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08 うっかりオーバーキル




「リビングアーマー。鎧に怨念や魔力が宿り、動きだしたモンスター。危険度は☆2」


 普段通りのテンションで解説しつつ、カンテラを足下に置くタリス。

 カバンから三本の短い棒を取り出すと、手早く連結させ、穂先を覆うカバーを取り去って槍が完成。

 ロッタへとカバンを放り投げる。


「わっと!」


 彼女が荷物をキャッチしたと同時、タリスは猛然と突進。

 手前側の個体の兜を、一撃で刺し貫いた。

 リビングアーマーの急所は頭部。

 ここを潰せば魔力を維持出来なくなり、ただの鎧に戻る。


 ガラガラ、カラン。


 体を繋いでいた魔力が途切れ、パーツが床に散らばった。

 攻撃の隙を付き、もう一体のリビングアーマーが剣を振り下ろす。


「甘い」


 槍を薙ぎ払って、柄で兜を殴打。

 衝撃で兜が破損し、鎧は転倒する。

 トドメにフェイスガードの隙間へ穂先を突き刺すと、リビングアーマーは完全に沈黙した。


「ふぅ、やっつけた。ろったん、荷物ありがとう」


「どういたしましてじゃなくて、なんで魔物が!? これじゃあまるで本物のダンジョンじゃん!」


「確かに異常事態。でもま、片付いたことだし——」


「片付いちゃいねぇぜ。足音はまだ、十体分くらい聞こえる」


「わーお」


 ウィンからの報告を受け、タリスはあまり表情を変えないまま驚く。


「ウィン君、耳良いんだね」


「まあな、耳だけじゃなく、身体機能にはかなり自信あんだ。それよりタリス、どうする」


 今この場で、最も階級の高いメンバーはタリス。

 方針決定の権利は彼女にある。


「学院への報告はすぐにしなきゃ。でもこのままにもしておけない。がーくんは戻ってこの事を先生に伝えて。私とろったんでお掃除といこう」


「うぇー、俺も暴れたかったのにぃ。伝令役なら一番下っ端のロッタでいいだろ?」


「だってがーくん怖がってたし」


「こ、怖がってねぇし……」


「それに、ろったんの力、じっくり見てみたいから」


「……へいへい、了解。俺も下から数えた方が早い下っ端だしな」


 渋々納得すると、隠し扉のカギであるメダルと予備のカンテラを受け取り、走り去っていった。


「私たちも行こう。荷物、まだ持ってて。両手じゃないと槍使いにくいから」



 ☆★☆★☆



 三体のリビングアーマーが、一斉に襲いかかる。

 時間差で繰り出される三つの斬撃。

 タリスは独特の足さばきで掻い潜り、一体ずつ的確に、頭部を刺し貫いていく。


「これで最後、全部片付いた」


 残る一体も沈黙。

 十体以上存在したリビングアーマーは、彼女一人によって全滅した。


「さすが、星斗会ステラクイント第三席……」


「この程度なら無傷で楽勝。とは言っても、らっさんやありちゃん会長には全然敵わない」


 第二席であるラハドと、首席のアリサはこれ以上。


(でも、神話級装備でガチガチに固めた今のあたしなら、どうなんだろ……)


