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51 文化祭三日目、色んな意味で恥ずかしいデート



 文化祭三日目の朝がやってきた。

 星斗会のメンバー四人はまず中央棟の星斗会室に集まり、軽くミーティング。

 パーシィの正式な加入は文化祭後となるため、彼女は不在である。


「えー、では、特に大きなトラブルも起きていないようなので、今日は解散とします」


「「はいっ!」」


 ロッタの解散宣言により、三日目にして星斗会メンバーにようやく訪れた、文化祭を自由に回れる時間。

 キリリと引き締まった星斗会長の顔が、途端に緩みに緩む。


「アリサ、アリサっ! やっとだよ、デートの時間だよ、デート!」


 そのまま、瞳を輝かせてアリサに抱き付いた。


「ちょ、だからデートじゃ……」


「おぉ、らぶらぶ。お邪魔なようなのでこれにて失礼。デート楽しんでね」


「俺らは俺らで勝手に回ってるから、どうぞご自由にイチャイチャしててくれー」


「待って、二人とも! 違うから、誤解!」


 アリサの必死の主張もむなしく、タリスとウィンは一足先に星斗会室を後にする。


「ほらほら、あたしたちも早く行こうよ!」


「もう……。一緒に回ると約束はしたし、急がなくても逃げないわよ」


 困り顔で、でもほんの少しだけ嬉しそうに。

 そんな乙女心を知ってか知らずか、ロッタはアリサの手を引いて、文化祭巡りへと乗り出した。



 手を繋いだまま、中央棟を出た二人。

 この周辺に出し物や屋台はないため、人通りもまばら。

 彼女たちのお熱い姿は、幸いにして誰にも見られなかった。


「さ、どこ行こうか。最初はアリサの行きたいところでいいよ」


「……本当にいいの? 行きたいところはあるけれど、文句言ったりしない?」


「もっちろん。文句なんて言うわけないじゃん」


「そう。じゃあ行きましょう、場所は魔法科校舎よ」


「おっけー! えへへ、アリサとデートっ」


「手は離しなさい、恥ずかしいから」



 ☆★☆★☆



 魔法科校舎へと向かうためには、生徒たちの運営する出店が立ち並ぶ道を通ることになる。

 こんな人目の多いところで手を繋いでいては、変なウワサが立ってしまう。

 関係を勘ぐられるまえに先手を打つ、それがアリサのスマートなやり方。

 この場所を通る前、彼女はロッタの手繋ぎをなんとかやめさせていた。


(こうして並んで歩いているだけなら、ただの友達にしか見えない。変なウワサが立つこともない。完璧ね、わたし)


「ねえ、見て。星斗会長と副会長、並んで歩いてる……」


「あの決闘の後、抱き合ってたもんね……。やっぱり付き合ってるっていうあのウワサ、本当なんだ」


「一匹オオカミの孤高の女だった副会長が、ああして一緒にいるんだもん、間違いないよ」


 しかし、彼女には一つ誤算があった。

 闘技場で抱き合ったことで、二人はとうの昔に校内中のウワサの的になっていたのだ。


「あ、あはは……。なんかウワサされちゃってるみたいだね……」


「……」


「あ、ちょ、待ってよアリサってば、もっとゆっくり歩こうよぉ」


 顔を真っ赤にしながら、ロッタを置いて早歩きで行ってしまうアリサ。

 そんな彼女の後ろを、ロッタが大声で名前を呼びながら追いかける。

 こうして二人は更なる注目を浴びるのだった。



「もう、先に行っちゃうなんてひどいよ!」


「あんな恥ずかしいウワサ立てられて、平気でいられるわけないじゃない! 元を辿れば、あなたがあの時闘技場で抱きついてきたのが原因なのよ、反省して!」


「そうだけどぉ……」


 人目を避けて校舎内に駆け込んだアリサ。

 彼女は人通りの少ない廊下の隅の方で、ロッタを叱っていた。


「大体、あんなに注目を集めて! あなたがもう少し落ち着いていれば、こんなウワサも立たなかったのよ! もっと星斗会長らしく、落ち着きと威厳を持ってみなの手本となるよう……」


「うぅ、ごめんなさぁい。あの時はアリサに褒められて嬉しくって、今日もアリサとデートできて嬉しかったから……」


「う、うぅ……っ!」


 ロッタは目尻に涙を溜めて、捨てられた子犬のように上目遣いで許しを乞う。

 そのあまりの可愛さに、アリサのハートは見事に撃ち抜かれた。


「ま、まあいいわ。反省しているのなら、これ以上とやかく言う意味もないものね。以後、気を付けるように」


「許してくれるの!? やったー、アリサ大好き!」


 涙目から一転、喜びを爆発させてアリサに抱き付く。

 柔らかい体が押し付けられ、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。


(柔らかい、いい匂い、可愛い! この子こんなに子供っぽかったっけ!? こんなにテンション高かったっけ!?)


 いつも以上の積極性と幼さを見せるロッタ。

 それほどまでに、アリサと丸一日一緒に過ごせる喜びが大きいのだろう。

 一方アリサの方はというと、色々と押しつけられて体を硬直させていた。


「じゃあさ、ほら。さっそく行こうよ、アリサが行きたがってた場所!」


「え、ええ。……手は繋がないからね」



 アリサに連れられてやってきたのは、馴染み深い二年C組の前。

 まさか自分のクラスに連れて来られるとは思っていなかったロッタは、恐るおそる問い掛ける。


「あ、あの、行きたかった場所って、本当にここ……? 間違いなくここ……?」


「ええ、間違いないわよ」


「……うん、やっぱやめよう、他の場所にしよう」


「待ちなさい」


 逃げようとするロッタの腕をがっちりと掴んで、にこやかに微笑む。


「文句言ったりしないんじゃ、なかったのかしら?」


「た、確かに言ったけど……」


「じゃあ文句は言わないで。ほら、入るわよ」


「あぁぁぁぁ……」


 無理やりロッタの手を引いて、入り口と書かれた扉から入室。

 まず二人を出迎えたのは、ロッタの精密な全身スケッチ。


「あら、可愛く書けてるじゃない」


「あぁぁ、恥ずかし過ぎて死ぬぅぅ……」


 二年C組の催しもの、ロッタ・マドリアード展。

 彼女のイラストや私物、半生が展示された、魔法科が誇る星斗会長の全てを知れると豪語する一大展覧会だ。

 あまりの恥ずかしさに、ロッタはさっそく死にかけた。


「あ、アリサさん。あれ、ロッタちゃんも? まさか来てくれるなんて思わなかったよ」


 入り口に座っていたパーシィが、二人を笑顔で出迎える。


「あたしだって、来たくて来たわけじゃ……」


「あはは、そうだよねー……」


「わたしが無理やり引っ張ってきたわ。さ、行くわよ」


 ロッタにとっては拷問に等しい恥ずかし空間だが、アリサにとってはまさに宝の山。

 彼女は死にかけのロッタを引っ張って、胸を躍らせながら展示物を眺め始めた。

 自分に向けられる、複雑な感情の入り交じったパーシィの視線には気付かないまま。



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