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47 頑張れるのは、あの娘の側にいたいから




 二学期の開始から二週間後には文化祭が始まる。

 そのため、新学期早々、学院内は準備に慌ただしい。


 魔法学科二年C組、ロッタのクラスの出し物は、ロッタの半生と活躍の紹介を掲示する、ロッタ・マドリアード展。

 恥ずかしいからやめてほしいロッタの猛反対を、星斗会長がクラスにいることをアピールしたいロッタ以外のクラスメイト全員に押し切られ、無事に決定した。


「勘弁してほしい……」


 放課後、ぐったりと机に突っ伏したロッタ。

 資料作成のためのインタビューや、様々な角度からの顔のデッサン、色々なポーズを決めての全身スケッチなどの恥ずかし過ぎるイベントの数々に、星斗会長はダウン寸前だった。


「お疲れ様。大変だね、ロッタちゃん……」


「パーシィだって、反対してくれなかったくせにぃ」


「ご、ごめんね、こんなことになるなんて思わなかったから……。それに、ロッタちゃんがこんなに素敵だって、みんなに知って貰いたかったの」


 悪意ゼロの、天使のような笑顔を浮かべるパーシィに、ロッタはこれ以上何も言えない。


「うぅぅん……。とりあえずあたし、ちょっと休む……。修練場には後から行くね……」


「分かった、先行ってるね」


 教室を出ていく親友を見送り、また机に突っ伏す。

 新学期が始まる前日のあの日から、二人は共同で訓練に励んでいた。


(やっぱり誰かと修行すると、一人の時とは全然違うよねぇ……。効率的にも気分的にも……)


 実力は開いているが、一人では試せない色々なことを試せる。

 それに、気持ちの問題でも。


(ずーっとパーシィのこと、ほったらかしにしてたからなぁ……。かなーり申し訳なかったから、今はちょっと気が楽かも……)


 そんなことをぼんやりと考えながら疲れを癒す。

 十分ほど、そうやって机に伏せていただろうか。

 ふと、間近に何者かの気配を感じた。


「……ん?」


 顔を上げると、目の前にはこちらをじっと眺めているアリサの顔が。


「……起きたのね」


「うん、起きた。別に寝てなかったけど。あんた何してんの?」


「星斗会の活動のために、ロッタを呼びに——」


「今日何にもないじゃん」


「文化祭の打ち合わせ——」


「もう終わったじゃん」


「細かい調整とか——」


「あたしたち二人だけでやってどうすんのさ」


「……うぐぅ」


 苦しい言い訳を全て封殺されたアリサ。

 言葉に詰まって顔を赤らめる姿に、ロッタの攻めっ気がくすぐられる。


「もうさ、正直になっちゃいなよ。あたしに会いに来たんでしょ」


「ち、違っ」


「で、あたしの寝顔じーっと見てたんでしょ」


「……——〜〜っ! そ、そうよっ! その通りよ! 何か悪い!?」


 とうとう開き直ったアリサが、顔を真っ赤にしてまくし立てた。

 そんな彼女の頭をニヤニヤしながら撫でる。


「ちっとも悪くないよ。アリサ可愛い」


「可愛くなんて……っ、撫でるのやめなさい!」


「やめなーい」


 遠慮なく頭をなでなで。

 始めは抵抗していたアリサだが、すぐに大人しくなり、撫でられるがまま。


「ふぅ、満足満足」


「……ぁ」


 ロッタが手を引くと、うっかり残念そうな声まで漏れてしまう。


「ありがと。アリサのおかげで疲れもしっかり抜けたよ」


「そ、そう……。それは、良かったわね」


「じゃあ、あたしはそろそろ行かなくちゃ。パーシィも待ってるし」


「……あの娘と? 修練場?」


「うん、今日も一緒に修行! アリサも来る?」


「……いえ、あたしはやめておくわ」


「そっか、じゃあねー」


 元気に教室を出ていったロッタを見送ると、アリサの口から自然とため息が漏れた。


「はぁ、わたしも自分の修行に行こう……」



 ☆★☆★☆



「もっと踏み込んで!」


「はいっ!」


 魔術修練場の中に響く、二人の少女の声。

 手のひらに雷をまとったパーシィが掌底で打ちかかる。

 ロッタは華麗な足さばきで雷の掌打をかわし、身を沈めて足払い。


「わひゃっ」


 体が浮き、尻もちをついたと同時に、雷は消えてしまう。


「お疲れ、だいぶ動きも良くなってきたよ」


 手を差し伸べるロッタ。

 息一つ乱れていない彼女とは対照的に、パーシィは全身汗だく、大きく息を切らしている。


「はぁ、はぁ……。えへへ、ロッタちゃんに褒められたっ、やったね」


 はにかみながら手を取って引き起こされ、お尻についた砂を払う。

 彼女たちが行っているのは、無詠唱魔法を使った近接戦闘の特訓。

 異常な身体能力のロッタやユサリアはともかく、並の魔法使いであるパーシィには不向きな戦法だが、引き出しは多いに越したことはない。


「この調子なら、不意打ちだったら当てられるはず。一撃で倒せる威力は無いけど、電撃で動きも止められる。十分武器になると思うよ」


「うん、でもまだまだ、もっと頑張らなきゃ!」


「すごい気合だね。修行もすっごく頑張ってるし。何か目標でも出来たとか?」


 これまでパーシィが修行を積んでいる場面は、数えるほどしか見なかった。

 他の魔法学科の生徒と同様、自分なんて、とどこか諦めているところがあった。

 ところが、今は連日魔術修練場に通い、ロッタの厳しい修行についてきている。

 この変化には、何か理由があるのではないか、ロッタはそう考えた。


「理由……。うん、あるよ」


「なになに、よければ聞かせて?」


「……うーん、ないしょ」


「えー、秘密なのー?」


「うん、秘密だよ。特にロッタちゃんには」


 口元に人差し指を立てて、にっこり微笑むパーシィ。


「そっか、残念。じゃあもう一本、いこっか!」


「はい!」


 無詠唱で雷の魔法を出し、再び打ちかかる。

 ロッタに攻撃をさばかれながら、パーシィの胸の中は喜びでいっぱいだった。


(言えるわけないよね、修行の理由の一つ。ロッタちゃんと一緒にいられるから、だなんて)


 ロッタに少しでも追い付きたくて、夏季休暇の間、雷冥葬塵リザウンド・ライトニングの修行に明け暮れた。

 それでも、彼女はずっと先を行っている。

 こんなのはただの自己満足だ。


(……なんて思ってたところに、星斗会ステラクイント欠員の話が来た)


 運命だと思った。

 このまま頑張れば、もしかしたら彼女と同じ場所に行けるかもしれない。


(それがもう一つの理由。私は、ロッタちゃんと同じ場所に行くんだ……!)


 強い思いを胸に秘め、迫る文化祭に向かって少女は修行に打ち込む。




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