第15話 脱出
ダンッ、バンッ、ダダン
跳躍してはアクリョウを撃ち噛みつこうとしてくるアクリョウを銃身で殴り飛ばした。ホームを駆け降り、大扉の横に設置されたスイッチをめがけ走る。襲ってくるアクリョウは数を減らすが、後ろを振り返った時には後部車両に群がるアクリョウが目に入った。
「・・・ただし条件がある」
優夜は言った。
「じょうけん?」
「俺が立花の負担を減らすために囮になる」
「それは!」
「立花が前線に立つならそれ相応の対応をする。俺達は兄妹だぞ?立花にできないことを俺がカバーするよ。絶対に一人で行動させない。狼ってそうでしょ?」
立花は何か言いたげに口を開けたがまた閉じた。
「それに、誰か一人は残らないとどっかの機関銃女が無茶しそうだしね」
そう言いながらハンレスを見る。
「もしかして、機関銃女って私!?」
「あんた以外に居るなら連れてこいよ」
えぇーと言うハンレス。
「わかった。それでいい。・・・どれをどうすればここから出れる?」
「おっと、うん。あの大扉の横に設置されたスイッチがあるはずだ」
ハンレスは立花の隣に立つと大扉の横に小さく設置された白っぽい箱を指差す。
「あれをどうすれば?」
「箱みたいなのが蓋の役割をしてるのさ、その蓋の下にレバーがあってそれを下に下げる。あの大扉を開けるための歯車が回るから、徐々に開いてくるよ」
「わかった」
そう言って立花は優夜と一緒に操車室を出た。
「はこ・・・」
走っている最中もアクリョウを蹴飛ばし銃でホームランを決めながら白い箱を目指していた。そして、大扉まで来ると車窓から見ていたその目的の物に向かって銃を振り上げる。ばきんっと音をたてながらカバーであった残骸が飛び赤い握りのついたレバーが姿を表す。それを掴むと下に躊躇なく下ろす。大扉はガシャン、ガタガタと左右にゆっくりと開いていき、装甲車両の顔を照らし始める。
「いぃよっしゃぁあああああああ!!」
ハンレスは立花がレバーを下ろすまでの一部始終を見逃さなかった。天井からぶら下がる紐を引っ張り、汽笛と黒煙が吹き出る。配管に接続されたアクセルレバーを手前に引きながら、ブレーキレバーをあげていく。ガタンっと音をたて軋んだ装甲車両は少しずつ前に前にと前進した。
「おぉおおおおおおりゃぁあああああああ!」
アクリョウの腹を斬り裂き胸部を蹴りながら外に押し出す。はぁと息を吐きながらぐるりと車両の中を見まわす。
(あと、三匹・・・)
手に持った刀をもう一度固く握りしめる。
優夜を観察するようにくねくねと動き隙を探しているようだった。
「かかってこいよ・・・人間ぐらいの能無しが!」
それに激昂したように一体のアクリョウが飛びかかってくる。そいつの伸ばされた腕を掴み自身に引き寄せると肩口から首を切り落とす。煙となって消えていく間を待つことなく、残っていたアクリョウが飛びかかる。
「はぁあああああ!」
レバーを下ろし、横をすり抜けていく装甲車両は所々アクリョウのせいで扉が壊されていた。その壊れた列車の開いた所から優夜がまだアクリョウと戦っているのが見えた。
「ゆうや・・・」
しかし、その列車が通りすぎるのを見ていた立花は後ろで手を振り上げたアクリョウに遅れて気がつく。がーーー
「せやぁあああ!」
アクリョウの腕を切り落とし胸部を二振りで切り裂いた。息を切らしふらふらとしながら、立花の飛び出していった入り口に立つが外を見たときだった。アクリョウにとどめをさした立花と目があったのは。
「立花!」
列車から手を伸ばすが大扉を通りすぎ、車両用の倉庫を飛び出た。
「嘘だろ、りつかぁ!」
列車はあっという間に倉庫から数メートルの距離を作っていく。優夜は歯軋りをすると飛び出していこうとしたが、ドォオオオオオオオンンンと黒煙をあげながら車両用の倉庫の壁に大穴が開く。そして、その煙の中を何かが走って出てきた。そして、その影が煙を破って出てくる。ヒヒーンと高い声で嘶く馬にまたがる立花がいた。
「り、りつかぁあああ!驚かせるなぁあ!」
優夜はへたっとその場にしゃがみこむ。
「や、やっちゃったぁあああああ!」
そこにハンレスがドタドタとやってくる。思わず2度見した優夜は
「あんた、なに来てんだよぉおおおおお!」
そう叫ぶとハンレスはあれ?っと顔を困らせるとふふんと笑いながら言った。