 今の自分の全力がどの程度か、ロッタは正確に把握できていない。

 果たしてアリサに届くほどの力なのか。


「さて、片付いたところでいざ地下二階。資料を漁って帰ろう。原因究明は先生方のお仕事」


「そうだね。一応荷物、まだ持っておくよ。下にも敵がいないとは限らないし」


「確かに。気を抜くにはまだ早い」


 本の迷宮を抜け、薄暗い螺旋状の石段を一段ずつ下へ。

 敵の奇襲に備え、細心の注意を払いながら下っていく。


 幸い何事もなく、階段を下りきった二人。

 前に出ようとするロッタをタリスが押しとどめ、そっと地下二階の様子を窺う。

 地下二階は、四方の広さ五十メートルほどの四角形の空間。

 学院の資料が入った棚が、壁沿いに並んでいる。


 そして中央には、筆記に使用する机が置いてある——はずだった。


「……状況は思ったより深刻かも。ぶっちゃけかなりヤバい」


「一体何があったのさ……」


 強張った表情で、ロッタを手招きする。

 中で何が起きているのか、タリスの隣から恐るおそる覗きこむ。


 部屋の中心に並んでいたのは、大量の騎士鎧。

 数は五十を優に越えており、リビングアーマーにされていた物と完全に一致。

 だが、それよりも目を引くのが、強大な魔力を秘めた半透明の存在。

 白い布に身を包んだい藍色の髪の少女が、鎧に魔力を注ぎ込んで、リビングアーマーを造り続けている。


「あれは、シルフィード……! 魔導書に宿る上位の精霊で、風魔法を司るヤツだよ。危険度は☆8、学生じゃとても対処できない……」


「さすが魔法科首席、よくご存じ。つまり、私たちではどうにもならない。よし、一旦帰ろう」


『帰すとでも思う?』


 耳元で聞こえた声に、二人の体中の毛が逆立つ。

 目を向ければ、至近距離で笑みを浮かべる精霊の姿。

 タリスは反射的に飛び退きながら、突きの連打を浴びせる。


『遅いのよっ!』


 文字通り風のようにひらひらと舞い、槍の穂先は少女に掠りもしない。


『今度はこっちの番っ! タービュランスっ!』


 無詠唱で放たれた暴風が二人を襲い、鎧置き場まで軽々と吹き飛ばす。

 タリスとロッタの体が鎧の群れに激突し、盛大な破砕音を響かせた。

 全身を打ち付けながらも、何とか受け身を取って立ち上がるタリス。

 一方のロッタは、プロテクトリングの効果によって痛くもかゆくもない。


「まずい、バレてた……。しかも無詠唱のインスタント魔法なのにこの威力……」


「えっ? ……あぁ、これのおかげか」


 自分の状況とタリスのコメントのギャップに戸惑うが、右腕にはめた腕輪が原因だとすぐに気付く。


『あんたたち、せっかくあたいが頑張って造ったお人形を壊しちゃって! 許さないんだから!』


 明確な敵意を向け、全身から魔力を迸らせる風の上位精霊。

 たとえ勝てなくても、戦うしか道はない。

 覚悟を決めたタリスが、精霊に視線を向けたまま問いかける。


「ろったん、一番得意な魔法なに?」


「得意な属性? 火炎魔法だけど……」


「私が時間を稼ぐ。その間に詠唱しまくって溜めに溜めた火炎魔法ブチ込んで」


「えぇっ!? でも、こんな場所で炎ってまずくない……?」


「棚に防火用の魔術障壁が張られてる。本の心配するなら、むしろ火炎魔法が一番安全」


「そうなんだ……。分かった、やってみる」


「うん、なるべく死なないように頑張るけど、出来るだけ早くお願い。じゃあ、行ってくる」


 シルフィードに立ち向かう彼女の背中を見送り、ロッタは詠唱を開始。


 集中力を高め、練り上げれば練り上げるほど、魔法は威力を増す。

 イメージを高めれば高めるほど、魔法は精度を増す。

 威力と精度を両立させるためには、詠唱で集中力を高めつつ具体的なイメージを作り出す必要がある。


「大気に満ち満ちる炎の精霊たちよ、我が声に耳を傾けたまえ——」


 魔法使いは魔法の発動に時間がかかる。

 そのため一対一の戦いとは相性が悪く、弱いというイメージを持たれてしまっていた。


かいなに燃え盛りしは紅蓮の炎、荒ぶる怒りの具現——あ、あれ?」


 しかし、半分も詠唱が済んでいないにも関わらず、発射準備が完了してしまう。


「あぁ、そっか、今度はこれか……」


 頭に被った黒い魔女帽の効果が詠唱時間半減だったことを思い出しつつ、ロッタは右手をかざした。


「タリス、準備出来た! 離れて!」


「えっ? りょ、了解……」


 まだ二回ほど突きを繰り出し、風の刃を回避しただけなのに。

 負傷覚悟で突っ込んだにも関わらず、あっさりと出番が終了し、拍子抜けしてしまう。


 タリスが射線上から飛び退くと、彼女は渾身の火炎魔法を発動させた。

 呼子よぶこの帽子のもう一つの効果を忘れたままで。


「フレイムブラスト!!」


 右手から放たれた超巨大な火炎弾。

 シルフィードが反応出来ないほどの速度で真正面から激突し、


『ぴぎゃああぁぁああぁぁぁぁあぁぁっ!!!』


 絶叫と共に火炎が体を包み込む。


「やった……っ!」


 仕留めたと確信した次の瞬間、手のひらから追加で火炎弾が放たれる。


『ふぎゃあああぁぁぁぁぁっ!!?』


 すでに炎上しているシルフィードに激突し、再びの悲鳴。

 ロッタは凄く申し訳ない気持ちになり、あまりのオーバーキルにタリスはドン引きした。




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