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61 あなたに託します




 モレットを蘇らせると、ユサリアはそう口にした。

 そのために、ロッタにメダルを託したとも。


「あ、あの大量のメダルって、学長が隠してたんですか!?」


「あれは元々私が、長い長い年月をかけて集めたもの」


 一生をかけて二百枚集めれば上出来なメダルを、五千万枚。

 いったいユサリアは何歳なのか。


「あの娘を蘇らせる確実な方法はただ一つ、この魔導書に記された、あの娘が司る魔法を復活させること」


 モレットの宿っていた魔導書。

 装丁は古びており、長い年月を感じさせるその本を、彼女はロッタに手渡した。


「これを、あなたに託します。あの娘の魔法はあなたが完成させて。これはあなたにしか出来ないことだから」


「あたしにしか、って……。学長にすら習得出来なかったんですよね、それなのにあたしになんて……」


「出来るわ、あのメダルを手に出来たことがその証拠」


「メ、メダルを? もしかして、あの封印は……」


 これまでに何度か目にした、エクサス教の翼の紋様。

 自分が近付いただけで勝手に反応する封印の数々。

 ロッタはある一つの可能性に思い当たる。


「あなたの考えてることは、おそらく正解です。あの封印はそれを施した術者と、とある魔法を使える才能を持つ者のみに反応するように設定してあるんです」


「その魔法が、モレットさんの司る魔法……」


「私はいつか、あの魔法を使える者が現れると信じて、その者の手助けのためにメダルの所有権を手放し、封印を施した。何百年でも待つつもりだったわ、モレットのために。でもまさか、たった二年で現れるとは思わなかったけれど」


 あまりにも早い登場は嬉しい誤算だったが、おおむねユサリアの計画通り。


「受け取ってくれるわね、この魔導書を」


「……はい」


 大好きな親友に会えない苦しみが分かってしまうからこそ、学長の願いを聞いて、放ってはおけなかった。

 古びた魔導書を大切に抱えて、ロッタは頷く。


「ごめんなさい、あなたを利用する形になってしまって」


「そんな、謝んないでください! むしろこっちが感謝したいくらいなんですから」


「ふふ、ありがとう。その魔法は究極の破壊力を秘めている。習得すれば、きっとあなたの大きな力となるはずです。習得までは何年かかっても構わないわ。何十年でも私は待てますから、焦らなくても大丈夫よ」


「……学長、あたしはそんなに待たせるつもり、ありませんよ」


 自信に満ち溢れた表情で、ロッタは笑って見せる。


「なんたってあたし、学長に勝って世界最強の魔法使いになりますから」


「……まぁ、ふふふ。そういえばあなた、決闘の約束を取り付けに来たんだったわね」


 不敵な勝利宣言にも、ユサリアの余裕は崩れない。

 世界最強の座は譲らないと、笑顔の下に闘志を燃やしている。


「いいわ、相手になります。一ヶ月くらい後でいいかしら。ちょっと忙しくて、そのくらい先じゃないとスケジュールを開けられそうにないの」


「一ヶ月後か……。分かりました」


「闘いの場所は追って伝えるわ。さ、そろそろ戻りなさい。寮の門限まであとわずかよ」


 学長の言葉に、懐中時計を取り出して時刻を確認。

 地下のため外の様子は分からなかったが、時計の針はいつの間にか六時半を指していた。


「うっわ、もう時間ない! 学長、失礼します!」


 ペコリを頭を下げて、慌ただしく封印の間を飛び出していくロッタ。

 モレットの復活を託した少女の背中を、ユサリアは頼もしさ半分、苦笑い半分で見送った。



 ☆★☆★☆



 高速飛行で学院に戻り、寮で食事と入浴を済ませて、ロッタは預かった魔導書に目を通す。

 そして、その魔法の発動条件の厳しさ、絶大な威力を知り、息を呑んだ。


「こんな魔法が……」


 使用すれば間違いなく相手を死に至らしめる、間違っても人間相手には使えない、恐ろしい魔法。


「魔術修練場でも危ないな。ひっろい草原で練習しなきゃ」


 学院内で練習して、もしも失敗・暴走すれば大惨事だ。

 修練場はまるごと消し飛び、何人死者が出るか分かったものじゃない。


『……ふむ、これはまた古い魔導書じゃな。精霊の気配も感じぬ』


 いつの間にかリヴィアが、肩の上から魔導書を覗き見ていた。

 反対側の肩にはノーマ。

 そして、少し離れたところにシェフィが浮かんでいる。


「みんなはこの魔法、知ってたりする?」


『知らないですの。わたい精霊としては、まだまだ若いから』


『あたいも存じないッスね。それにしてもこんな古い魔導書、初めて見ますねぇ……』


『我と同じ……いや、もっと前の時代のものかもしれぬな』


 リヴィアは何度も頷き、興味深そうに術式に目を走らせる。


『知っての通り、我はあの島の守護のために遣わされた精霊。なにぶん知識が偏っておってな。しかし喜べ、その知識の中にはこの魔法のことが入っている。最重要の注意事項としてな』


「おぉ、リヴィア、この魔法知ってるんだ」


『うむ。修行の時、少しばかりなら手助けしてやれるぞ』


「すっごい! やっぱり頼りになるよね、リヴィアって!」


『ですの! リヴィアさんは頼りになって素敵ですのっ!』


『……む、褒めても何も出ぬからの』


 二人がかりで持ち上げられて、顔を真っ赤にする水の精霊。

 土の精霊の方も、なぜか顔を赤くしている。

 一方で風の精霊は、


『ふんっ、あたいよりも後に来たくせにデカイ面しやがって』


 なんだか拗ねていた。


「シェフィ……。あんたもちゃんと役に立ってるよ、そんないじけないの」


『べ、別にいじけてなんかないし……。それにお世辞なんて……、どうせあたいなんて、いてもいなくても同じだし……』


 口では否定しているものの、どこからどう見てもいじけている。


『シェフィよ、この魔法はおそらく、我らの力も合わせねば完成せぬものじゃ。その中でもお主の力は必要不可欠』


『な、なに調子のいい事言ってやがんだ……っ。いい加減なこと言ってご機嫌取りしようったって無駄だかんな!』


『事実だ。お主の力が必要なのじゃ、主殿に手を貸してくれぬか』


『わたいからもお願いしますの』


『そ、そんなこと言ったって、あたいは……!』


「……ねえ、シェフィ」


 ロッタの声に、小さな体がビクりと跳ねた。

 未だに怖がられているのか、と苦笑しながら、優しい声色で語りかける。


「術式読んだけどさ、リヴィアの言ってること本当だよ。シェフィの魔力制御が絶対に必要なの。だからお願い、あたしに力を貸して」


『ロッタン様……』


 いつも邪魔物扱いされていた自分が、力を必要とされている。

 シェフィの目が思わず潤み、


『し、仕方ねえな! お前ら、あたいがいないと何にも出来ないんだから! ロッタン様、いいですぜ。あたいの力、貸してやりますよ!』


 照れを隠すように両手を腰に当て、自信満々に胸を張って見せるのだった。




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