06 はじめましてのご挨拶
魔法都市オルフォードの郊外に位置する、王立オルフォード学院。
広大な敷地内には様々な施設が立ち並ぶ。
闘技場、魔術修練場、スポーツや演劇などを行う多目的ドーム。
書物や魔導書、学院の資料などが保管された大図書館。
そして、生徒たちが寝起きする寮が、武術学科と魔法学科の男子寮と女子寮それぞれの、合計四棟。
これらの施設の中心、武術校舎と魔術校舎の間にそびえる、五階建ての白い建物が中央棟。
学長室、職員室や教職員の宿泊施設、雑務の資料を納めた倉庫などが収まった、学園の中枢となる施設だ。
その最上階、五階にある星斗会室の前へとロッタはやってきた。
タリスに担がれて。
「中にはもうメンバー全員揃ってる。みんなあなたを待ってるから、失礼のないように」
「ちょっと待って、心の準備とか……」
ガラリ。
容赦なく扉が開けられ、タリスが中に踏み入った。
ロッタは雑に放り投げられるが、空中で体を捻って体勢を整え、何とか着地に成功。
「ほう、最低限体は鍛えてる。合格」
「今の、テストだったの!?」
「まあ冗談。それよりみんなにご挨拶、早く」
彼女のペースに惑わされながらも、黒板の前に進み出て、室内の様子に一通り目を通す。
広さは通常の教室の半分ほど。
長机が三つ、凹の形に配置され、そこに座った三人の男女の視線がロッタに注がれていた。
「えっと、今日から星斗会の第五席となりました、魔法学科二年、ロッタ・マドリアードです。よろしくお願いしますっ」
ペコリと一礼して頭を上げる。
三人のメンバーは特に反応なし、ただタリスの拍手のみが響く。
「はい、良く出来ました。私たちも自己紹介を。武術学科二年、タリス・トートラット。知ってると思うけど、得意武器は槍。以後よろしく」
「よろしく。えっと、タリス、で良いよね」
「問題ない。よろしく、ろったん」
「ろ……っ、たん……!?」
「あだ名。可愛いでしょ」
グッと親指を立てられても、なんと返せばいいのだろう。
とりあえず曖昧に笑っておいた。
「さて、がーくん。次はキミの番」
「お、俺かよ……」
がーくんと呼ばれた、短いオレンジの短髪に赤い瞳の小柄な少年。
彼の事も、ロッタは当然知っている。
「ウィン・ガートラス、星斗会第四席、一年。拳闘士。こんなもんでいいだろ?」
「うん、よろしくね」
一年生、入学わずか一週間で星斗会に加わったという天才。
第四席ではあっても、ダルトンとの実力差は大きく離れている。
メダル装備無し、素のロッタが勝てる確率はゼロ。
「はい、がーくんお疲れ。次はらっさんお願いします」
「……そのらっさんなる呼び方、改める気はないのだろうか」
銀の長髪を後ろ髪に結んだ男が、返事をしつつ立ち上がる。
身長は180センチを越えているだろうか。
腰に下げた独特の剣は、東の果てから伝来したカタナというらしい。
「ラハド・フォン・アルガトーレだ。星斗会第二席、三年。貴族の家系に生まれた」
「ラハド先輩、ウワサは色々聞いてます。二十メートルはある大岩をそのカタナで斬ったとか、千の魔物をたった一人で無傷で斬り倒したとか!」
「さぁ、どこまで本当だろうな。色々と尾ヒレが付くものだ、ウワサとは」
握手を交わしたあと、彼は自分の席に戻った。
一見するとフレンドリーだが、どうも心を開かれていないらしい。
初対面なのだから、当然と言えば当然だが。
「らっさんナイス自己紹介。最後にありちゃん会長、どうぞ」
「必要かしら、この自己紹介。この子、わたし達のことはよく知っているんじゃない? 特に、わたしのことは」
長い黒髪をなびかせた少女が言い放つ。
赤い瞳がロッタをじっと見つめ、冷たい眼差しを向けた。
「いいじゃん、聞かせてよ。あんたに会うために、あたしはここまで来たんだから」
「……はぁ。アリーセルス・フォン・ドルトヴァング。二年、星斗会長。これで満足かしら、ロッタ?」
「やっとあたしに口利いてくれたね、アリサ。嬉しいよ、すっごく」
無言で見つめ合い、睨みあうアリサとロッタ。
険悪な空気が漂い始める中、二人の間にタリスが割って入る。
「はい、自己紹介おしまい、お疲れ様。ではありちゃん会長、新メンバーに活動の説明を」
ハラハラしながら見守っていたウィン。
彼は内心、タリスに感謝した。
彼女という歯車がなければ、この集団は絶対にまとまらない。
「そうね、早く用事を済ませて修練に戻りたいところだし、手早く説明しましょう」
ロッタに対し、星斗会の活動内容が説明された。
基本的には他校の生徒会と同じ、生徒が行なう活動の管理や行事の運営を任される。
武術、魔法の両学科から、戦闘力の高い実力者五名が選ばれる、この学院特有の、実力至上主義によって生まれたシステムだ。
「で、現在の活動は近いうちに開催される武術測定の準備。過去のデータをあのキザ男に集めさせていたんだけど、サボってたみたいで。もう時間ないのよ」
「武術測定って?」
「それは私が説明する」
アリサに代わり、タリスが説明を行う。
武術測定とは武術科のみで行われる、身体能力、各々の武器の熟練具合を確認するための行事。
闘技場で行われ、細かな採点が付けられて、成績に大きな影響が出る。
「なるほど、魔法学科の魔力測定と大体一緒か」
「……ということで、早速あなたにお仕事。明日までに過去十年分の武術測定の資料をまとめて持ってくること。ウィン、タリス、あなた達も一緒に行ってあげなさい。あのキザ男がサボってたせいで時間もないし」
「ありちゃん会長、了解しました」
「うぇ、俺もかよぉ。だから下っ端は嫌なんだ……」
やる気満々で敬礼するタリスと、露骨に嫌がるウィン。
巻き込まれた二人に対し、ロッタは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ごめんね、二人とも。なんか付き合わせちゃって」
「問題ない。あのキザ男を好きにさせてた私たちにも責任はある」
「面倒くせぇけど、しゃーねーな……。くそ、あの野郎いなくなる前に、一発顔面にぶち込んどけば良かったぜ」
「あとは任せたわ。副会長、用事も済んだことだし、わたし達はもう帰りましょう」
「あぁ。では、先に失礼する」
アリサが足早に、ラハドは軽く頭を下げて退室。
残った二人にロッタが問いかける。
「ところで、過去の資料ってどこにあるの?」
「俺は知らね。まだ入ったばっかだし。タリス、お前知ってんだろ?」
「もちろん知ってる。資料が保管されているのはあそこ。我が校が誇る巨大ダンジョン、大図書館」