46 帰ってきた親友は、とっても強くなってました
翌日、学長との戦いで壊れてしまった魔術修練場の様子を見に行ったロッタ。
ドーム内に入った瞬間、彼女は目の前の光景に呆然と立ち尽くす。
その理由は、何の異常も無かったから。
修練場内はいつも通り、何も変わっていなかった。
学長と二人で天井を壊してしまう前と、何一つ変わっていないのだ。
「どうなってるの……? もしかして、一晩で直しちゃったの……?」
床の方は、荒れても一晩で直ることは知っていた。
だがまさか、天井まで。
「……いやいやいや、まさかだよね。きっと学院の人が頑張って修理したんだよ、うん」
何はともあれ、これで新装備の性能を思う存分試すことが出来る。
特訓を始めるため、謎の怪現象に戸惑う気持ちを切り替えた時。
「ロッタちゃん?」
後ろから聞こえた声に振り向けば、そこには青い髪の親友の姿があった。
「パーシィ、パーシィじゃん! 久しぶり、いつ戻ったの?」
「ついさっき。寮に荷物を置いて、すぐここに来たんだ」
「そっか。えへへ、おかえり」
「うんっ、ただいま、ロッタちゃん」
夏期休暇の間、実家に帰省していた親友との、約一ヶ月ぶりの再会。
二人はギュッと両手を握り合い、互いの無事を喜ぶ。
「それにしても、さすがはロッタちゃんだね。まさかと思って来てみたら、やっぱりここにいるんだもん。お休みの間もずっとここで修業してたの?」
「ずっと、ってワケじゃないけどね、まあ大体は。休みの間も色々とあってさ……」
休みの間に起きた様々な出来事。
ラハドの一件と、彼が星斗会を抜けたこと。
新入りの精霊、最強魔法を全て習得したこと。
そして、学長と戦ったこと。
ウィンの秘密に関わる女子会以外の事件を、ロッタはパーシィに話した。
「そっか、星斗会、四人になっちゃったんだね」
「そのおかげでウィン君、文化祭でちょっと大変なんだ。ずーっと戦うことになっちゃいそうで」
「文化祭? 星斗会も何かやるの?」
「うん、自主退会したメンバーがいた場合、挑戦者を募集して、第四席を相手に実力を測って決める規則なんだ。せっかく文化祭が近いんだから、それを星斗会の出し物にしちゃおうってなって」
「第四席が、直々に……。勝たなくてもいいんだよね……?」
「そ、だから入れ替え戦を挑むよりは楽かもね」
説明しつつ、装備しているマジックアイテムを確認して、修行の準備が完了。
と、ここでロッタに一つの疑問が浮かぶ。
「そういえばパーシィ、どうしてここに来たの? まさかあたしを探しに……」
「違うよ」
「あ、違うんだ……」
ハッキリと否定されてしまうと、ちょっと寂しい。
「私もね、修行しに来たんだ。この一月の間いっぱい頑張ってきたから、その成果を思いっきり確かめたいの」
☆★☆★☆
今日もアリサは、日課であるロッタ探しをていた。
彼女がいる場所は、大体が魔術修練場。
続いて図書館、あとは自室。
この三か所にいる場合がほとんどだ。
(まずは修練場ね。ここであっさりと見つかればいいけれど)
修練場に向かう間、会いに来た言い訳を必死で練っていく。
たまたま近くを通っただけ、はこれまでに使い過ぎてしまったため、もう通らないだろうと判断。
もっとも、この言い訳は最初から怪しまれているのだが、アリサは知る由もない。
(わたしも修練場に用があった……これよ! 何の用事かまでは浮かばないけど、ロッタもそこまでは聞いて来ないはず!)
ツッコミ所だらけの名案が頭に浮かんだ。
晴々とした表情を浮かべつつ、修練場前に到着。
ロッタとの会話をイメトレしながら入り口にさしかかったその時。
ビシャアアァァァァァアァアン!!
「ひああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁっ!!?」
突如轟いた雷鳴に、アリサは頭を抱えてその場にうずくまった。
「な、なに今の!? だって、今日こんなに晴れてるのに!?」
涙目で辺りを見回すが、雷雲なんてどこにも見当たらない。
ただただ、雲ひとつない青空が広がってい
るだけである。
「……ああ、そう。そうよね、分かったわ」
ようやく事態を把握。
今のはきっと、ロッタの雷冥葬塵だ。
彼女がここにいるのなら、聞こえてきて当然だ。
怖がることなんて何もない。
何度か深呼吸して気持ちを落ち着け、
「……よし」
すまし顔を作って、修練場の中へと入っていった。
ドーム内に出ると、予想通りロッタの姿があった。
そして、予想に反したもう一人の少女の姿も。
「……ロッタ、ここにいたのね」
「お、アリサ。また偶然通りかかったの?」
「ち、違うわよ! それよりさっきの雷、やっぱりあなたかしら」
「あぁ、なるほど。アリサは可愛いなぁ」
何かを察したロッタが、子どもをあやすような優しい口調で頭を撫でてくる。
「そっかそっか、大丈夫だからね。あれはただの魔法だから、怖くないよ、ほら怖くない」
「ちょ、なに勘違いしてるのよ、別に怖くなんかなかったから! あなたの雷魔法を怖がるわけないじゃない!」
「あたしの? あれ、あたしじゃないよ」
「そうなの? じゃあ誰の……まさか」
ロッタの奥に立つ青髪の少女、まさか彼女が。
視線を向けると、彼女もこちらをじっと見つめており、うっかり目が合ってしまった。
二人は気まずそうに会釈をする。
「そのまさか。パーシィの魔法だよ」
「でも、さっきの魔法は最強の雷魔法よね、多分……」
先ほどの雷鳴、大きさから察するに、雷冥葬塵のものだろう。
雷属性の最強魔法を、ごく普通の生徒であるパーシィが放ったとは、にわかには信じられない。
「この夏季休暇の間、しっかり鍛えてきたんだって。あたしもびっくりしちゃった。凄いよ、パーシィ!」
「そ、そんな、ロッタちゃんに比べたら全然大したことなくて……」
「大したことあるよ!」
パーシィの自信なさげな言動に対し、ロッタは前のめりになって賞賛を浴びせていく。
「たった一ヶ月だよ? あたしだって大火送葬覚えるのに、一年かかったんだから! もう天才だよ!」
「ホントに大したことないの……。あの魔法、小さなころからずっと練習してて、夏期休暇の間にやっと出来るようになったんだ……。一年どころじゃないよ、一年で出来たロッタちゃんの方が天才だよ……」
「そんなことない、凄いよパーシィ! さっすがあたしの親友!!」
ひたすら褒めるロッタと、あまりの恥ずかしさに顔を赤らめるパーシィ。
目の前で繰り広げられる光景は、アリサにとって非常に面白くない。
「……ロッタ、もう特訓は十分でしょう。文化祭の打ち合わせ、行くわよ」
苦しい建前を捻り出してロッタの手を握り、無理やり引き離す。
「ちょ、ちょっと待って。今日は星斗会の集会、なかったはずじゃ……」
「ないわ。だからわたしの部屋で自主的に詰めましょう、段取りとか色々と」
「それはいいけど、なんで引っ張るのぉ……。じゃ、じゃあね、パーシィ!」
「う、うん、またね……」
アリサに腕を引かれて、連れて行かれてしまったロッタ。
そんな親友を見送りながら、パーシィは胸に秘めた決意を新たにする。
ロッタの側にいるために、彼女の遠い背中に追いつくために。