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55 ぱーしゃん歓迎会兼がーくんお疲れ様会




 翌日の学院は授業を休止、文化祭の後片付けに丸一日が費やされ、二年C組ロッタ・マドリアード展も片付けられた。

 ロッタは展示物の焼却処分を主張するが、反対の声多数により却下。

 その恥ずかし過ぎる資料の数々は、学院に大切に保管されることが決定した。


「あぁぁ、死にたい……」


「ドンマイ、ロッタちゃん」


「パーシィだって反対してたくせにぃ……」


 放課後、机に突っ伏したロッタと彼女を慰めるパーシィ。

 いつも通りの光景の中に、いつもと違うところがあった。


「私も見たかった。ろったんだらけの空間」


「なんで教えなかったんだよ。知ってたら絶対行ったのによ」


 周りの机に勝手に腰かけたタリスとウィン。

 今日は星斗会ステラクイントの新人歓迎会が行なわれるため、ロッタと新しく第五席となるパーシィを迎えに来たのだ。

 迎えに来た、のだが。


「教えるわけないじゃん。教えたら絶対行くでしょ」


「行くに決まってんだろ、そんな面白そうなモン」


「がーくんのことだから、お腹抱えて笑いそう」


「ホントやめて」


 二人は使命をすっかり忘れて、ロッタたちと話し込んでいた。


「でもね、照れるロッタちゃんもとっても可愛くって。顔を真っ赤にするとこなんて、これまで全然見たことなかったから、つい意地悪したくなっちゃった」


「ひどいよぉ、パーシィ……」


「ぱーしゃん、中々見どころある。これからが楽しみ」


「タリスまで! むぅ……」


 ニヤニヤしながらロッタをからかうタリス。

 しかし次の瞬間、背後に感じた鋭い殺気に、彼女の薄ら笑いは凍りつく。


「ずいぶん楽しそうねぇ、二人とも」


 続いて耳に届いた、明らかに怒りの感情を孕んだ、非常に聞き慣れた声。

 タリスとウィンが恐るおそる後ろを向くと、そこには満面の笑みと青筋を浮かべた副会長の姿があった。


「楽し過ぎて役目を忘れちゃったのかしら?」


「とんでもない。さあろったんぱーしゃん、星斗会室にれっつごー」


「そ、そうだな! さあ早く行こう! せっかくロッタが用意してくれた豪華な料理も冷めちまう!」


 態度を急変させて二人を急かし、教室を飛び出していくタリスとウィン。

 アリサは彼女たちを見送ってため息をこぼす。


「ごめんなさいね、パーシィさん。あんなのが四席と三席で」


「いえ、そんな! とっても親しみやすくていい人たちだと思うよ」


「気を使わなくてもいいわよ、あの二人にはビシッと言ってやらないと」


「あ、あはは……」


 生真面目で手厳しいアリサと、優しくて控えめなパーシィ。

 同じ優等生タイプでも、二人は似ているようでまったく違う。


「さ、今日の主役はあなたなのだから、早く星斗会室に行きましょう。場所もしっかり覚えて、ね」


 パーシィを促して、一緒に教室を後にするアリサ。

 ロッタも後に続くのだが、アリサが来てから彼女は一度も口を開いていない。

 ただ黙って、二人の後ろを付いていく。


「……」


 その様子が気になったアリサが振り向くと、偶然にも二人はバッチリと目が合ってしまう。


「……っ」


 その途端、ロッタは顔を赤くして目を逸らしてしまった。

 アリサと会ってから、ロッタの脳裏に昨夜のキスが蘇り、過剰に意識してしまう。

 どうやってアリサと接すればいいのか、まるで分からなくなってしまっていた。


(うぅ、ど、どうしよう……。このままじゃアリサにもみんなにも、変に思われちゃう……)



 ☆★☆★☆



 星斗会室の机の上には、ロッタが取り寄せた高級食材で作られた料理がズラリと並ぶ。

 料理をしたのはタリス。

 パーシィを除く星斗会メンバーの中で、彼女が唯一料理の出来るタイプである。


「こ、これ、私のために用意してもらったんですか……!?」


「残念、これはがーくんのお疲れ様用。でもぱーしゃん、がーくんには遠慮せずに食べていいからね。どんどん食べて悔しがらせてやろう」


「おーい、言い方。まるで俺が独り占めしたいみたいじゃねえか」


 連戦を乗り切ったウィンのお疲れ会、文化祭の打ち上げ会、そしてパーシィの歓迎会。

 以上全てを兼ねているのが今回のミニパーティーだ。


「ではでは、まずは今日の主役の挨拶からー」


 タリスに急かされて、パーシィは黒板の前へ。

 緊張の面持ちで自己紹介をする。


「え、と……。今日から星斗会ステラクイント第五席となります、魔法科二年C組、パーシィ・トリアヴァーゼです。皆さん改めまして、これからよろしくお願いします!」


 ペコリと頭を下げるパーシィ。

 彼女に四人分の拍手が贈られる。


 ロッタは自分の挨拶の時を思い出し、雰囲気の違いを強く感じた。

 その原因はおそらくアリサ。

 あの時は氷のように冷たかった彼女が、今は柔らかな表情で微笑んでいる。


(アリサのこの変化って、あたしのおかげなのかな。もしそうだったら嬉しいな。綺麗だな、可愛いな……。ちょっと待って、最後の方変なこと考えてなかった!?)



 その後、四人それぞれ改めての自己紹介も無事に終わり、お食事会がスタート。

 ウィンは容赦なく自分の取り皿に料理を盛り、次々と平らげていく。


「がーくん、意地汚い。料理は逃げないからもっと味わって食べること」


「だ、だってさ、こんな食材めったに食えねえぜ!? それにこれは、俺へのご褒美なんだからさ!」


 高級牛フィレステーキを三枚掴んで、必死の形相で味わう。


(うーちゃん、さっき自分で言ったこと忘れてる……。そんなところも可愛い)


 タリスはそんな彼女を暖かく見守る。

 一方のロッタは、料理をつまみつつ親友のパーシィと談笑。


「パーシィ、おめでとう。魔法科から二人目の星斗会ステラクイント、ホントに凄いよ!」


「凄いのはロッタちゃんだよ、私は別に……」


「いえ、大したものよ。特殊なマジックアイテムも無しにウィンをあそこまで追い込んだあなたの戦略と戦術には、目を見張るものがあったわ」


「アリサさん、そんなに褒められると照れくさいよ……、えへへ。それにアレは色々と仕込んだ作戦勝ちで、私、本当に実力自体はそんなでもないから……」


 二人の会話に積極的に入ってくるアリサ、これも以前なら考えられなかったことだ。

 少し前の彼女だったら、一人で表情を固くして黙々と料理を食べていただろう。

 そもそもこんな集まりを許可しなかったかもしれない。


「謙遜しないの。あなたは紛れもなく——ロッタ? どうしたの、ニヤニヤしながらわたしの顔をじっと見て」


「えひゃっ!? ななにゃんでもないからっ」


 目が合うとすぐに逸らしてしまう。

 すぐに頭の中が沸騰してしまう。

 明らかにおかしな様子のロッタにパーシィは首をひねり、心当たりのあるアリサは深くため息をついた。




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