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64 全力同士でぶつかり合いたい




 二週間後、ユサリアが学院に帰還した。

 彼女は何よりもまずロッタに会うため、学院北の平原地帯へ向かう。

 そこで目にしたのは、くり抜かれたよう穴が地面に大量に開いた異様な光景。

 あの魔法の修行が想定以上に順調なことに、ユサリアは少々驚いた。


「頑張っているようですね、ロッタさん」


「あ、学長! いつ戻られたんですか?」


「ついさっき、荷物だけ置いてあなたに会いに来ちゃった。修行の経過が気になって」


 穴だらけになった平原。

 この様子を見るだけでは、修行の成果は推し量れない。


「どうかしら、習得の方は。順調?」


「えっと……、とっても言いにくいんですけど、全然ダメですね……。成功する兆しすらさっぱりで……。そもそも三回くらい失敗しただけで魔力がカラになっちゃいますし」


 申し訳なさそうに近況を伝えるロッタだが、ユサリアは予想通りといった様子。


「焦らないで。この魔法は数年がかりで完成させれば上出来だから。いくら習得する才能があっても、数日でモノに出来る代物じゃありません」


「確かに、ずっと使用者が現れなかった魔法ですもんね。けど、それでも必死にやらないと!」


 習得が困難だからと甘えていては、永遠に修行は終わらない。

 明日にも完成させるつもりで、ロッタは毎日必死に励んでいる。


「頼もしいわね、頑張ってちょうだい」


「ありがとうございます! あとごめんなさい、そのためにわざわざ足を運んでもらっちゃって」


「構いません、元は私のわがままなのですから。それに、用事はこれだけじゃないの」


 ユサリアのまとう空気が、少しだけ張り詰めた。


「かねてから約束の、決闘の詳細を伝えに来ました。日時は二週間後の午後四時、場所は……そうね、この平原がいいんじゃないかしら。遮蔽物もないようだし。どう?」


「問題ありません。……あの、それと一つだけお願いしてもいいですか?」


「遠慮なくどうぞ。私に出来る範囲でなら頑張ってみますから」


「別に大したことじゃないんです。……あたしと戦う時、正真正銘の全力で戦ってほしいってだけですから」


 全力の学長と戦って、全力の学長を上回って、始めて彼女に勝ったことになる。

 この願いだけは、絶対に通しておかなければならなかった。


「全力……。私の全力と戦って、勝てるつもりでいるのですね。そこまでの力を、身に付けたと」


「はい、自信はあります」


「……分かりました。いつぶりでしょうね、全力を出すだなんて。年甲斐もなくワクワクしてきちゃいます」


 ロッタの自信に、過信ではない確かなものを感じ取り、彼女は全力での戦いを了承した。

 年甲斐もなく、という言葉に、一体この少女のような外見をした学長の実年齢はいくつなのか、再び気になってしまう。


「では、二週間後を楽しみにしていますね」


「あたしもとっっっても楽しみにしてます!」


 小さく手を振って、立ち去っていくユサリア。

 やる気を漲らせたロッタは、さっそく修行の続きに取りかかる。


「よっし、やるよ、シェフィ、リヴィア、ノーマ! ……あれ?」


 そういえば、精霊たちはどこにいるのだろうか。

 辺りを見回すと、草むらの中に縮こまって震えている三人の姿が。


「どうしたの、みんな。具合でも悪い?」


『い、いや、そうではないのじゃが……』


『怖いですの、大嵐がどかーんって、怖いですの……っ!』


『あたいら、あの化け物同士の決闘に駆り出されるのか……? あの中に放り込まれるのか……!?』


 どうやら前回のロッタとユサリアの戦いで、トラウマが芽生えてしまったらしい。

 ロッタは怯える精霊たちをなんとか勇気付け、修行を再開した。



 ☆★☆★☆



「……ロッタ、今日は大丈夫なの?」


「う、うん……。ちょっと魔力が底を尽きかけているだけ……。尽きてないだけ大したもんでしょ……」


 魔力が底を尽きると、並の魔法使いは歩くことすら困難となる。

 ロッタほどになれば、歩くことは出来る程度の疲労なのだが、それでも日常生活の諸々には色々と不自由が生じる。

 なのでこの数週間、彼女は修業後にアリサの部屋へ行き、そこで寝泊まりをしていた。


「星斗会長が連日の外泊ってのも考えものだけれど……」


「ちゃんと許可は取ってるし、問題ないない」


「まあ、そうなのよね。感心しない、程度の話だし、事情はあるわけだし」


 確かに手続き上はまったく問題ない。

 しかし、アリサの認識は大きく間違っていた。

 星斗会長が副会長の部屋に連日お泊まり、朝は一緒の部屋から出てきて登校。

 ただでさえウワサになっている二人。

 こんなことをしていて、おかしな話が飛び交わないわけがない。


「そうそう、事情があるんだから仕方ないよ。ね、アリサ〜っ」


 その事実に、二人は気付かないまま。

 今日もこうして二人っきりでイチャイチャして、ウワサに尾ヒレと背ビレとジェットエンジンを生やし続けている。


「必要以上にくっ付かないの。あなた、元気残ってるじゃない」


「元気なんて残ってないよ〜……。それにいいじゃん、恋人同士なんだし……。ね?」


 寝転がったままアリサの腰に手を回して、上目遣いで訴える。

 その仕草に、アリサの理性は我慢することを放棄。


「……甘えん坊の星斗会長ね」


 彼女を抱き起こして、唇を奪いにいく。


「んっ……」


「んむっ! んん、ちゅっ……、ぷはっ! ちょ、ちょっとアリサ!?」


 キスを終えた途端、顔を真っ赤にするロッタ。

 彼女を抱きしめて、背中に手を這わせながらキスを続行する。


「ちゅっ、んちゅっ……。どうしたの? こうなることを望んでいたんじゃないのかしら」


「う、うぅ……」


 抵抗したくても、前衛職のアリサの力に魔力切れ状態のロッタが敵うはずもなく。


(あ、あたしこのままじゃ、アリサに好きにされちゃう……)


「否定しないってことは、図星なのね」


 アリサの問いかけに、顔を真っ赤にしながら無言で頷く。

 その反応に満足したのか、アリサはロッタの体を解放した。


「さ、寝るわよ。眠れば魔力も早く回復——」


 そのまま離れていこうとするアリサ。

 ロッタは衝動的に手を伸ばして、彼女のパジャマのすそを控えめにつまんだ。


「……? どうしたの、まだ何か用事?」


「え、と……、その、ね……?」


 そして、これ以上ないほどに顔を紅潮させ、


「あ、あたし、今なら抵抗とか、出来ない……よ?」


 精いっぱいの誘惑。

 アリサの中で何かが切れる音がした。


 その夜、彼女の部屋の明かりは遅くまで灯り続けていたらしい。




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