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44 結界、ついに決壊する



「大気に満ち満ちる風の精霊たちよ——」


 今の本気の風葬散華タービュレント・ブリアルを見せるため、詠唱に入るロッタ。

 しかし、ユサリアはもう待ってはくれない。

 棒立ちのロッタの懐に飛び込み、炎をまとった掌底を繰り出した。


「我が声に……っと、危なっ!」


 詠唱を中断、側転を打って逃れ、更に後ろへと飛び離れる。


(今の、無詠唱の魔法を手のひらに出して、近接攻撃してきた……? そういう戦法もあるんだ……)


 通常の魔法使いには、こんな芸当は不可能。

 無詠唱では威力が低すぎる上、後衛職の身体能力ではそもそも攻撃を当てられない。

 圧倒的な身体能力と魔力を持つ、ユサリアだからこそ出来るのだ。


(……ってことは、あたしにだって出来るはず!)


 新たな戦術を手に入れた確かな手応えを感じ、一瞬だけユサリアから視線を外してしまう。


「ダメですよ、戦闘中に相手から目を離すのは」


 その隙に彼女は空中に飛び上がり、両手に炎を出して追撃を仕掛ける。

 襲い来る左右の掌底を、炎に触れないようにさばきながら着地。

 攻防の中で、ロッタは無詠唱の電撃を手のひらに出し、張り手を繰り出す。


 バチィッ!


 電撃が弾ける音と共に、ユサリアの体は背後へ大きく飛ばされる。

 生じたわずかな時間で、ロッタは詠唱を再開した。


「我が声に耳を傾けたまえ——」


「……お見事、ね。まさか見て盗むだなんて」


 体が痺れて動きを封じられながらも、嬉しそうに笑うユサリア。


「我が欲せしは狂乱の嵐、散らし、猛り、吹き荒び、其の一切を薙ぎ払え」


 彼女が行動不能から回復する前に、詠唱を終わらせる。

 そのつもりだったが。


「撃たせません」


 想定以上に速い復帰を果たし、先ほどよりも早い速度、ほぼ一瞬で射程距離まで到達。


「……っ!?」


 風魔法の掌底を、ロッタの腹部に叩き込んだ。


「ぅあっ……!」


 衝撃が背中側へ突き抜け、ユサリアがみるみる遠ざかっていく。

 そしてすぐに、背中から魔力障壁に激突した。


「けほっ、いった……」


 ダメージ自体は軽微だが、十分な距離を、時間を稼がれてしまう。


「大気に満ち満ちる風の精霊たちよ、我が欲せしは狂乱の嵐、地をも揺るがす災いの具現」


 そして、世界最強の魔法使いによる風葬散華タービュレント・ブリアルの詠唱が開始された。

 ロッタの短縮詠唱よりもさらに速く、精密に、魔力が練り上がっていく。


「散らし、猛り、其の一切を薙ぎ払え」


「まずい、先に撃たれちゃう……」


 ロッタもすぐさま立ち上がり、中断していた詠唱を再開。


「「顕現けんげんせよ、すべてを断ち切る翡翠ひすい禍津風まがつかぜ!」」


 最後のフレーズを同時に唱え終わり、二人の体に風の魔力が満ち溢れる。

 二人は共に両手を前に突き出し、高らかにその名を叫んだ。


「「風葬散華タービュレント・ブリアル!!」」


 巨大竜巻が、二つ同時に発生。

 異なる方向に回転する風の大渦がぶつかり合い、修練場全体を暴風が包み込む。


 ロッタの竜巻の方が規模は小さい。

 だが、連続魔法の効果によって二発目の風葬散華タービュレント・ブリアルが発動。

 二つの魔法が合わさり、ユサリアのものと同規模まで巨大化。


「お、驚きました……! まさかこれほどとは……」


「んぎぎぎぎ……、ちょっとでも気を抜いたら、押し切られそう……!」


 二人の魔法の威力は、完全に拮抗していた。

 楽しさ混じりの驚きの顔を浮かべるユサリアと、歯を食いしばって必死のロッタ。

 衝突する巨大なエネルギーが行き場を無くし、竜巻が天井へと昇っていく。

 そして。


 ギャギャギギギギイィィィィ!!!


 何かを引っかくような音が響き、魔力障壁の天井に二人分の真空の刃が次々に激突。

 小さなひび割れが生まれ、広がっていき、最後には。


 パキィィィィィィッ!!!


「うひゃっ!」


「あら、あらら……」


 魔力障壁が砕け、ドームの天井を竜巻が突き破って大穴を開けてしまった。

 二人はすぐに魔法を解除。

 予想外の結末にロッタは唖然とする。


「……ご、ごめんなさい! 学院の施設、壊しちゃった……!」


「いいのよ、謝らなくて。これはどう考えても私の過失だから。……そう、生徒相手に楽しくなっちゃって大人げなく本気出して施設壊したのは全部、全部私のせい……」


「あわわ、学園長、落ち込まないでください!」


 露骨に落ち込んでしまったユサリアに駆け寄って励ますロッタ。

 こうして近くで見ると、彼女の顔は本当に幼い。

 ロッタと同年代だと言っても通じるほどに。

 学生の制服を着て紛れていても、分からないだろうほどに。


「だ、大丈夫よ……。とにかく、この件に関してあなたに責任は生じませんから、安心してね」


 しかし、微笑んでみせた表情は年長の、大人にしか出せないもの。

 年齢不詳の彼女、実年齢はいくつなのか。

 それを聞く勇気はロッタには無い。


「はい……、あの、学園長。たった一分でしたけど、すっごく勉強になりました!」


 新しい戦闘スタイル、戦いの立ち回り。

 短い時間だったが、得るモノは大きかった。


「もっとずっと戦っていたいくらい。その……、楽しかったです!」


「……ふふっ。私も、こんなに楽しかったのはいつぶりかしら。もし良ければ、また戦ってくれる?」


「うぇぇっ、いいんですか!?」


「ええ、もちろん。今度は時間制限なんて無し。思う存分、広いところで戦いましょう」


「は、はいっ! 喜んで!!」


 満面の笑みで、ペコリと頭を下げるロッタ。

 この一連の戦いをすみっこで見ていた三体の精霊は、体を寄せ合って震えていた。



 ☆★☆★☆



 自室に戻ると、ロッタはベッドにうつ伏せに飛び込み、喜びを爆発させる。


「————〜〜〜〜っ、やったぁーーーーっ!! 学園長が、世界最強の魔法使いが、あたしとの戦いを楽しかったって! 名前覚えられてるだけでも嬉しいのに、また戦いたいって!」


 テンションが昇りきったまま、勢いでマリンちゃん呼び出しボタンをプッシュ。

 ポン、と軽快な音が聞こえ、水着姿の女神さまが出現した。


「……はっ、ここは!? 青い海はどこ!?」


「マリン、聞いて聞いて! あのね、ユサリア様と戦って、褒められて、また戦いたいって!」


「ユサリアって誰!? お姉さんのバカンスは!? 確かに休暇申請通したはずだよね!?」


 片手にトロピカルジュース、額にサングラス、ヒラヒラ付きのビキニを着けた女神さまは、突然の呼び出しにひたすら困惑するのだった。



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