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65 いざ、頂上決戦へ




 決闘当日、世界最強の魔法使いと雌雄を決する日。

 その日、ロッタは朝からいつもと変わらず授業を受け、パーシィと昼食をとり、午後の眠たい時間を耐え忍んでいた。


 驚くほど普段通りの生活サイクル。

 もちろん緊張はしている。

 だが、今さらジタバタしてもどうにもならないのも事実。

 それに、緊張よりもワクワクする気持ちの方がずっと強い。


 終業の鐘が響いたのは、午後三時。

 机の中の荷物をまとめていると、パーシィから声がかかった。


「ロッタちゃん、今日も修行? ここひと月くらい毎日だよね、お疲れ様」


「今日はね、違うんだ。うん、今日は違うの」


 全てをカバンに詰め込めて、下校の準備が終わる。


「今日はこれから、ユサリア様と戦うんだ」


「……あ、そっか。今日だったんだ」


「あはは、笑っちゃうでしょ。勝ち目なんてほぼゼロだもんね」


 相手はロッタたちが生まれた時から最強の座に君臨している、史上最強の生ける伝説。

 自嘲混じりに言葉を吐きつつ、それでも瞳の奥の闘志は燃えたまま。


「でもね、完全にゼロってわけじゃないから。万に一つの勝算はあるよ」


「……そっか。うん、頑張って」


「……あれ、笑ったりしないの?」


 至って真剣な顔でエールを送るパーシィ。

 そんな彼女の反応に、驚いたのはロッタの方だった。


「笑わないよ。だって、ロッタちゃんが真剣に勝ちにいこうとしてるんだもん。それなのに笑ったりしたら、もう友達じゃないよ」


「……ありがと。やっぱりパーシィって優しいね」


 彼女の優しさには、これまで何度も救われてきた。

 アリサのことで折れそうな時も、アリサと仲直り出来て疎遠になり始めてしまった時も。

 そして、アリサと恋人同士になったことで、彼女を傷つけてしまった時も。


「それに比べて、あたしってば全然ダメだ。パーシィに貰ってばっかりで……」


「そんなことない!」


 いつになく強めの口調でロッタの言葉を遮る。

 真剣な眼差しで、想いの丈をぶつけるために。


「そんなことないよ。全部ロッタちゃんのおかげだもん。何の取り柄もなかった私が頑張れたのも、星斗会に入れたのも、全部全部ロッタちゃんの頑張りをそばで見てきたから、勇気を貰ったからなんだよ! だから、そんなこと言わないで」


「……そっか。うん、分かった。ごめんね、おかしなこと言って。やっぱパーシィ、あたしの最高の親友だよ」


「えへへ……。一番の親友?」


「そ、一番。パーシィが一番だ」


 二人は笑い合い、軽く抱き合って、教室を後にした。



 ☆★☆★☆



 ロッタとパーシィが校舎を出ると、タリスとウィンが通りがかる。


「あれ、二人共。魔法科でなにしてるの?」


「お、いたいた。何って、お前探してたに決まってんだろ」


「そ、そ。ろったんと学長の世紀の大決戦、見逃すわけにはいかない」


「……なんで知ってんの? 日程までは言ってないはずなのに」


「タリスさんの情報収集能力を甘く見てもらってはこまる」


 カバンからメモを取り出し、眼光を光らせる。


「学長と戦う話は前から聞いてた。こんなおいしい話、逃すはずない。絶対この目に焼き付ける」


「俺だって気になってんぜ。並の前衛職じゃ相手にもならねぇ化けもん同士の戦いだもんな」


「化けモンはひどいよぉ、女の子に向かって!」


 ウィンの発言に頬を膨らませるロッタ。

 しかし、次の瞬間。


「そのとおおぉぉぉぉぉりッ!!!」


「うっわ!!」


 甲高い男の声に、小さな怒りを忘れて飛び上がった。


「ピ、ピエール先生! もう、相変わらず心臓に悪い登場しますね……」


「私は感情の赴くままに行動しているだけですぞ?」


「自制というものを覚えてください、いい歳した大人なんですから」


「自制する気はありませんな。これからも突っ走りますぞ!」


 軽く頭痛がしてきた。

 このまま会話を続けていたら、学長との戦いの前に精神力を使い果たしてしまいそうだ。


「ロッタさんと学長の戦い、見物させてもらいますぞ! 学院の財宝の力が世界最強の魔法使いにどれほど通用するのか、楽しみ過ぎて震えてきますな!!」


「うん、分かりましたから。ついてきていいですから出来る限り静かにしててください」


 相変わらずのテンションについていけないながらも、同行は許可。

 断るほうが体力を使いそうな気がする。


「……結局みんな見に来るんだね」


「みんな? ろったん大事な人忘れてない?」


「忘れてないよ」


 あの娘とはもう約束を交わしている。

 この戦いの結末を、見守っていて欲しいと。



 ☆★☆★☆



 学院北部、平原地帯。

 一ヶ月間の特訓によって大量に穴が開いてしまった箇所からは少し離れた場所。

 穏やかな風が吹き抜ける草原に、彼女は佇んでいた。


 ユサリア・ペンドライト。

 栗毛の髪を風になびかせ、穏やかな笑みを浮かべながら挑戦者を待つ、最強の魔法使い。


 そして、ユサリアから三百メートルほど距離を置いた場所にもう一人。


「……来たわね、ロッタ。少し遅くないかしら」


「ごめんごめん。ちょっと色々あって」


「わたしに謝るより、学長に謝ってきなさい」


 この戦いの結末を見届けるために、彼女は一足先にこの場所でロッタを待っていた。


「そうだね、謝ってくる。そして、勝ってくる」


「頑張って、なんて月並みな励ましはしないわ。死力を尽くして、燃え尽きてきなさい」


「うん、アリサ」


 ハイタッチを交わして、そこで会話は終わり。

 学長の元へと歩いて行くロッタを、アリサは何も言わずに見送った。


「……ところであなたたち、ずいぶん大勢で詰めかけてきたわね」


 ぞろぞろとこの場にやってきた、星斗会の三人とピエール。

 パーシィは来るだろうと踏んでいた。

 タリスとウィンも調べ上げて来るだろうと。

 しかし、ピエールまで来るのは想定外。


「迷惑、だったかな、アリサちゃん」


「そんなわけないじゃない。……ただ、巻き添えを食う覚悟はしておいた方がいいわ」


「いやいや巻き添えって。ここから学長んとこまでどれだけ離れてると思ってんだよ」


「……たった三百メートル。正直なところ、かなり危険。がーくんもみんなも、いざという時に逃げる準備はしておくべき」


「……そ、そんななのか」


 引きつった表情のウィンに、アリサとタリスは真顔で頷き返す。


「む、そうでしょうな。正直なところ、ロッタさんと学長が本気で戦えば、この付近が焦土になりかねませんぞ!」


「……ロッタちゃん、大丈夫かな」


「大丈夫よ。信じなさい。あの娘は勝つって言ったんでしょ」


 不安げなパーシィの軽く肩を叩き、微笑むアリサ。

 彼女自身も不安でいっぱいだが、それでも信じている。

 ロッタの強さと、積み重ねてきた努力と、どんな時でも諦めない心を。




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