表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/76

68 最後の弾丸、最後の切り札




 白いローブが虹色に輝き、ユサリアの周囲に七色の防御壁が展開。

 炸裂するはずだった大火送葬グラン・クリメイションが跳ね返される。

 先ほどロッタが放ったフレイムバーストの再現のように、発射軌道をそっくりなぞって、


 ズドオオォォォォォォオォン!!


 炸裂。

 ロッタのいた場所に、雲を焦がすほどの火柱が立ち上った。


「ロッタちゃんっ!」


「な、なんだあれ……!? アイツの魔法、跳ね返されたぜ? 学長なんにもしてないのに……」


「あれは——」


「虹のローブですな!!!」


 タリスが口にするよりも早く、ピエールが甲高く主張。


「そう、虹のローブ。大鷲の杖と一緒に大賢者が使った、あらゆる魔法を反射する伝説の防具。わりと有名」


 タリスの補足も加えて、ようやくウィンは納得する。


「あぁ、なんか聞いたことあるような気がする」


「がーくん、後で勉強会。星斗会ステラクイントのメンバーが赤点はまずい」


「うぇぇ……」


 ウィンが思わぬ藪蛇やぶへびに出会ったその隣、パーシィはアリサに視線を向けた。

 先ほどから彼女は、一言も発しないままじっと戦局を見守っている。


「アリサちゃん、落ち着いてるね。ロッタちゃんを信じてるから?」


「ええ、信じてる。あの娘は絶対に勝つって。だから安心して見ていられるの」


「……そっか」


 敵わないなぁ、と思い知らされる。

 恋人が竜巻で墜落しても、岩壁に突っ込んでも、最強火炎魔法を反射されても、彼女は全く動じなかった。

 学長の雷冥葬塵リザウンド・ライトニングの雷鳴が轟いた時には、悲鳴を上げて抱き付かれたが。


「私も、ちょっと見習うね」


 いずれ新しい恋に出会うまでは、ロッタを想っていたい。

 祈るように手を組んで、パーシィはただ静かに戦いを見守る決意をした。




 反射された大火送葬グラン・クリメイションが炸裂した瞬間、ロッタは地下深くへ退避。

 自分の得意技を喰らうことは何とか免れた。


「……ふぅ、あっぶな。さて、どうしよう」


 残りの弾丸は二発。

 今ここで新たに詠唱し、補充してもいいが、跳ね返されれば意味はない。


「虹のローブ、か。あれも欲しかったんだよね。そっか、学長も同じこと考えてたのか」


 メダルを手に入れて、まず取り寄せようとした二つの装備。

 学長と同じことをしようとしていた、その事実になんだか嬉しくなってしまった。


(……でも、喜んでばかりもいられない。魔法を反射される以上、小細工使って当てても無意味だよね)


 魔法に対して絶対の無敵を誇るあのローブを、どう攻略するのか。


(自動的に魔法を反射か——あれ、でもそれじゃおかしなことがあったような……。よし、試してみるか)



