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尊空名君 〜元宦官の王家の公子が仲間や友達と共に平和にする理想都市〜  作者: イーサーク
第二章 神水教編 二 〜尊空の討伐軍 対 神水教の川竜群〜
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義勇隊 一 〜総大将は怒って、哀しんで、笑う〜

 都市の外にある討伐軍本営で、総大将を初めて迎えての軍議が始まった。

 天幕の中で総大将サンドクは一番奥の席に座り、列席者たちが周りに座る。


 殺伐とした空気の中、ホホンは天幕の隅でサンソンの側に立っていた。


 初めに総大将の右の席から、黒い甲冑を着た大柄な壮年の男が挨拶する。


「第四軍大将軍バンレイだ。サイシイと同じく副将を務める」


 尊空を守る軍隊の最高指揮官である。

 彼の強面の髭面が、いきなりニイッと笑った。


「久しぶりに一緒に戦えるな、ドク!」

「おう! またよろしく頼むぞ、バンレイ!」


 総大将と大将軍の笑顔に、場が和やかになった。

 二人は幼馴染で、十七年前の大戦でも共に戦ったという。


 次に、バンレイの右側から立ち上がったのは、文官服を着た丸顔で小太りの中年男だった。


琉水県りゅうすいけんでの案内役を務めますリュンセムです」


 そこまで言うと、リュンセムは慟哭した。


「感謝します、ドク殿。あなたに来てくださるとは……討伐軍の勝利は間違いございません!」

「ああ、リュンセム……お前の家族も浮かばれるだろう」


 泣く彼に、サンドクは哀れみを示す。


 リュンセムは、琉水県を統治した元知事で、大規模な土地開発を成功に導いたという。

 しかし息子を連れて尊空にいた時に、神水教しんすいきょうの反乱が勃発。

 琉水県は奪われ、瑠岸の城にいた彼の家族は殺されてしまったのである。


 続けて、総大将の左側にいるシャウレラ、サイシイが改めて挨拶した。

 以上、この五人が、討伐軍を指揮する五人なのだ。


「それでは……」

「お待ちを」


 会議の進行をサンソンが遮って、皆を振り向かせる。


「先に、皆様に聞いて欲しいことがあります……」


 サンソンは、討伐軍に集まった義勇兵について語った。

 パヤンの友達の弟や自身の友人など、戦えない者が大勢いることを。


「……何が義勇兵だ!」


 聞き終えて、サンドクは激怒する。


「タンたちを送ったのは、いったいどこのどいつだ!?」

「よ、よろしいではありませんか! 彼らは神水教を討つために集った兵たちなのですぞ!」

「バカを言え、子供まで戦わせる気か! リュンセム。仇討ちのために少しでも多くの兵士を欲するのはわかる。だからといってこんな間違いは駄目だ!」


 サンドクはそう戒め、リュンセムをたじろかせる。


 義憤に駆られるサンドクに、ホホンは頼もしく思った。

 やはりこの人は優しくて、民思いなのだ。

 間違ったことは許せない、姫様と同じ人なのだと。


「よし! すぐに彼らを返そう!」

「お待ち下さい、サンドク殿!」


 そんなサンドクを、シャウレラが止める。


「戦えない者を助けるのは、わたくしも賛成です。ですが義勇兵をただ送り返すのはよくありません」


 シャウレラの反対に、彼女を慕うサンドクとホホンの二人は驚かされた。


「俺も同意見だ」


 彼女に続いて、バンレイが口を開く。


「義勇兵は、サンドク。お前と尊空のために集まってきたんだからな」

「わしと、尊空のため……?」

「そうだ。それを送り返してしまえば、彼らの好意を無下にしてしまう」

「……どういうことだ?」


 サンドクは、意味が分からない。


「ドク殿、今の尊空の人々は、王国と尊空への愛情が高まっています」


 そんな彼に対し、シャウレラは弟子に言い聞かせるように語り出した。


「何を言うんですか。シャウレラさん……。尊空の人々は、昔からそういう人たちではないですか?」

「彼らのその愛情が、あなたの想像以上に膨れ上がっているのです。時に事の善悪を間違え、このような過ちが起きてしまうほどに」


「……なんですって」

「故郷を愛する彼らは、あなたのご帰還と総大将任命によってますます盛り上がっています。『王国のために、尊空のために。英雄サンドクに力を貸せ!』と叫び続け、討伐軍に集まる義勇兵や支援物資は、後を絶ちません」


