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05 ロッタの最強装備、ただし校則は守るものとする




 二度寝を始めてしまった女神は放置して、青い腕輪を左腕に装着。

 続いて、右腕に着けている緑の腕輪に目をやる。


 プロテクトリング、メダル60枚。

 防御力+90。

 持ち主の体をミスリルのように硬くしてくれるらしい。


 目立たない腕輪系の防具を選んだのは、理由がある。

 何せ、ロッタは学生の身分。

 制服の上から派手な防具を装備していたら、校則違反で即没収。

 アクセサリーや小物系の防具以外、校内では装備できない。

 七色に輝く虹のローブや、長さ2メートルの大鷲の杖などの派手過ぎる伝説の武具は、泣く泣く諦めざるを得なかった。


 次にロッタが手に取ったのは、ほうき型の小さな髪留め。

 名前はジェットブルーム。

 メダル70枚、素早さ+150。


 普段はほうきの形の髪飾りだが、魔力を込めれば、空飛ぶ魔法のほうきへと早変わりする。

 ほうきには、神様の世界にある『ジェットエンジン』なるモノがついており、超高速移動が可能らしい。

 そっちはさておき、敵の間合いの外で詠唱出来る飛翔アイテムの存在は、魔法使いにとってかなり大きい。


(うん、デザインも可愛い。でも、ジェットエンジンって一体……)


 鏡の前に座って前髪を留めると、次は丈の短い黒いマントを羽織る。


 その名は大魔導師のマント。

 魔法攻撃力+90、魔力最大値80パーセント上昇、そして消費魔力50パーセント減。

 値段はメダル85枚。


 魔法学科では、制服の上からマントの着用が認められている。

 常に羽織っている生徒も多いため、装備しても特に目立たないだろう。


(最後に、この帽子。とんでもない代物だよね、これ)


 ロッタが最後に被ったのは、赤いリボンが巻かれた黒い魔女帽。

 その効果は詠唱時間半減。

 そして、一度の詠唱で同じ魔法を二発使用可能。


 呼子よぶこの帽子、メダル190枚。

 他の装備とは必要メダルの桁が一つ違う。


 一撃で戦局を変える威力を秘めた攻撃魔法。

 だからこそ、詠唱に時間がかかり、魔力も消耗する。

 それを軽々しく連発出来てしまえるのなら、最強の魔道師の誕生じゃないか。


「ふああぁぁ〜あ。終わった? もうお姉さん帰っていい?」


 うたた寝から目を覚ましたマリン。

 大きなあくびと伸びをして、帰りたいオーラを全開にしている。


「ちょっと待って、まだ一つ気になることがあるの」


「お姉さんのスリーサイズ? 仕方ない、教えてあげよう。上から8——」


「エクサのメダル、使いきれないほどあるんだからさ。他の人にも剣とか杖をプレゼントしたいんだけど、ダメかな」


「あー、それは無理。メダルの所有者が取り寄せた武具は所有者登録がされてるから、その人以外は使えないの。例外はあるんだけどね」


「例外って、例えば?」


「ほら、よくあるでしょ。選ばれし者にのみ抜ける聖剣とか。あれ、稀に元の所有者とそっくりの生体データ持ってる人がいて、使用認証突破しちゃったパターンね」


「……なんだ、残念」


 魔力がアップする杖をパーシィにプレゼントすれば、喜ばれると思ったのに。

 それと、彼女・・ともこれから仲直り出来れば、剣を贈ったり出来たのに。

 ロッタは露骨に肩を落とし、そして何気なく時計を見て青ざめた。


「……えっ、八時? ヤバ、時間かけ過ぎた! 朝ごはん食べてる時間ないじゃん! ごめん、もう行かなきゃ!」


「おっ、登校かー。若人わこうどよ、勉学頑張ってねー。お姉さんは帰って二度寝しまーす……」


 煙のように消えるマリンは放置して、ロッタは慌てて部屋を飛び出した。

 数々の神話級装備を身に着けたままで。



 ☆★☆★☆



 王立オルフォード学院。

 ブレスタニア王国の一角、魔法都市オルフォードの郊外に位置する、広大な敷地を有する全寮制の学校。

 騎士や宮廷魔導師を養成するための施設で、卒業までの期間は三年。

 年齢は問わず、入学試験に合格した者が入学資格を得る。


 ロッタ・マドリアードはこの学院の二年生であり、魔法学科の主席。

 しかし、いくら主席とは言っても、魔法学科と武術学科の間には高く分厚い壁がある。


 後衛職は前衛がいなければ何もできない、そんな風潮が漂うこの世の中。

 好んで後衛職を目指す者はおらず、前衛の才能が無い者、あえて後衛を選ぶ変わり者が集う魔法学科は、落ちこぼれのレッテルを貼られている。


 そんな状況で、星斗会ステラクイントの一角を倒し、新たなメンバーとなったロッタ。

 彼女は朝からクラスメイトに囲まれ、もみくちゃにされ、質問攻めを受け続けることとなった。


「も、もう疲れたよぉ。みんなグアァーって来すぎだよ……」


「お疲れ様、ロッタちゃん」


 授業が終わり、時刻は放課後。

 机に突っ伏して魂が抜けかけたロッタを、パーシィが苦笑いで見守る。


「パーシィとも落ち着いて話せなかったし。まあ、英雄扱いも悪い気はしないけどさ」


「ホント、英雄って感じだね。ところでその帽子とマント、どうしたの?」


「これ? えっと……、魔法使い! って感じでカッコいいでしょ!」


「う、うん……。それとね、その変な魔法の杖も気になってるんだ」


「えっと、これは……。そう、秘蔵のマジックアイテム! 決闘のために引っ張り出してきたの!」


 学院の地下に眠っていた、五千万枚のエクサの金貨。

 このことは自分だけの秘密にしておいた方が良いと、ロッタの直感が告げている。

 パーシィは信用出来ても、誰が聞き耳を立てているか分からない。

 もし噂が流れてしまえば、間違いなく面倒なことになる。


「秘蔵の……。凄いもの持ってるんだね」


「でしょでしょ。それよりさ、足のケガ平気?」


「うん。回復魔法かけてもらったから、もう全然痛みも残ってないよ」


「良かったぁ。……ん?」


 ふと廊下側を見ると、緑色の短い髪をした女生徒が、じっとこちらを見つめていた。

 食い入るように、じっと、ただじっと、ロッタの顔を見つめていた。

 一瞬恐怖を抱くロッタだが、すぐに気付く。


「あれ、あの人って、星斗会ステラクイント第三席、槍術使いのタリス・トートラット!」


「正解。もしや私は有名人?」


 廊下側のドアから窓際にあるロッタの席まで、瞬き一つの間にやってきたタリス。

 ワンテンポ遅れて彼女の存在に気付いたパーシィは、短い悲鳴を上げたあと、その顔を思い出した。


「あ、昨日の……。ロッタちゃん、この人って星斗会ステラクイントだったの?」


「残念、有名人じゃなかった。私たちはこれから集会。キザ男が追放されたから、新メンバーのお披露目のために」


 早口で喋りながらロッタの体を軽々と肩に担ぎ上げ、彼女の荷物も全て片手で纏めて持つ。


「よってこの娘は借りていく。さらば」


 そして、来た時と同じく凄まじい速度で立ち去っていった。

 嵐が去った教室に、パーシィはただ一人ポツンと取り残される。


 一方のロッタが連行されたのは、武術校舎と魔法校舎の中心に位置する中央棟。

 その最上階にある、星斗会室。




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