第14話 追っ手
「車両ブレーキ、アクセルレバー・・・好調、好調と・・・」
配管から飛び出たレバーや圧力メーターを見ながら言った。
「後は・・・」
おおよそ憲兵が入ってくるだろう入り口前で優夜と立花は銃を持ったまま立っている。
「火力は十分・・・」
ハンレスは操車室を出ると、外にあった連結部分の確認を始めた。
その頃、ボンレスの率いる社員用車両ではすでに銃撃戦が始まっていた。
「くそ!・・・後どれくらいだ!」
「あと、・・・いや、もう出れる!」
操車室の扉から男が叫ぶ。
「全員撤退!乗れ!」
ボンレスの合図で物陰から射撃していた、男達が車両に乗り込んでいく。
「発車だ!」
天井から吊り下げられた紐を引っ張る。盛大な汽笛が倉庫内に響いた。
ドォオオオオオオオンンン・・・
遠くで汽笛と昼であるはずなのに時間にそぐわない雷のような轟音が響いた。それは何かが現れる合図のようにー
「な・・・なんだ・・・?」
ハンレスはホームのポイントを切り替えながら後ろを振り返った。優夜と立花に緊張が走る。
閉じられた扉の奥で人の叫び声がこだまする。何度か銃声も聞こえたがそれすらも聞こえなくなった。しんとした扉をじっと見つめていたが立花は何かを感じとると銃を構えた。銃を構えてから少しして大人が数人で開けていた扉がボコッボコボコッとへこむ。
「・・・悪魔!」
ハンレスには何が来ていたかわかった。
「ハンレスさん!操車室に戻って!」
「わかってるよ!ご心配どうも!」
優夜も銃を構えハンレスに叫ぶとハンレスはダッシュで操車室への梯子をかけ登った。
操車室に入ると同時に黒い塊が膨れ上がり、アクリョウが扉を破って入ってくる。
オォオオオオオオオオ・・・
「足止めするぞ!」
優夜と立花が銃を撃つ。ぞくぞくと入ってくるアクリョウの胸部に銃弾を打ち込んでいく、すると装甲車両がブシューと湯気か煙を車輪の所から吐き出す。
「エンジン始動!」
ハンレスは操車室の横の窓を開けた。
「乗れぇええ!発車だぁああ!」
「立花、頼める?」
「まかせろぅ」
優夜は立花の肩に手でポンと叩くと列車に向かって走っていった。立花はジリジリと後退りや角度を変えて、狙撃の必中を高めていく。優夜は列車の扉を大きく開け、
「立花!」
優夜が叫ぶと突進してくるアクリョウを避け立花は走り出す。
「よし、いっくぞぉおう!」
ハンレスは天井からぶら下がる紐を引くと盛大な汽笛と煙が吐き出される。配管から飛び出たレバーをゆっくりと手前に引く。ガタンっと音がすると列車が動き始めた。立花は滑り込みで列車に飛び乗った。ゆっくりと走り始めた列車は飛びかかろうとした小柄なアクリョウを跳ねのけながら進み始めた。
「いいぞ~!って、おい!」
ハンレスはブレーキレバーを引きながら言った。車両はブレーキがきき甲高い金属音をたてながら止る。
「どうしたの!ハンレスさん!」
優夜と立花が操車室の扉を開けながら入ってくる。
「大扉が閉めっぱなしなんだよぉ!」
車窓の向こうではアクリョウが破ったのと同じ汽車が通れるくらいの大きな扉が閉めきられていた。しかし、ドシャーンっと音とガタガタと車両を揺らした。
「ぐ、ぐずぐずしてられないよ!」
優夜が車窓の外の大扉とハンレスを交互に見ながら言った。
「あの大扉が開けばいいの?」
ハンレスと優夜の後ろに立っていた立花が言う。
「そりゃ、問題はないけど・・・」
「立花ダメ・・・」
優夜が立花に向かって言う。
「まだ、なにも・・・」
「外に出て開けてくる気だろ・・・」
アクリョウが止まったままの列車に飛び乗って来ているのか車両は大きく揺れる。
「このままいるのは危険だ。誰かが行動すればいいのだろう?」
「・・・立花ちゃん」
「立花、俺は許可しない。そんな事してまで俺は・・・」
「いいよ、好きなだけやりたいことをやっておいで」
ハンレスは立花に言った。
「あんた俺の話聞いてた?立花は・・・!」
「いや、立花ちゃんならできるよ。信じてあげて?」
優夜は眉間にシワをよせ拳を固く握る。
「・・・わかったよ。ただし、条件がある」
「準備はいいか?立花」
「うむ」
閉められた列車の引き戸に手をかけながら優夜は言った。
「よし、危なくなったら・・・」
「たよるので心配いらない」
それに少し笑って見せる優夜。
立花はライフル銃を扉に向かって構えた。優夜はそれが合図のように扉を開ける。さっきまで自分達が居たところは何ごともなかったかのようにただ静かだった。
物音ひとつしない時間が流れる。立花はライフル銃を構えたまま動かないが、優夜は腰にあった刀を二振りを一気に引き抜くと構えた。
ドンッ
突如上から降ってきたアクリョウは、
ギョァアアアアアアアア・・・
と叫びながらくねくねと四つん這いで優夜と立花に向かって突進してくる。
十分に接近したところで優夜はアクリョウの手を切り刻み、体を捻って回転を加えながらアクリョウの顔を斬りあげる。その優夜の横をすり抜け立花は飛び出していく。
「頼むぞ立花・・・お前が帰ってくるまで、ここは絶対にゆずらねぇええ!」
襲い来るアクリョウに向かって刀を振り上げた。