第2話 馳せる者
轟音が響いた先の空は、渦を巻きながら赤く染まっていった。そして、雷鳴と共に稲妻が地上に向かって一直線に落ちた。突然の出来事でさっきまで賑わっていたレンガ街も静かになった。私と同じように赤く染まっていく空をただ見つめていた。その人々の間や私の髪の毛をいたずらに風がこうっと過ぎ去るだけだった。目を凝らして雷が落ちた先を見ていると、多くの鳥の影が羽ばたいた。そして、それは動き出した。
グギャァアアアアアアアアアアアアアア
かなりの距離があるここからでも目視ができるほどのそれは、黒い陽炎のような悪魔だった。大きな口を開け甲高い声でひと鳴きする。すると、ごおっと風が私達にぶつかってきた。
「・・・!なんだ、あれ」
「あ・・・悪魔だ・・・」
私と並んで見ていた男が呟いた。
「落ち着け!ここで取り乱したら、それが余計に皆を煽ることになる!」
他の誰かがその男の肩を掴んで言うが
「もう、おしまいだぁあああああああ!」
「うわぁああああああ!」
「助けて!いやぁああああ!」
男の声が阿鼻叫喚を呼び寄せた。我先にと助かりたい一心で逃げ出す人々。揺らぐ黒い人のかたちににた影が動く。
「な、!カテゴリー2のアラハバキ!?」
「ハ、ハンレスさん!私達もっ!」
片腕で悪魔の動きを見ていたが、私は走り始めた。
「ちょ!ハンレスさん!」
「すまない!私はあの悪魔を足止めにしてくる!避難誘導を任せたい!」
高い壁を飛び降りた。先ほどまで話していた彼は帽子を押さえながら飛び降りた私を見下ろしてくる。
「貴女が行かなくともっ!」
「そうしたいのは山々だが!この先にも町があった!救える者が戦わないでどうする!」
私は崖を下り、馬で手こずる男から手綱を取り上げひらっと乗りながら言った。
「御武運を!」
彼は帽子を高くあげ言った。それを私は見ると馬の腹を蹴り走り始めた。
ギャァアアアア
建ち並ぶ家々は破壊され、逃げ惑う人で溢れ返っていた。その中を走る。
「いやぁああ!助けてぇええ!」
「や、やめろ!やめてくれぇええ!ぎゃぁあ!」
丸坊主で絞った雑巾のような体の悪魔、アクリョウが女の体を握り潰した。魚のような尻尾をもち飛び回る悪魔のオニは逃げ惑う人を頭から捕食していく。図体のデカイ、アラハバキを含め悪魔はおよそ7体。
ギャァアアアア!
一体のアクリョウが私に気づき鋭い爪を振り被った。私は鞍に取り付けられていたライフル銃を手に取るとアクリョウに向かって撃った。乾いた音と共に鉛玉はアクリョウの右目を貫いた。
グォオオオオオオオ・・・
人のように両手で顔を押さえるアクリョウ。私はその隙にさらに馬を走らせるが、仲間の悲鳴を聞きつけた悪魔達は私に向かって襲いかかってきた。最初にきたオニはなんとか避けれたが、横から躊躇なく攻撃してきたアクリョウに馬ごと撥ね飛ばされた。私の体は道端で蹴られた小石のように転がって、痛さに堪えながら上体を起こした。
「あ、あははは、これはさすがにシャレになんないかぁ」
人よりも数メートル高い巨体のアクリョウが私の眼前にいた。ライフル銃もさっきの衝撃で随分と遠いところに落ちていた。
瓦礫の間を全力で駆け、レンガの壁を走りながら、腰に装備されていた2本の刀を抜く。ダンっと勢いよく壁を蹴り、さらに体を捻って回転と速度をあげ、逃げもしないアホの前に立ち塞がるアクリョウの首を掻き切った。
なにもかもがスローモーションのように過ぎたようだった。目の前のアクリョウをアッサリと首と胴に斬り離した、黒髪で青空のように綺麗な瞳をした十代くらいの女の子。黒い煙となって消えていくアクリョウ。地面に突き刺さった日本刀を抜きながらこちらを振り返った。




