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74 アリサを探していたら、見ちゃいけないものを色々見ちゃった話




 武力測定当日。

 身体能力の測定にて、ロッタは前衛職を越える驚異的な記録を連発。

 アリサと二人でトップを争っていた。


 闘技場での跳躍力測定で五十メートルを叩き出したロッタは、タオルで汗を軽く拭いつつ、星斗会メンバーの待つ客席へ。


「みんな、お疲れー!」


「お疲れ様、すごいよロッタちゃん! 後衛職で大記録連発だよ!」


 パーシィに出迎えられ、彼女の隣に腰を下ろす。

 現在のロッタの格好は、ごく普通の体操服。

 韋駄天の靴とドラゴンキラーを着けているため、身体能力はしっかりとブーストされている。


「……いや、俺より高く跳んでんじゃねえか。ホント自信無くすぜ……」


 前衛職の平均値は十五メートル程度。

 後衛職に至っては二メートル飛べれば上出来な方。

 ウィンの四十七メートルという数値は十分な大記録なのだが、ロッタの後衛として異常極まる数値の前にすっかり霞んでしまっている。


「がーくんは十分凄い。あの二人が異常なだけ」


「そうだけどよ……」


 『あの二人』のもう片方、ロッタと競っているアリサの記録は五十二メートル。

 わずかにロッタを上回っていた。


「……あれ? そういやアリサは?」


 話題に登った恋人の姿が、どこにも見当たらない。


「あたしが戻った時、もういなかったよね」


「それより前、ろったんが飛んでる時からもういなかったと思う。だよね、ぱーしゃん」


「うん、用事があるからちょっと出てくるって」


「そっかー。この測定終わったらお昼休みだし、一緒に食べたかったんだけどな……」


 がっかりしたような表情を浮かべ、うつむくロッタ。

 パーシィたち三人は顔を見合わせて、お互いにうなずいた。


「ロッタちゃん、探しに行って」


「えっ? でも、いいのかな。星斗会長がいなくなっても……」


「かまいやしねえだろ。どうせこの後は流れで解散、もうやることなんかねぇんだ」


「私たちもありちゃんと一緒にお昼食べたい。ろったん、はりーあっぷ」


「……うん、ありがと、みんな! 探してくる!」


 親友と仲間たちの心配りに感謝しつつ、ロッタはジェットブルームを起動。

 高く舞い上がり、アリサを上空から探すとこにする。


「さてと、闘技場の中にはいないかな……?」


 キョロキョロと見回すが、長い黒髪の美少女は発見できず。

 その代わり、


「……うわ、なにアレ」


 観客席内の物陰からパーシィたち三人を覗き見る、怪しい中年男性の姿を発見した。

 すぐさま降下し、気付かれないように彼の背後へ回る。

 息を荒げて三人の少女に熱視線を送る不審者。

 髪の色は鮮やかなオレンジ、どうやらピエールではなさそうだ。


「あの、何してるんですか?」


「うおッ……!」


 声をかけられた男性は、ビクンと体を震わせて、大慌てで振り返る。


「お、驚いたなぁ……。君は星斗会長のロッタちゃんだね!」


「え、なんで知ってるんですか? そもそも誰なんですか、もしかして勝手に学院に入ったんですか、通報しますか?」


「やだなあ、そんなに怖い顔しないでくれたまえ。ボクはウィンのパパだよ? 怪しくないよ?」


 にこやかに告げる、明らかに怪しいおじさん。

 これはあまりにも怪し過ぎる。

 ウィンの父親だと言われて、はいそうですかと見逃すわけにはいかない。


「……あの、とりあえず教員の誰か連れてきますね」


「ま、待ってくれないか? 本当におじさんは怪しくないんだ!」


「そうですぞぉぉぉっ、ロッタさんッ!!」


「うひゃああぁぁああぁぁっ!!?」


 もう何度目かの甲高い声が背後から聞こえ、今度はロッタの体が飛び跳ねた。


「だ、だからピエール先生! 普通に出てきてくださいってば!」


 相変わらず心臓に悪い登場をする、怪しいおじさん二号。

 どうやらこの不審者を知っているらしい。


「彼は正真正銘、ガートラス君の父親ですぞ。入場許可も正式に降りてますな」


「そ、そうだったんですか……。いや、でもじゃあなんで隠れて見てたんですか、怪し過ぎましたよ?」


 あれでは誰がどうみても、立派な不審者である。


「決まってるじゃないか! 可愛いウィンちゃんの成長をこの目に焼き付けるためさ!」


「はぁ、可愛い……。あの、いいんですか? ウィン君が女の子だって言ってるようなものですけど、風習とかは……」


 彼女の家に伝わる風習で、本当の性別は隠さなければならないはず。

 だからこそ、彼女は必死に男を演じているわけで。


「あぁ、風習ってのは嘘だよ」


「……は? うそ?」


「そう、だってウィンちゃんあんなに可愛いじゃないか! だから悪い虫が寄り付かないように、男の格好をさせているんだ! ウィンちゃんに恋人なんて、お父さんは許さんからな!」


「…………。そうですか、あたしはもう行きますね」


 あまりにどうでもよすぎる真相に、思わず真顔になったロッタ。

 そのまま彼女はほうきにまたがり、無言でその場を後にした。


(……あとでウィンちゃんに言っておこ。もう男の子の格好しなくていいって)



 ☆★☆★☆



 闘技場の近くにアリサはいなかった。

 ロッタは学院の敷地内を飛び回り、空からアリサを探す。

 全校生徒が闘技場に集まっている今の時間帯、人影は全く見当たらない。


「見つかんないなぁ、アリサ……」


 一体どこへ行ったのだろうか。

 もしかしたら建物の中にいるのでは。

 目についたのは魔術修練場。

 あの決闘の後、何事もなかったかのように元の場所へと戻っている。


(さすがにいないかな……。でも、あたしの修行中よく鉢合わせになったし)


 可能性はあるかもしれない。

 着地したロッタは、さっそく修練場の中へ。

 すると、誰かの気配を感じ取る。


(……ん? アリサ……、じゃなさそう)


 強大な魔力反応を二つ。

 少しだけ警戒しながら、物陰からドーム内をそっと覗いた。


(う、うわわっ!?)


 そこで繰り広げられていたのは、


「ユサリア、んむっ、はぁ……っ、ちゅ、ちゅる……っ」


「ん、んちゅっ、モレット、はむっ、ちゅ、好きよ、モレット……っ、はむっ」


 学長とモレットの熱烈なキスシーン。

 見てはいけないものを見てしまった。

 邪魔にならないよう、こっそり立ち去ろうとするロッタだったが。


「ちゅっ、ちゅぱっ。……ユサリア、だれかいる」


「……ええ、そうみたいね」


(や、ヤバっ! バレてる!)


 どうやらこの二人を相手に、気配を殺しきることは不可能らしい。

 観念したロッタは、大人しく姿を現すのだった。




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