「それを、誰かがやり過ぎて……戦えない子供たちまで送られてきたと?」


 サンドクが呆然となって聞き返すと、シャウレラは悲しそうな表情を浮かべながらうなずいた。


「その通りだ」

 続いて、バンレイが言う。


「義勇兵の中には、自ら志願してきた者もいる。英雄と呼ばれるお前に憧れる者、お前の力になりたいと思う者たちがな」


「……そんな彼らを、わしが送り返してしまえば、確かに、みんなの想いを踏みにじってしまうな」


「義勇兵たちは失望を味わいながら家に帰り、家で待っていた一族や隣人たちに恥だと思われ、罵られ、自分自身を責めるだろう」


「かといって戦場に連れて行けば……」

「大勢死ぬ。川竜せんりゅうに餌をやるも同然だな」


「……このような事、以前からあったのか」

「戦死者、自殺者共に出ている」


「兄ちゃんとバンレイは、止めようとしたんだよな?」


「当主、大将軍として、文官たちと力を合わせて何度も抑えようとしたが、未だにこのザマだ。すまん……」


「……間違いは許すわけにはいかないが、みんなの想いは、善意として尊重しなければいけないか」


 サンドクのその言葉を聞いて、


「そんな、彼らを無理やりにでも送り返すわけにはいかないんですか!?」


 ホホンは思わず、叫んでしまった。


「控えなさい、ホホン」


 そうしてしまったために、術士の師であるシャウレラに止められる。


「ですが、師匠……こんなの……」

「戦えない義勇兵を送った者たちを、一方的に悪だと決めつけてはいけません。彼らの想いは、あなたと同じなんですよ」


 師匠に叱られ、ホホンは何も言えなくなってしまう。


「……ホホン、昔の尊空は違ったよ」


 そこでサンドクが哀しそうに話しかける。


「わしが君と同じ歳の頃の尊空は、こんなことは起きなかった。人々が、戦えない者を戦場に送るようなことなど……」

「……どうして、変わってしまったんですか?」

「それは……」


 ホホンの問いに、サンドクが答えにつまると、


「全ての原因は、尊空の統治者であるサン家にあります」


 誰よりも早く、サンソンは断言した。


 文官と言おうとしたバンレイ。モオレエのせいにしたかったシャウレラ。

 二人より、この場にいる誰よりも早く、言ったのだ。


「そうですよね、父上?」


 そう言ったことで皆の反感を受けながら、サンソンは聞き返す。


「……そうだ」


 サンドクは、うなずいた。


「全ての原因と責任は、尊空を治めるわしたちサン家にある。尊空がこうなったのは、当主である兄ちゃんが無能で、わしがずっと帰らずに放置していたからだ!」


 さらに彼は、ホホンに呼びかける。


「ホホン、覚えておいてくれ。古今東西、統治における責任は、全て統治者にある……。そして、尊空でモオレエが暴れ、反乱が起き、人々が過ちを犯しているというでのあれば……尊空の統治者であるわしらサン家が何とかしなければな!」


 皆が押し黙る中、サンドクは覚悟を決めて、


「もちろん、わしらだけでは力が足りない。頼む、みんな。手を貸してくれ! 今、起きている事態を一つ一つ解決するために!」

 

 統治者として、皆に呼びかける。


「真実や言いたいことがあれば何でもはっきりと言ってくれ。わしは聞きたい。統治者ならば向き合わねばならん! 総大将になったからには尚更のことだ!」

「「は、ははっ!」」


 軍議にいる者、皆が賛意を示す。

 ホホンは、尊敬の念を抱きがら一礼を持って答えた。

 総大将として、素晴らしい器の持ち主であるサンドクに。


 ただし、反意を持った一部の者の返礼は形だけだった。

 それを、サンソンは見逃さない。


「で、総大将。義勇兵の件、具体策にはどうする?」

「……まだ何も浮かばん」


 バンレイに問われると、サンドクは重々しくそう答えるしなかった。


「バンレイ、大将軍として何か策はあるか?」

「いや、押し付けてすまないが、こういう政事は、やはりお前が一番だ」


「いいや、一番なのはメルだった……」

「ああ。そうだったな……」


「すぐ戻るから時間をくれ。考える……。ソン、一緒に来てくれ」

「はい。ホホン、君はここで待っててくれ」


 サンソンは父親と共に天幕を出て、ホホンたちは取り残された。


「ホホン」

 隣のサイシイに話しかけられ、ホホンは振り向く。

「やはり”英雄”だな。サンドク殿とサンソン殿は……」

「……はい」


 その事に、ホホンは戸惑いながらもうなずいた。



「……ホホンに最初から言えなかった」

 外で二人だけになってから、サンドクは先程の己を恥じる。

「母上に叱り飛ばされますね」

 母上は厳しいなと思いながら、サンソンは言った。


「ああ。目に浮かぶよ……で、ソン。子供たちがこうなっているというのに、お前が怒っていないということは、既にお前の中で策はあるんだな?」

「はい」

「聞かせてくれ」

「義勇兵全てを総大将サンドクの名の下に集めるのです。子供たちは、子供たちだけで。それで……」


 それを聞き終えた後で、戻ったサンドクは皆に説明した。


「……なるほど。なかなかよさそうだな」


 バンレイが感想を述べた。


「シャウレラ、どう思います?」

「よろしいかと思います。それならば皆の想いを尊重し、戦えない兵の命を守ることもできる」

「そうですね。それで、ドク。俺に相談とは?」


「そのために適した人材を教えてくれ。特に少年たちの隊長になれる者を。わしは帰ってきたばかりだから、今の尊空の人材について詳しく知らない」

「わかった。少年たちの隊長にはうってつけがいる。俺の息子だ」


「……待て、待て、バンレイ。お前の息子たちは、それぞれ北と西に行っているはずだろう?」

「下の方が、西の軍を辞めて、尊空に帰ってきている。今は義勇兵として、ここ本営のどこかにいるはずだ」

「本当か!?」

「ああ。軍を辞めた時は、少年兵部隊の隊長をしていた」


 それから軍議が終わった後、サンソンとホホンは、喜ぶサンドクに連れられて、大将軍の息子に会いに行く。


「ところで、ソン」


 その途中で、密かに父親に、サンソンはたずねられた。


「タンたちを一刻も早く助けたいのはわかるが、どうしてあの場で話したんだ?」

「この件を、バンレイ将軍が御子息を推薦するまで、最も迅速に進めるには、あそこで話すのが一番でしたので」

「……こら」


 ちなみにその日の晩、サンドクが全ては自分たち兄弟の責任だと言ったことを聞くと、サンダンは大笑いし、ロオハクは感涙したという。

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