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09 トラウマの出来上がり




『ぴぎゃああぁぁぁああぁぁっ!!』


「ろったん、やり過ぎ」


「わざとじゃなかったんだけど……」


 呼子よぶこの帽子のもう一つの効果、連続魔法。

 そっちの方を完全に忘れてしまっていた。

 二重の火炎に包まれて泣き叫ぶシルフィードが哀れに思えてしまい、再び詠唱を開始。

 今度は低級の水魔法を選ぶ。


「あまねく水の精よ、我が声に耳を傾けもう出来た! スプラッシュ!」


 水球が炎上するシルフィードを包み、更にその上から追加で不必要な水球が弾ける。

 詠唱時間が半減しているため、従来の詠唱では中途半端で締まらないのも新たな発見だった。


 水球によって、シルフィードの体を包む炎の消火に成功。

 水が弾け、解放された彼女は床にへたり込み、目尻に涙を溜める。


『ふ、ふぇっ、うええぇぇぇぇぇぇぇえぇっ、何アレ、酷いよぉっ! 追加攻撃とか鬼かよぉぉぉっ!!』


 そして、まるで子供のように大泣きを始めてしまった。

 実際、この精霊の外見年齢はウィンよりも年下、大体十二歳くらい。

 見た目は完全に子供である。


「うっわ、泣いてる。完全にろったんのせい。責任取れ」


「返す言葉もございません」


 泣きわめくシルフィードに近寄り、そっとしゃがんで目線を合わせる。


『ひっ……!』


 引きつった悲鳴と共に後ずさりされた。

 自業自得とはいえ、軽く傷つく。


「えっと……、ごめんね。もう大丈夫だよー」


『お、お願い、殺さないでぇ……』


「うん、殺さない。ここで何をしてたのかな、話してくれる?」


『は、話すっ、何でも喋りますから命だけはぁ……』


 まるで拷問を受けて心が折れた捕虜のようだ、タリスはそう思った。


『じ、実は、頼まれて探し物してただけなの……。連れて来られただけで、別に悪いことしてた訳じゃないの……』


「探し物? この地下図書館で?」


『うん。地下一階の禁書魔術書の中から、学園に眠る秘宝についての記述を探せって』


「秘宝……」


 なんだかとっても心当たりがある。

 きっとその秘宝、具体的には五千万枚の金貨なのだろう。


『それで、あたいはヨリシロの本から遠くに離れられないから、鎧を持ってきてもらって、魔力を注入して動がして、探してもらってたの』


「把握。で、あんたに探しものを頼んだのは誰?」


『あんたじゃないわよ! あたいはシェフィ、可愛いシェフィちゃんなんだから!』


 タリスに対して反抗的な態度を取る風の精。

 代わりにロッタが、脅えさせないよう優しく、優しく尋ねる。


「ねえ、シェフィ。探し物を頼んだのは、誰かな?」


『ひっ……!! は、話す、話しますからぁ……』


 奥歯をガチガチを鳴らされてしまった。

 そんなにトラウマなのだろうか、ダブルフレイムバースト。


『で、でも、本当に誰か分からないの。ローブと仮面で顔は隠してたし。体格と声からして、男の人だとは思う』


「なーるほど、それだけで容疑者はだいぶ絞れる」


「そうなの?」


「そうなの。図書館の地下に自由に入れるのは、メダルを管理する立場にある教員のみ。この時点で犯人はほぼ間違いなく、この学院の男性教諭」


「おぉ、確かに。考えてみりゃ簡単なロジックだ。納得納得」


 タリスの推理に、うんうんと頷くロッタ。

 その脇で、高位の風精霊は怯えて縮こまっている。

 彼女の様子に、タリスは先ほどのロッタの活躍を思い起こす。


 あまりに速過ぎる詠唱と、強力すぎる魔法の威力。

 そして何より、今まで聞いたこともない、前代未聞の魔法の連続発射。

 こんな騒動の犯人よりも、こっちの方がよっぽど気になる。


「あのさ、ろったん。聞いてもいい?」


「なんでもどうぞー」


「じゃあ遠慮なく。ロッタ、私より強いよね」


「え——」


 あだ名ではなく名前呼び、真剣な声色、そして思いもよらない質問内容。

 どう答えればいいのか、何を言えば正解なのか。

 言葉に詰まり、適切な返事が返せない。


「ま、まさかー。だってあたし第五席だよ? ダルトンに勝てたのだって、本当にたまたまで……」


「そう。昨日のキミはまさにそうだった。でも、今日のキミは明らかに違う。どういうこと? ダルトン相手には、本気を出していなかっただけ……?」


「いや、その……」


「……まあいい。データは自分で集める主義」


 表情が緩み、普段通りの、どこか間延びした喋りに戻る。


「これから近くで研究してやればいい。これからもよろしく、マイフレンドろったん」


「……うん。今日から友達だね、タリス」


 握手をがっちりと交わし、笑い合う二人。

 その間も、シェフィは怯えた小動物のまま。

 ガチガチと奥歯を鳴らすシェフィをじっと観察し、優しく声をかける。


「ねえ、シェフィ?」


『は、はひっ、なんでございましょう!』


「キミはこれからどうするの?」


 彼女の魔力の発生源は、部屋の中央に開いたまま置かれた魔導書。

 あれが彼女のヨリシロなのだろう。

 拾い上げて内容に目を通す。


「ふんふん、最上級風魔法、風葬散華タービュレント・ブリアルの術式、詠唱方法……。これ暗記するの大変そうだな……」


『あ、あのっ……』


「キミはさっき、こう言ったね。連れて来られたって。つまり、この学院の所有物ではない訳だ」


『その通りです……っ』


「死にそうな顔して怖がらないでよ、もう燃やしたりしないから……」


 青ざめて涙ぐみ、恐怖に引きつった顔を向けられると、さすがに傷ついてしまう。


「悪さするつもりが無いならさ、新しい持ち主とか探してあげるよ?」


『そ、そんにゃ、滅相もありませんっ! ロッタン様のお手を煩わせるなどっ』


「待ってそれ名前じゃない」


『私はこれからもロッタン様にお仕えしますぅっ!』


 あだ名を本名と誤解したまま、本の中に飛び込んだ風の精霊。

 開いた魔導書がパタリと閉じ、開こうとしても開かなくなった。


「お話は終わった? では、がーくんが先生方を連れて来るまで暇なので、本来の目的を達成するとしよう」


「本来の目的って……、あぁ、資料十年分の持ち出しか」


「そう、武術測定の資料、過去十年分の持ち出し。それが我らに課せられし任務」


 動く鎧と精霊の退治とは比べものにならないほど簡単なクエストを終わらせるため、二人は資料棚を漁り始めた。




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