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72 五つの星の五重奏




「……わたしは二年かん、しょう滅してた、と。なるほど、りかいした」


 説明を受けて、自分の置かれた状況を把握したモレット。

 彼女はユサリアにぴったりとくっつき、背中に隠れて顔だけを出している。


「えっと、モレットさん、でいいのかな。どうして隠れてるんですか?」


「……ユサリア」


 ロッタの問いかけに、覗かせていた顔をささっと引っ込める。

 ユサリアは変わらない彼女の様子に口元を緩め、苦笑混じりに解説。


「ごめんなさい、ロッタさん。この娘、極度の人見知りで、私以外にはあまり心を開かないの」


「あー、それで……」


 親しい友人が誰もいなかった、ミステリアスな幻の星斗会長。

 その真相は単なる人見知りだったらしい。


「色々と納得出来ました」


 舌っ足らずな幼い口調と、甘えたがりで臆病な性格。

 まるで小さな子供のようだ。


「……さて、ロッタさん。改めてお礼を言わせて。あなたが神星・五重葬ノヴァ・ステラクインテットを完成させてくれたおかげで、こうしてまた、この娘に会うことが出来ました」


「お礼だなんてそんな……。あたし一人の力じゃ、あの魔法は完成なんて出来ませんでしたから」


 魔力制御の手助けをしてくれた三人の精霊。

 特訓後のケアをしてくれたアリサ。

 親友としていつも支えてくれたパーシィ。

 他にもタリスやウィン、ピエールを始め、様々な人に助けてもらった。


「それでも、やり遂げたのはあなたの力。本当にありがとう」


「えっと……、な、なんか照れますね……」


 憧れの大魔法使いに褒め称えられ、もじもじと体をくねらせるロッタ。

 肩を支えているアリサも一緒にゆらゆらと揺れる。


「ねえ、そこまで元気なら、もう支えなくてもいい?」


「ま、待って待って。アリサに支えてもらわないと、あたしまた転んじゃうよぉ」


「……ホントかしら?」


「ホントホント。だからもっとぎゅってして? お姫様だっこして?」


「……今は勘弁して」


「今は? つまり、今じゃなかったらいいの?」


「か、考えておくわ」


「やったっ」


 と、ハートマークを飛ばしている二人の傍ら、タリスは先ほどから何かを考え込んでいる様子。


「学長、一つ気になることが。神星・五重葬ノヴァ・ステラクインテットって名前、もしかして……」


「さすがね、タリスさん。その通り、星斗会ステラクイントの名前は、この魔法から取ったのよ。使い手の誰もいなくなったモレットの魔法を、違う形でもいいから後世に残したかったの」


 モレットを愛おしげに抱きしめながら、彼女はそう明かした。


「全く違う属性の五つの魔法を合わせることで、あの最強の魔法は完成する。そんな風に、個性の異なる五人で最高のチームを作り上げて欲しい。そんな思いも込められていたりして」


 冗談めかした口調で、ロッタにウィンクして見せる。

 ほんの少し、モレットがムッとした。


「……あたしたち、そんな五人になれてますか?」


「私に聞くより、みんなに聞いた方がいいんじゃないかしら」


 促されるまま、仲間たちの方へと目を移す。

 にっこりと頷くパーシィ。

 表向きどうでもよさそうに、内心照れくさそうに目を逸らすウィン。

 なぜか親指をグッと立てるタリス。

 三者三様の反応を確かめて、恋人の横顔に問いかける。


「ね、アリサはどう思う?」


「……わたしよりも、大事なのはあなたがどう思ったか、よ」


「そっか……。うん、でも答えは言わないでおく。あたしたち、まだまだこれからだもんね」


 今この瞬間がゴールじゃない。

 まだまだ学院生活も、星斗会活動も続いていくのだから。


「……ユサリア。ちょっとねむい」


 モレットがユサリアの腕の中で、うとうとし始める。

 二年間の眠りから覚めたばかりだからか、大好きなユサリアに抱きしめられて安心してしまったのか。


「あらあら、魔導書に戻る? ……あぁ、そうね、魔導書。ロッタさん、その魔導書は差し上げ——」


「いえ、頂けません。学長が持っててください」


 最強魔法の術式が記された魔導書を、あっさりと返却するロッタ。

 受け取ったユサリアは、心底意外そうな表情を浮かべる。


「私が持っていても、この魔法は使えないのよ? 使い手であるあなたが持っていた方がいいんじゃない?」


「大丈夫です、やり方は完璧に覚えましたから。それと……」


 マジカルマスケットの弾丸を一つ取り出し、強く握りしめる。


神星・五重葬ノヴァ・ステラクインテット!」


 呼子よぶこの帽子の効果で保留していた最強の魔法を弾丸に封じ込めると、ユサリアに手渡した。


「こうして封じ込めれば、ずっとこの魔法が存在することになりますよね。もしもあたしに何かあっても、途絶えたりすることはない」


「……本当に貰ってもいいの? 弾が一つ減っちゃうのよ?」


「五発あればあの魔法は撃てますから。問題なしですよ」


「……そうね。ありがとう、ロッタさん」


 魔導書を広げ、モレットの体が中へと吸い込まれる。

 本を閉じ、弾丸と共に大切に懐へと仕舞い込んだ。


「おやすみなさい、起きたらたくさんお喋りしましょうね」


 優しげな声色のユサリアを見て、ロッタは思う。

 きっとあの二人の関係は、自分とアリサの関係と同じものなのだろう、と。

 なら早く二人きりにしてあげたいところだが、最後に一つだけ、ロッタには疑問が残っている。


「ところで学長、どうして学長はあの魔法が使えないんですか? 不思議で仕方なくて……」


「……少し恥ずかしい話なのだけれどね。私、実は大火送葬グラン・クリメイションが使えないの」


「えっ、そ、そうだったんですか……?」


「そうなのよ……」


 本来、一人の魔法使いが複数の属性を操ることは稀だ。

 なぜなら、それぞれの属性に魔力を変換する方法が、それぞれで大きく異なるから。

 せいぜいが二、三属性。

 四属性以上を使う者はごくごく少数。


 しかし、これは才能の問題ではない。

 努力でなんとかなる問題だ。

 だからこそ、努力の鬼であるロッタは五属性もの魔法を自在に操ることが出来た。


「でもね、最強魔法にだけは、才能の問題があるの。その属性を極めるには、その属性の才能が必要。残念ながら、私には炎の才能だけは無かった」


「じゃあ、あたしの才能って……」


「五属性を極められる才能。メダルの封印は、それに反応するようになっていたの。もちろん必要なのは才能だけじゃない、全ての属性を極めようとする努力も必要不可欠なのだけれど」


 ユサリアにとって、ロッタの存在はまさに奇跡。

 メダルと希望を託すに足る、百年に一度の逸材だった。


「……さ、お話はここまでにして、帰りましょう。ロッタさんも私も、見事にボロボロですし」


「あはは、そうですね。早く帰って休みたいかも。アリサ、お姫様だっこで連れてってー」


「嫌よ、自分で歩きなさい」


「ぱーしゃんにお姫様だっこしてもらえばいい」


「ふえぇぇっ、無理だよ、重くて潰れちゃうよぉ!」


「そんなことよりさ、今からロッタの祝勝会やろうぜ。たっぷりとごちそう用意して……」


「だ、だから休みたいんだってばぁ……」


 ロッタたち五人の少女が、笑い合いながら立ち去っていく。

 その背中をしばらく見つめ、ユサリアは懐の魔導書に語りかけた。


「さ、モレット。私たちも帰りましょう。私たちの帰る場所へ、私たちの学院へ……」




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