表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/76

50 新生・星斗会第五席




 夕暮れの闘技場に轟く雷鳴。

 悲鳴を上げてロッタに抱き付くアリサ。

 落雷が砂地を抉り、砂煙が舞い上がる。


 残る全魔力を込めた、必殺の雷冥葬塵リザウンド・ライトニング

 魔力を使い果たしたパーシィに、これ以上の戦闘続行は不可能。

 これで仕留められていなければ——。


「危なかったぜ、正直ダメかと思った」


「……っ!」


 背後から聞こえた声。

 仕留め損ねた。

 対応しようにも体が思うように動かない。


 何も出来ないまま、パーシィの視界がぐるりと回って空を向いた。

 そのまま背中を地面に撃ちつけられ、顔に拳が振り下ろされる。


「勝負はあんたの負け、だけど……」


 ウィンの拳は、パーシィの顔面ギリギリで、ピタリと止められた。

 勝負あり。


「あんたが一番強かったぜ」


 握り拳を解いて、開いた手を差し伸べる。


「ほら、立てるか?」


「はぁ、はぁ……っ、は、はい、なんとか……っ」


 やりきった。

 勝てなくても、全てを出しきった。

 充足感の中、大きく息を切らしながら、ウィンの手を取って立ち上がる。


「肩貸してやるよ。向こうで休んできな」


「あり、がとう、はぁ、ございます……っ」


 ウィンに支えられ、星斗会メンバーの待つ特設席へ。

 大健闘の親友を、ロッタが真っ先に出迎えた。


「パーシィ、凄かったよ!」


「ロッタ、ちゃん……っ、ううん、結局、負けちゃったし……っ」


「俺に勝つつもりだったってとこが、まず凄いんだよな。苦戦さえさせれば、負けてもいいんだぜ? これ」


「だって、勝つつもりでいかないと……、きっと、勝負にもならないから……っ」


 空いていた椅子に座らされたパーシィ。

 魔力は大気中を漂っており、呼吸と共に少しずつ体内に取り込まれていく。

 今は消耗しきっていても、しばらく休めば歩ける程度には回復するだろう。


「しっかし雷冥葬塵リザウンド・ライトニングはねえだろ。ギリギリで麻痺から抜けられたから良かったけどよ、死ぬかと思ったぜ。マジで容赦ねぇな……」


「ごめんなさい……、全力ぶつけないと勝てないと思ったから……」


「パーシィ、ダメだよアレじゃあ!」


「ロッタちゃん……?」


「おう、言ってやれ! 俺を殺す気かってな!」


「あそこで勝負を決めたいなら、雷冥葬塵リザウンド・ライトニングよりもサンダーアローの連射だよ。あれじゃあ当たってもオーバーキルだし、じっさい詠唱長過ぎて抜けられちゃったでしょ?」


「待てコラ」


「冗談だって。パーシィ、やり過ぎだよ。ウィン君が死んじゃったらどうすんの」


「はい、反省します……」


「んん……、それはそれで、俺が実質負けてたみたいで釈然としねぇな……」


 やんわりと親友を叱るロッタ、なんだか勝った気がしないウィン。

 彼女たちの輪に、アリサとタリスも加わる。


「えっと、パーシィさん、だったわね。改めまして、ようこそ星斗会ステラクイントへ」


「ぱーしゃんなら大大大歓迎」


「……えっ、あの、それって」


 二人の自分を迎え入れる言動に、パーシィは驚き戸惑う。


「あたしも異論なし。でもあたしたちは決定権持ってないから。ね、ウィン君、どうかな?」


 この場で任命の権利を持つのはウィンだけ。

 星斗会長のロッタが認めても、彼女が首を縦に振らなければ就任は無い。

 だが、そんな心配はもちろん不要だった。


「あれだけやられて、ダメだって言えるわけねえだろ。もう受付も終了したしな、文句なしだ」


 ウィンが許可を出した瞬間、パーシィは両手で口元を覆った。


「や、やった……! 私、本当に、星斗会ステラクイントに……!」


「すっごいよ! おめでとう、パーシィ!」


 喜びを爆発させたロッタが、パーシィに抱き付く。

 その様子を見たアリサの表情が少々強張るが、タリスの至近距離でのニヤニヤ笑いですぐにポーカーフェイスに。

 和気藹々としたムードの中、ただ一人だけこの結果に納得いかない男がいた。


「ちょっと待ってくれたまえ! 僕はどうなるんだ!」


「あ、ダルトン」


 まだいたんだ、と思っても口に出さない配慮をロッタには持っていた。


「どうなるって……。パーシィの方があんたよりもずっと、ウィン君のこと苦戦させたじゃん。あんたも見てたでしょ」


「うぐぅ、それは……」


「そのとぉぉぉぉぉぉり!!!」


「うわっ!」


 これまで観客席の方にいたピエールが、甲高い声を上げて割りこんできた。

 その場にいた全員が、彼の奇声にビクっと肩を震わせる。


「私も見ていましたぞ、素ン晴らしい! 特殊な装備も無しに一対一で前衛職をあそこまで追い詰める、本当に見事ですっ! このピエール、感動しましたぞぉぉぉ!!」


「と、いうわけよ。残念ながら今回は、あなたとは縁が無かったということで」


「ぬぅぅ……、し、仕方ない。今日のところは引き下がるとするよ」


 反論の余地がないためか、多少は人間的に成長したのか。

 彼は意外にもあっさりと引き下がる。


「だが、ウィン・ガートラス! ますますハーレムが加速した君を許すわけにはいかない! いつか必ず君を倒し、星斗会ステラクイントに返り咲いてみせる! では、さらばだッ!」


 最後にウィンに対してビシッと人差し指を突き付け、捨て台詞を残してその場から去っていった。


「……アイツ、俺の正体知ったらどんな顔するんだろうな……」


「きっとコロっと態度を変えるでしょうね。簡単に想像がつくから余計嫌だわ」


 ピエールやパーシィには聞こえないように、ウィンの正体にまつわる内緒話をする二人。

 そんな中、歩ける程度に魔力が回復したパーシィが立ち上がる。


「あの、皆さん! 改めまして、パーシィ・トリアヴァーゼです。魔法学科二年C組、得意な魔法は雷属性です。あと、えっと……。とにかく、どうかよろしくお願いします!」


 深々とお辞儀をして、自己紹介。


「ええ、よろしくね、パーシィさん」


 右手を差し出したアリサと、固い握手。

 その後、星斗会のメンバーと代わる代わる握手をしていく。


 メンバーが女の子ばかりだからか、パーシィも非常にリラックスした様子。

 ウィンと握手をする時だけは、少し緊張した様子だったが。


 こうして、星斗会に新たなメンバーが加わった。

 星斗会ステラクイント第五席、パーシィ・トリアヴァーゼ。

 後衛職の生徒が二人在籍する星斗会は、学院史上初のことだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