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63 それぞれに前を向いて




 泣き疲れたロッタは、パーシィに抱き付いたまま眠ってしまった。

 彼女をアリサのベッドに寝かせると、パーシィとアリサは改めて向かい合う。


「パーシィさん、あの……」


「何も言わないで、アリサさん。ロッタちゃんも言ってたよ、人を好きになるのにいいも悪いもないって」


「……そうね。謝るなんて失礼よね」


 もし謝ってしまったら、彼女の覚悟に水を差すことになる。


「だからね、明日からは私に気を使わないで、堂々と恋人らしくしてあげて。ロッタちゃんのこと、アリサさんに託したからね」


「ええ、ロッタのことは任せて」


 好きな相手のことを諦めて、振られるために告白する。

 自分では絶対に持てないだろうパーシィの勇気に応えるために、アリサは力強く頷いた。


「それとパーシィさん、……いえ、パーシィ。いつまでもアリサさんじゃ、ちょっと余所余所しいわ」


「……えへへ、そうだね。アリサちゃん。私たちも、いい友達になれるよね?」


「ええ、絶対」



 ☆★☆★☆



 翌日の放課後、星斗会の集会にて。

 タリスはアリサとパーシィの様子を窺っていた。

 昨日の自分の入れ知恵で、果たして結果は良い方に転んだのだろうか。

 現在の議題は、一ヶ月後の武力測定だ。


「魔法科の種目はあたしとパーシィで、武術科の種目はアリサたち三人で考えてもらおうと思うんだけど、どうかな」


「特に異論はないわ。パーシィは?」


「私も大丈夫だよ、アリサちゃん」


(……なるほど。どうやら上手くいったらしい。星斗会空中分解の危機、脱出)


 なんと、アリサとパーシィのお互いの呼び方が変わっている。

 ロッタとパーシィの間にも、特に気まずさは感じられない。

 二グループそれぞれに分かれて作業を始める中で、タリスはほっと胸を撫で下ろした。



 こうして何事もなく星斗会は解散。

 ここでまた、タリスに緊張が走る。


「アーリサっ、今日も泊まりに行っていい?」


 ロッタがアリサに抱き付きに行く、昨日と全く同じ光景。

 もしかしたらパーシィに、また不穏な影が過ぎるのではないか、と。


「もう、仕方ないわね。いいわよ、ロッタ」


「やったっ、アリサ大好きっ!」


 喜びを全開にして、アリサに抱き付きながら飛び跳ねるロッタ。

 もしも尻尾が生えていたら、ちぎれんばかりに振っていることだろう。

 さて、問題のパーシィは。


「ふふっ、ロッタちゃん嬉しそう」


(……本当に大丈夫、みたい)


 少し寂しさは感じられるものの、穏やかな笑み。

 彼女たち三人の間にあったわだかまりは、どうやら綺麗に無くなっているようだ。


「良かった良かった。ねー、がーくん」


「何が……? ところでタリス、お前俺の修行に付き合え。うかうかしてたら第四席の座も危ねえからな」


「おっけーりょーかい。私も第三席守りたいし、うーちゃんの可愛さ堪能したいし。むふふ」


「うーちゃんはやめろってば……」




 アリサとお泊まりの約束を取り付けた後、ロッタは日課の修行へと向かう。

 学長から託された、モレットの司る魔法の習得と、学長との決闘へ向けた魔力等の基礎能力強化。

 それをするためには、魔術修練場では狭すぎる。


 ここのところ修練場は、毎日パーシィが修行に使っている。

 それだけではなく、彼女の活躍によって他の魔法科生徒たちにも火がついたようだ。

 これまでロッタの貸し切り状態だった修練場には、今や多くの生徒が詰めかけ、魔法の修行に励んでいる。


「すっごく嬉しいよね、努力が報われたって感じ!」


『しかしロッタン様、いいんですかい? おかげで修業場所、無くなっちまいやしたぜ』


「いいのいいの。どっちみちあの魔法を修行するのに、修練場は使えないもん。失敗しても成功しても、間違いなく消し飛ばしちゃう」


 シェフィと会話を交わしながら、ほうきに跨ってやってきたのは学院北の広大な平原。

 遮蔽物は何もなく、魔物や野生動物も見る限りでは存在しない。


「その点、ここなら問題なし。いくら失敗しても暴走しても大丈夫だよ!」


『ロッタン様のトライ&エラーは知ってますけどね、あたいは心配ですよ……』


 あれが暴走して、もし自分に被害が出たらどうしようか。

 シェフィの心配はそこだった。

 ロッタやリヴィア、ノーマに対する心配は二の次である。


『我とノーマも魔力コントロールをサポートする。そうそう暴走はせぬよ』


『わたいたち、精いっぱい頑張るですの! シェフィちゃん、とっても頼りにしてるですの!』


『……マジ? 本当に頼りにしてんの?』


「もちろん。みんな頼りにしてるけど、特にシェフィは負担が大きいから。信じてるよ、シェフィ」


『お、おう! この風の上位精霊であるあたいに任せてくだせぇ! あたいにかかれば、こんな負担は屁でもねぇや!』


 頼られているという事実に、やる気を漲らせるシェフィ。

 ロッタのところに来て以来、彼女が最も充実した瞬間であった。


「よーし、あたしたちでこの魔法、絶対に完成させるよ!」


『おーっ!』


『じゃな』


『ですのっ!』



 ☆★☆★☆



 入浴を終えて寝るだけとなったアリサ。

 自室でヘレナを抱きしめながら、彼女は非情に落ち着かない様子だ。

 何せ、ロッタと恋人になって初めて過ごす二人だけの夜。


「……何かが、起こってしまうのかしら」


 そわそわしながら待ち続けると、ノックの音が聞こえた。


「ロッタ? 入っていいわよ」


 平静を装って返事をかえすと、ドアが開いてロッタが登場する。

 ——死にそうな顔で、今にも倒れそうな表情で、足元をふらつかせながら。


「……ど、どうしたの?」


「魔力、ほとんど、使い果たした……。なんとか、ご飯とお風呂は、済ませたけど……ぉ゛っ」


「えっと、一体どんな修行を……?」


 ベッドの上に倒れ込んできたロッタ。

 そのままうつ伏せの姿勢で、ピクリとも動かなくなってしまう。


「凄い魔法の修行……。一発撃つのに、最強魔法五発分くらい、魔力が必要で……」


「そんなに!?」


 上位の魔法使いの魔力でも、最強魔法は三発が限度だというのに。

 あまりに膨大な消費魔力に、アリサは絶句した。


「とにかく……、今日はもう動きたくない……。このまま寝る……」


「え、えっ、ロッタ? 本当に?」


「……すぴー」


 戸惑うアリサを放っておいて、寝息を立て始めてしまう。

 ロマンチックな夜が崩壊した残念さはあるものの、あっという間に寝てしまったロッタが子供みたいで微笑ましくもあり。


「もう……、ほら、うつ伏せだと息苦しいでしょ」


 寝ているロッタをひっくり返して、仰向けの体勢に。

 寝顔を見守りながら頬に手を当てて、いとおしむように撫でる。


「いつもお疲れ様、あんまり頑張りすぎないでね。お休み、ロッタ。……ちゅっ」


 そして、眠り姫の唇にそっとキスを落とした。


「……大胆過ぎたかしら。いいわよね、寝てるんだし」


 ロッタにシーツをかけて消灯、隣に横たわって眠りにつくアリサ。


(ま、まだ起きてるよぉ……っ)


 恋人の顔が真っ赤に染まっていたことに、彼女は気付かなかったようだ。




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