「……ロッタさん、かくれんぼもそろそろ終わりにしません?」


「ごめんなさい、お待たせしちゃって」


 草原に穴が開き、ひょっこりと顔を出すロッタ。

 彼女の無傷な様子を見て、タリスたちは安堵の息を吐いた。


「それ、虹のローブだったんですね。びっくりしちゃいましたよ」


「普段は白いんですよ、サプライズ成功です。……さて、その様子だと攻略方も考えたようですが?」


「……さあ、どうでしょう」


 マジカルマスケットをガンベルトに納め、両手の平に火炎と雷を纏う。

 韋駄天の靴の能力を全開に引き出し、一瞬でユサリアの眼前へ。

 極限まで高めた素早さから繰り出す二種類の掌底。

 怒涛のラッシュを、ユサリアはギリギリで回避していく。


「なるほど、考えましたね。近接攻撃なら跳ね返しようがありません」


「……」


 炎と雷の掌底は、しかし彼女に掠りもしない。

 前進しながら繰り出すロッタの攻撃を、後退しつつ回避し続ける。

 一撃ごとに一歩ずつ、後ろに下がり続けて、不意にユサリアの足下がぬかるんだ。


「……! なるほど、先ほどの……。ここまで誘導してきた、と」


 ユサリアが放った螺旋嘯葬タイダル・ボルテックスが炸裂した場所。

 そこに追い立てられた事を、彼女はすぐに気付く。


「しかしロッタさん、足を取られると期待しているのなら、残念でしたね。そのようなミスは——」


「そんな期待はしてませんよ」


 口角をわずか上げ、ロッタは攻撃を中断、すぐさま後方へと跳ぶ。

 同時にマジカルマスケットを抜き、銃口を向けた。


「あたしの狙いは、これです!」


 引き金を引き、雷冥葬塵リザウンド・ライトニングが発射される。


「無駄です、虹のローブがある限り——」


「そのローブ、反射出来るのは直撃だけ、ですよね?」


 雷の魔力弾は、ユサリアではなくぬかるんだ地面へと着弾。

 電撃が湿地帯となった地面を伝い、ユサリアの足下へと到達、彼女の体に最強の雷魔法が迸った。


「ま、まさか……っ、ぁぐぅぅぅっ!!!」


 先ほどユサリアがフレイムバーストの爆炎を反射出来なかったのは、命中寸前で炸裂させたから。

 直撃弾以外の魔力攻撃なら通せると踏んだが、どうやら大正解。


 麻痺して動きを封じられたユサリアが、その場にひざをつく。

 決着をつけるため、ロッタは最後の弾丸を装填し、着地と同時に足下へと発射。


地裂封葬アビスフォール・グレイブっ!」


 地割れが発生し、その上に土の槍が展開される。

 直接ユサリアに放っても跳ね返されるだけ。

 ならばもう一度、間接的に攻撃するまで。

 ロッタが右腕を突き出すと、そこに岩の槍が殺到。

 彼女の右拳が、十メートル級の巨大な岩の塊に覆われた。


「学長、これが最後の弾丸、この一撃で終わりにします!」


 地面を強く蹴って飛び出し、右腕を振りかぶる。

 ユサリアは麻痺して動けないまま、迫り来るロッタに対して成す術もない。


「うぉりゃああぁぁぁぁぁあぁあぁっ!!!」


 全身全霊を込めて繰り出す、巨岩の拳。

 ユサリアに叩きつけられた瞬間、凄まじい衝撃と共に砕け、そして彼女の体は弾丸のように吹き飛ばされた。


 悲鳴も上げずに何度も地面をバウンドし、数百メートル飛ばされたところでようやく停止。

 倒れたままピクリとも動かない。


「はあ……、はあっ……、や、やったの?」


 マジカルマスケットは弾切れ。

 もしも決着がついていなければ——。


「……いたた。こんなに痛いパンチは生まれて初めてかもしれません」


 決着は、ついていない。

 世界最強の魔法使いが、ローブを汚した砂を払いつつ立ち上がる。


「あ、あはは……。マジですか、学長……」


「これはもう、本気の本気を出さないといけないみたい。切り札、使わせて貰いますね」


 宣言し、ユサリアが懐から取り出したのは、先ほど使った取り寄せボタン。

 それを押すと、彼女の背後に巨大な、数百メートルはあろうかという、あまりにも巨大な魔法陣が出現する。


「き、切り札、でか過ぎません……?」


「うん、いい反応ですね」


 どうやらこの学長、人が驚いているところが好きらしい。

 転送魔法陣が消滅し、ユサリアの背後に出現したものは、ロッタにとって非常に馴染み深い、ドーム型の建造物だった。

 呆気に取られたロッタは、目を丸くして呟く。


「……うそ、なんで? 魔術修練場……?」


「はい、満点のリアクションです」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