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45 最後の目標は、あの人を越えること



「ほえー、学園長さんとねー」


 トロピカルジュースのストローを咥えながら、水着姿でくつろぐ女神さま。

 ロッタの部屋でもバカンスを続行するつもりらしい。


「そうなの! もうすっごく嬉しくてね、誰かに聞いて欲しくってつい呼んじゃった」


「そっかー、つい呼んじゃった、でお姉さんのバカンスは破壊されたのかー……」


「あ、えと、ホントにゴメン……」


 一時のテンションに任せて休暇を台無しにしてしまったことを、深く反省する。


「まあいいでしょう、お姉さんは器の大きな人なので。……違う、神なので」


「マリンがそこ間違えるんだ」


 確かに、あまりの威厳の無さに神だと忘れそうになるが、本人にだけは忘れてほしくなかった。


「いやー、最強魔法全部覚えたし、学長とも戦えたし。今すっごく満ち足りた気分!」


「そっかー、満ち足りちゃったかー。ならロッタちゃんは、この先どうするの?」


「ふぇ? どうするのってどういう意味?」


「言葉通りの意味だよー。お姉さんは多くを語りません」


 ふんわりとした質問だけを投げかけて、トロピカルなジュースをすする女神様。

 ロッタは彼女の問いかけの意味を、自分の現状も含めて客観的に見て考える。


(あたしの目標、か。アリサとの仲直り、最初の目標。もうとっくに終わっちゃってる)


 星斗会ステラクイントに入るまで、そして、入ってからしばらくの間の、頑張るための目標。

 彼女との仲は、今ではすっかり元通り。

 むしろ、前より仲良くなれたかもしれない。


(五大属性の最強魔法習得も、全部終わっちゃったよね)


 一部の魔導書は棚ボタ的に手に入れたものの、最後の土魔法は自分の意思で目標に定めていた。

 これも今日、達成された。


(だとしたら、あたしの今の目標は? 後衛職の頼りにならないイメージを拭うこと? ……そんなの、あたし一人で頑張ってもどうにもならないよね)


 これは、人生を懸けての大目標だろう。

 ユサリアという存在がいても、後衛全体のイメージは貧弱なまま。

 世界はそんなに簡単には変わらない。

 この学院を卒業してから、少しずつ変えていくことだ。


(だったら、あたしのこの先は……)


 きっとマリンは、目標を見失うなと言いたいのだろう。

 これから先も、次の目標を見つけて走り続けろと、エールを送ってくれている。


「うん、決めた。マリン、ありがとね。なんかあたし、もう満足しそうになっちゃってたみたい」


「おっ、ふにゃってた顔が引き締まってる。やる気出たみたいだね」


「うん、あたしは学長に勝ちたい。勝って、世界最強の魔法使いになりたい!」


 打ち立てた大目標のあまりの恐れ多さに、自分でも笑ってしまいそうになる。

 しかし、マリンは笑わない。

 ただ頷くと、水着姿にも関わらずどこからともなく薄い板を取り出した。


「おっけー、じゃあさっそくお取り寄せいっとく? イバトの板だけはちゃんと持ってきてるから」


 前に下着姿でやってきた時もそうだったが、一体どこに持っているのだろうか。


「んー……。どうしようかな……」


「やっぱりいらない感じかな? だよねー、いくら世界最強の魔法使いっていっても、後衛職には変わんないもんね。これ以上ガッチガチに固めたら、勝負が成立しないかー」


「違うの。あの人に勝つにはこれ以上、どんな装備を身に着ければいいかなって考えてた」


「……あれ? 勝負が成立してたってことは、ロッタちゃん手加減してたんじゃないの?」


「逆だよ、手加減してたのはあの人の方」


「えっ、だって魔法使いでしょ? 身体能力なんて、今のロッタちゃんの足下にも……」


 困惑するマリンに対して、ロッタは戦いの詳細を教えた。

 ユサリアの身体能力が、自分に匹敵、あるいは上回るほどのものだったこと。

 詠唱も短縮している自分よりさらに速かったこと。

 魔法の威力に至っては、完全に上回られていたことまで。

 全てを伝え聞いたマリンは、信じられないといった様子。


「……うっそぉ」


「ホント。これってさ、あり得るのかな」


「うんにゃ、まずあり得ないねー。もし本当なら、十中八九ロッタちゃんと同じだわ、それ」


 ユサリアと戦っている時から、ロッタは薄々感付いていた。

 彼女は自分と同じなのではないか、と。

 その裏付けが、マリンの口から語られた。


「全身がっちりと、メダル装備で固めてるだろうねー」


「やっぱりか」


 身体能力もだが、詠唱の短縮は修行や努力でどうにかなるものではない。

 なんらかのマジックアイテムを使っていたことは明らかだ。


「確信した。あの人に勝つには、今のままじゃまだ足りない」


「よーし、そんなロッタちゃんのために、お姉さんがいいモノを取り寄せてあげよう!」


「エッチなぱんつは禁止ね」


「はーい……」


 先に念を押しておくと、露骨に残念がられた。

 どうやらまた、例のぱんつを取り寄せるつもりだったらしい。



 十分後、取り寄せたマジックアイテムは三品。


「まずはこれ、マジックリボン。可愛いデザインでしょ」


「…………」


「あ、あれ? どうしたの? 気に入らなかった?」


「ううん、可愛いよ。まともなのが来て驚いてるだけ」


「ひどくない!?」


 普段使っているリボンとよくデザインが似た、青地に白い紋様が刺繍されているリボン。

 値段はメダル60枚、効果は詠唱時間の半減。


「追加でさらに半減できたんだ」


「できたんだよ、二重に被せて四分の一。お次はこれでーす」


 続いて取り出したのは黒いニーハイソックス。

 外側に白いラインが引かれ、その最上部に小さなルーン文字が描かれている。


「ルーンズソックス、お値段メダル55枚となっておりまーす」


「ルーンズソックス……」


 そのネーミングに、ロッタは何とも言えない表情を浮かべた。


「薄手で伸縮性もバツグンだから、ロッタちゃんの脚線美も際立つよー」


「う、うん……」


 効果は魔法攻撃力を三倍にまで高めるというもの。

 えっちなぱんつの五倍には及ばないが、十分に強力だ。


「で、これが最後。韋駄天の靴」


 最後のマジックアイテムは、翼のイラストが描かれた革靴。

 お値段メダル40枚。

 装備者の素早さと跳躍力を大幅に上昇させるらしい。


「校則に違反しない範囲だと、こんなもんかな。あとはロッタちゃん自身の魔法の力と創意工夫だね。学長さんがどんなアイテム持ってるのか、お姉さん分かんないし」


「ありがと、マリン」


「いえいえ、それではお姉さん、南の島のバカンスへ戻りまーす。あと四日くらいは呼ばないでねー、ばいばーい」


 ぽん、と軽快な音を立てて、マリンは消えた。

 神様の世界の南国リゾートに戻っていったのだろう。


(……さてと、まずはこのアイテムに馴れる訓練かな)


 感覚を掴むために、どれ程の動きが出来るのか、どれだけ詠唱が短縮されるのかを掴むために、訓練は必要だ。

 しかし、魔術修練場はおそらく修理中。


(うん、訓練は明日かな。それで、明後日からはもう二学期かー……)



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