「あぁ、大丈夫だよ。この車両に関わらず全車両に自動操車の機能がついてるからね!」
「はぁあ?聞いてねぇよ・・・てか、その装置はあんたみたいなのがいるから開発されたんじゃねぇの・・・」
呆れながら言う優夜。
「そうかねぇ?って、違うよ!あれ、立花ちゃんは!?」
呆れたまま声の出ない優夜は外を指さす。
「立花ちゃん!いいところに!」
そう言いながら手を振る。
「で、やっちゃったってなに」
優夜はへたっと座り込んだままハンレスに聞いた。
「実はさ、ここの路線のポイント切り替えが手動式だったんだ、しかも三ヶ所」
「計算しとけよなぁあ!」
立花は馬を車両のそばまで寄せて並走する。
「立花ちゃん!こんどはポイントだ!あの先にレバーがあるだろう?あれを銃で殴り飛ばしてくれ!」
「わかった・・・」
そう言い立花は離れていく。さらに頭を抱えていた優夜だったが吹っ切れたかのように立ち上がる。
「りつかぁああああああああ!やっちまえぇえええええ!」
そう立花に向かって叫ぶと立花は銃を振り上げた。飛び出ていた鉄パイプを銃身で思いっきり殴りあげる。
ガションと音を新たな線路へと車両は入っていく。ギィイイイイイイイと音をたてながら列車は曲がっていく。
「うわぁああ!」
地図を持ったままハンレスの体が列車の外に出ていくが、扉の手すりに片手で捕まっていた優夜が飛んでいったハンレスの襟首を掴む。
「あんたなぁ!俺がハイブリットじゃなかったらミンチだぞ!」
「たよりにしてぇええええるぅう!?」
「重てぇ!やせろ!」
「えぇーーーーー!スリリムだよう!」
優夜は引き戻しつつハンレスを車両の中に放り込む。
「立花!あと1ヶ所!」
こくっと頷いた立花はライフル銃に装填すると馬上から次のポイントに狙いを定める。カチッとトリガーを引けば、弾き飛ばされた弾丸はカツンっとポイントのバーにあたり路線は切り換えられる。
「よし、立花戻って!」
優夜が叫ぶとハンレスが優夜を押し退けながら叫ぶ。
「ぎゃ!」
「ごめんよう!こんどは右だ!列車の前に出てそれから・・・」
ハンレスがそう叫ぶ途中で立花はなぜか左へと遠く離れいく。
「まさか、まじで列車の前に行くもりじゃ!」
「かも!?」
そう言った時だった。
二人の前を馬にまたがったまま車両の中をすり抜けていく立花をー。
だんっと着地しまた駆けて行く。ギリギリですり抜けていった立花に腰を抜かしたまま優夜はハンレスに言った。
「操車室行った方がよくね?」
「うん、そうだね。立花ちゃんに惚れてる間に行こうか」
ハンレスが列車の先端に位置する操車室に向かって走り出したころ、優夜は扉の外でポイントに向かって銃を振り上げガツンっと音をたてながら切り換える。
「思ってた以上だよ・・・本当に強いのは立花だ」
ハンレスはブレーキレバーを上げ、徐々にスピードを落としていく。操車室の外へつながる扉を開けると、立花が馬ごと乗車するのを確認した。
「私達はどこまでだって成長するさ。それに、これからもっと仲間も増えていくよ」
ハンレスは紐を引っ張ると装甲車両の煙突から黒い煙と音を吐き出される。
優夜は立花の手をとりながら、馬から降りるのを手伝ってやる。
「お疲れ様、よく頑張ったね」
立花をぎゅっと抱きしめ頭をポンポンと撫でながら言った。
「うむ、心配にはおよばず、なはず・・・」
「そうだね・・・」
優夜はそう言うとガシッと立花の両肩を掴み
「めっちゃ心配だったわ!」
突然の大きな声に立花はびびっと毛が逆立つほどに驚く。
「ヤッホー!ぉお?!」
ハンレスが扉を開けて入ってくるが、
「お兄ちゃんの心臓をまじで止める気だったでしょ!あれほどいったのに!無茶して!この子は!惚れ無いやつなんかいねぇよ!てかなぁ!馬で列車を飛び越えるんじゃありません!危ないでしょう!それとなぁ!・・・」
優夜がしゃべる度にびびっびびびっと震える立花を見ると、怖いものにびびりまくる子に恐喝をしているように見えた。
「まぁ、まぁ!ひとまず、脱出成功だ。次の國まで道中は長いから、十分に英気を養ってね!」
優夜と立花の間に割り込みながら言う。
「そうだね、俺達やっと外に出れたんだ」
「・・・じゆう」
ほんわかする優夜と事実を実感する立花。ハンレスは二人の肩を抱きながら言った。
「宣言通り、世界を変えようじゃないか」