表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/76

75 全てが始まったあの場所で




「恥ずかしいわね、あんなとこ見られちゃうなんて」


「いえ、あたしの方こそすみません……」


 熱烈なキスシーンを見られたユサリア、口では恥ずかしいと言っているが全く動じていない。

 むしろロッタの方が、二人の顔をまともに見られないほど恥ずかしかった。

 モレットはユサリアの後ろに隠れて、じっと様子をうかがっている。


「それにしても驚いたわ。皆さん闘技場に集まってるでしょう? ここにはもう誰も来ないと思ってたから」


「あぁ、だからあんな堂々と、熱烈なやつを……」


 誰も来ないからって、ドームのど真ん中でキスをするのはどうなのだろう。

 よくよく目を凝らせば、ユサリアの首筋には虫さされのような赤い跡が。

 きっとモレットもそうなのだろう、深くは突っ込まないことにする。


(……あたしも人のこと言えないし)


「ところでロッタさん、ここへは何の用? こんな時にまさか修行ではないだろうし……」


「実は、アリサを探してるんです。学長、どっかで見てませんか?」


「アリサさんなら先ほどまで、このドームの前でお話させてもらっていました」


「ほ、ほんとですか!?」


 意外な目撃証言をゲット。

 アリサの用事とは、学長絡みだったらしい。


「ちなみに、なんの用事だったんです?」


「……それは、彼女から聞いてみた方がいいでしょう」


 意味ありげな笑みを浮かべて、そう返された。


「えー、教えてくださいよー」


「ちょっと私の口からは言えませんねー」


「むぅ……」


 ともあれ、アリサはついさっきまでこの辺りにいた。

 先ほど空から見た時には彼女はいなかったはずだが、どこへ行ったのだろうか。


「分かりました、見つけて聞き出します。ありがとうございましたー!」


 ペコリと頭を下げて、修練場の外へと走り去っていったロッタ。

 彼女がいなくなると、隠れていたモレットがひょっこりと顔を出す。


「……いなくなった?」


「もう、モレット。私以外の人にももう少し馴れないと。それに、あの娘はあなたの恩人なのよ?」


「わたしはユサリアさえいればいい」


「あら、困った娘ね」


「ユサリアは、ちがうの?」


「……違わない、かもね」


 モレットの白い頬を撫で、儚げな体を抱きしめる。

 温もりを確かめて、雪のような彼女がもう二度と溶け消えてしまわないことを祈りながら。



 ☆★☆★☆



「さてと、まだ近くにいるはずだよね」


 修練場の上空を、ほうきで旋回しながら捜索する。

 しかし、やっぱりアリサの姿は見つからず。


「どうしよ、もう戻っちゃったとかかな」


 精霊たちの力を借りたくても、今は体操着。

 残念ながら魔導書は持っていない。

 四人で探せれば、かなり楽なのだが。

 無いものねだりをしながら武術科校舎の上を横切った時。


「……あれ、あそこにいるのって」


 校舎前広場、英雄王の像の前に佇む、長い黒髪の少女を発見。


「やっとみつけた! おーい、アリサーっ!!」


 大声を張り上げながら急降下。

 アリサは驚きの顔でロッタを見上げた。

 彼女の隣に軽やかに降り立って、ほうきを髪飾りに戻す。


「こんなところで何してたの?」


「……ちょっとね。通りがかりに、ここでのことを思い出してて」


「ここって……、あぁ、あたしとダルトンの決闘があった場所だ」


 思えば、あれが全ての始まり。

 この場所でダルトンと戦ったから、星斗会ステラクイントに入れて、沢山の仲間が出来た、アリサと仲直りできた。

 そして、アリサともっと親しい関係になれた。


「あれがあったから、今があるんだよね。なんか不思議な感じだけど。あの時はこんなことになるなんて思わなかった」


「あの決闘、あなたは必ず負けると思ってた。腐っても星斗会ステラクイント第五席に、魔法使いなんかが勝てるわけないって」


「腐っても?」


「ええ、腐ってても。だから、決別のために見に来たの。あなたと会うのも、これで最後だからって」


 ところが、ロッタは勝利した。

 第五席のダルトンを倒し、魔法使いでありながら星斗会ステラクイントにやってきた。


「ショックだった。わたしが弱者と切り捨てたあなたが、努力だけでここまで這い上がってきたことに、ひどく動揺したわ」


「いなくなってほしかった?」


「ええ。わたしの信念を、根底から揺るがすあなたの存在が怖かったから」


「今は、どう?」


「……言わせる気?」


 顔を赤らめて目線を逸らすアリサ。

 言うまでもない、といった態度だが、


「聞きたいなー。ねえ教えてよー」


「嫌よ、分かってるくせに」


 構わずぐいぐいと押していく。


「ねえ、教えてってばー」


「もう、なんでそんなに聞きたがるのよ……」


 照れる自分を面白がって意地悪をしていると、そう判断したアリサが、ため息混じりに問い掛ける。

 ところがロッタは、顔を伏せて不安げに声を絞り出した。


「……あのね、怖くなったの。アリサがまだあたしのこと嫌いだったらどうしようって、怖いの……。だから、聞かせて……?」


 体操服のすそを両手でぎゅっと掴みながら、小さな肩を震わせる。

 愛する人を不安にさせてしまった。

 アリサはロッタの肩を両手で掴み、石像の台座に押し付ける。


「ひゃぅっ、あ、アリサ……?」


「わたしね、口下手なの。上手く言葉で伝えられる自信がないから、行動で示させて」


「行動、って……っ、んむっ!」


 そして、強引に唇を重ねた。



 ☆★☆★☆



「もう、あんなところで……」


「誰もいないんだし、いいじゃない。みんな闘技場よ?」


「そういう問題じゃないでしょ……」


 闘技場へと戻るため、並んで歩く二人。

 ロッタは顔を真っ赤にしながら、アリサと手を繋いでいる。


「分かったでしょ、わたしの気持ち」


「分かったよ、分かったけどぉ」


 恋人同士になってから、アリサがどんどん積極的になっている気がする。

 このままだと、とんでもない場所で色々とされてしまうんじゃないだろうか。


(……いや、昨日の森の中も相当にアレだけど)


「と、ところでアリサ、学長に会いに行ってたんでしょ? 何の用事だったの?」


「ちょっとね。長期休暇の申請を前々から出してるんだけど、断られ続けてて。それで学長に、直接かけ合いに行ってたの」


「休暇? 何かする気?」


「……実家に帰って、ロッタとの関係を報告したいの」


「え、アリサの、ご両親に……?」


「ずっと一緒にいるためには、いつか報告しなきゃいけないもの。でもね、やっぱり断られちゃった。一日や二日ならともかく、長期休暇は許可できないって」


 アリサが、そこまで真剣に自分のことを考えてくれていた。

 その事実が、涙が出るほど嬉しい。

 彼女の想いを、無駄にしたくない。

 ロッタは深く頷くと、決意を固める。


「じゃあさ、今度の休日、一緒にアリサの家行こうよ」


「あ、あなた話聞いてた? 長期休暇は無理だって言ったじゃない」


「大丈夫。あたしのほうきがあれば、一日で行って帰ってこれるから!」




次回、とうとう最終回です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