそれることなど何も無いと思った。

 これから起こる困難も闘いも、攻略情報を知り尽くしたティアラは、この世界で無敵なはずだ。


 「私は世界を救うの。そして、あのキャラクターと恋をするわ」


 きっと、素晴らしい人生が待っているはずだ。そう心躍らせながら、ティアラは自分を呼び出した領主のもとへと向かった。


 □□□


 ミストルティンの森の奥深く。こんこんと湧き出る水が滝となり周辺の大地を潤す川へと流れていく。

 その滝の流れ落ちる岩肌をくり抜き、景観に紛れるように、エルフの住む城と住居が造られている。


 ティアラは城の広間で、森を治める領主と大人達の前で跪いた。


 そのまま高貴な方々より有難い役目を頂き、ついでに可愛い服と武器と紹介状を貰うのだ。

 ニヤける顔を隠すため、ティアラは頭を下げて拝謁する。


「人とエルフの混血が、まさか役に立つ日が来るとはな。我らエルフは一度アルフヘイムへと避難する。ティアラよ。瘴気に耐える体を持つ者。そなたに役目を授ける」


「はい」


「これから城塞都市ヴェルザンに向かい、人間と協力して森を浄化し元の姿を取り戻すのだ」


「かしこまりました」


「うむ。別室にて旅支度をし、速やかに出発せよ」


「必ずや成功させてみせます」


 そう返事をし、ティアラは広間を後にする。

 侍女に案内された部屋で身支度を済ませ、足早に城外へと向かった。



 城の外に出ると、自分を育ててくれた祖母が立っている。


「おばあちゃん!」


「ティアラ、元気でね。私はアルフヘイムへ避難しなきゃならない」


「うん。また平和になったら、きっと会えるわ。私はお役目を果たしてくるわね!」


 特殊な身の上のティアラを引き取り、育ててくれた祖母と抱き合って別れの挨拶を済ませる。

 ハーフエルフのティアラは里であまり良い扱いを受けていない。そのせいか他に見送る者はいなかった。


(他種族との婚姻は禁忌ではないけど、あまり褒められたものではないから仕方ないわね)


 長寿のエルフから見れば、短命の人間と婚姻を結ぶことを嫌がる者が多いのだ。それでも祖母はティアラを引き取り育ててくれた。


(それで十分じゃない。おかげで私は旅立てるわ)


 頭の中は、これから始まる乙女ゲームのシナリオでいっぱいだった。

 哀しみも寂しさもない。清々しい旅立ちだ。


 里を出ると森の空気は重く薄暗い影が落ちている。もうすぐ完全に霧に包まれてしまう。その前に森を抜けなければならない。


 ティアラは荷物を背負い直すと、まっすぐ続く道を一度も振り返らずに駆け出したのだった。

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