第11話 覚醒する神器
「匂いでお前らの位置がわかる、足音で方向がわかる!」
そう言いながら刀を引き抜き、横に払う。
「勝つ・・・絶対に、」
いつの間にか上空は曇天へと変わっていて嫌な風が吹き始める。
「私は誰にも負けない!生きて・・・生きてここを出るんだ!」
両足に力がこもる。ボヤけた視界の向こうではさらに数を増していく軍隊。構えた刀からはみしっと音をたてる。
「私はー」
吹き荒れる風の中立花はふと目を閉じた。
「私は大口真神ー、すべての罪を噛み砕くオオカミ・・・!」
ドクンっと鼓動が大きく動く。胸の奥底に眠る何かが目覚めるように。そして、身構えた体や足元から自身と蒼い焔が煌々と燃え盛る。とうに暗くなった中でその輝きはいっそう明るい。遠目の軍隊でさえ狼狽える。
「ぐ、ぅううううう!」
ギリギリと歯軋りをし、睨み付けた眼光はまさに獣のようだった。次第に周囲を嫌な雰囲気の風とは違った風が立花の周囲を取り巻くように吹き荒れる。
「ここで・・・断ち斬る!」
かっと見開き、刀を突き上げそのまま袈裟斬りに振り下ろした。
どぉおおおおおんんん・・・
轟音が響くと同時に青白く光る光の筋が真っ直線に天へ、空へ伸びる。すると光が上った先から曇天が一気に晴れて青空が広がっていく。
「立花?」
音に気がついた優夜は梯子の下を見るが砂煙にに覆われ何も見えない変わりに、
「なんだ!?り、立花!?うわっ!」
轟音が響くと鉛色の梯子にしがみつく優夜は下から沸き上がる砂煙に飲まれる。
「りつか!・・・あっ・・・!」
立花の目の前は一瞬にして無になった。全てが消し飛ばされ晴天の空の下、ただ立花は立っていた。だらりと垂れた腕、立っているだけで滴る血の音以外何も音はしない。持っていた刀は根元まで折れていた。その刀が力無い手から簡単に落ちた。そよぐ風が長い髪を凪いでいく。ふらりと動いた立花だったが、
そのまま立花は前のめりに倒れていった。
一部始終を見ていた優夜は
「り・・・」
「りつかぁああああああああ!」
そう叫ぶと登る途中だった梯子から手を離した。
(今・・・行くから・・・)
落下するなか優夜は手を伸ばす。すると、立花のように蒼い焔が優夜を包み込むと背中には漆黒の大きな鴉のような翼が現れる。
「立花!」
地上まで来ると何度か翼を羽ばたかせ降りると自然と巨大な翼は消える。立花の所に駆け寄り抱き起こす。
「立花・・・なぁ、起きてくれよ。俺だけじゃ、嫌だ・・・一人にしないでくれよ、りつかぁあ!」
立花の上半身を抱き起こすがピクリとも動かない。
「・・・俺との約束、守ってくれるんだよね?りつかはいつも、守ってくれたよね?」
頬にかかった髪を優しく払いのけた。
『お前が約束を破ったら、喰い殺してやるよ』
ピクッと手先が動く。その些細な仕草を見逃さなかった。ゆっくりと瞼を開け、呼吸をする。
「りつかぁあ!」
ぼろぼろと優夜は涙を溢す。
「・・・らしくないよぅ?あなたは、笑ってる方がらしい・・・」
ふにゃっと笑う立花。優夜は涙を腕で拭うと笑ってみせる。
「お兄ちゃんも立花が笑ってる方が言いと思う」
優夜は歯を噛み締めると立花の腕を自分の肩にかける。
「もうすぐだよ。登れそう?」
「がんば、る」
高くそびえる壁に向かって歩き出した。
壁の頂上に二人同時に手をかけるとやっとの思いで体を乗っけ、体を投げだしながら寝転がった。
「・・・やっと着いたぁあああああ!」
「・・・もう、無理」
それぞれが思い思いを言い終わると、優夜は立花の投げ出された手をとった。
「よかった・・・生きててくれて。やっぱり二人じゃないとなんにもできなさそうだよ」
「・・・そうか、しょうがないの」
そして、どこまでも広がる空を見上げる。
優夜は体を起こすと今まで自分が住んでいた所を見る。
(けっこう遠かったんだな・・・)
そんな事を思いながら後ろを向いた。
「・・・立花、俺さあの人が世界を変えたいって言った時反対したよな?」
寝転がったままの立花に優夜は言う。
「・・・そうだね」
「我を張ってでないなんて言わなくてよかったよ」
優夜は立ち上がりながら言う。立花は優夜につられるように、ティベリックとは反対の方を見てみる。その先には広大な緑の高原と点々とある森。その中に線路がいくつかある。
「これが外?」
「うん、多分そうだよ。やっとだ・・・」
ただただその広さに呆然とする二人。
「・・・ハンレスさん」
「え、どこ!?」
立花の指をさす方向には荷台を引っ張りながら走ってくる馬がいた。その上で陽気な顔で手を振るハンレスがいた。
「・・・まじで、なんなの。あの人は」
片手で頭を抱える優夜。
「ん・・・」
そんな優夜に手を出す立花。
「どうしたの?」
「いくら視力が回復してるとはいえ、まだ見えずらいので」
「・・・そうだね。行こうか」
優夜は立花の手をとると、立ち上がった立花と位置を合わせる。
そして、飛び降りた。




