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42 あたいとわたいと我が仲良くなるまで




 街で目的の魔導書を購入し、魔術修練場へとやってきたロッタ。

 土の精霊が宿った魔導書を開くと、ぽん、と軽快な音が響く。

 姿を現したのは、三十センチほどの大きさの三角帽子を被った茶髪の少女。


『ここは……。あなたは?』


「え、と、初めまして。あたしはロッタ・マドリアード。魔法使いだよ。一応、あなたの新しいマスターってことになるのかな」


『マスターさんでしたか。よろしくお願いしますの。わたいはノーマッド、土の精霊ですの。ノーマとお呼びくださいですの』


 ペコリとおじぎをする、非常に礼儀正しくかわいらしい土の精霊。

 これが本当にあのシェフィの親友なのかと、失礼ながら疑ってしまう。


『ノーマ、ノーマぁぁぁっ!!』


 と、その時。

 懐の魔導書から風の精霊が勝手に飛び出した。


『ノーマ、会いたかったぞ、ノーマぁぁ!!!』


『ふぇ? シェフィちゃん……?』


 叫びと共に、親友の下へと一直線に飛んでいく。

 感動の再会かと思いきや、彼女はなんと、ノーマの胸倉を掴んでガクガクと揺さぶり始めた。


『てンめぇ……っ! 十年前に貸したマジックナッツ一粒、返しやがれぇぇぇ!!』


『ふえぇぇ……。シェフィちゃん、あれあげるって言ったですの……』


『あ、あれ? そうだったっけ……?』


『そうですの、それにちゃんと返したですの……』


『あ、あー……。そういやそうだったかもなー。いやー、記憶違いだったかー』


「おい、シルフィード」


『ひっ……!』


 誰よりも恐れる主人の、ドスの利いた声でのフルネーム呼び。

 シェフィの肩がビクンと跳ね、顔がみるみる青ざめていく。


「聞いてた話とちょーっと違うみたいなんだけど? どういうことか説明してくれるかなー?」


『そ、それはその……。いや、決してナッツ取り返すためとかじゃなくてですね、本当に親友なんですよ! な! そうだよな!』


『ふぇぇ……、産まれた本棚は一緒だったけど、別に親友ってほどじゃ……』


『てめっ、口裏ぐらい合わせろや……!』


「ふーん、そっかぁ。そうなんだぁ」


 何度もうなずき、満面の笑みを浮かべながら、無詠唱のファイアボールを手のひらに灯す。


「よーく分かったよ、シェフィちゃん♪」


『ひ、ひぃぃ……っ!!』


 引きつった悲鳴を残して泡を吹き、意識を手放した風の精霊。

 ロッタの口から深い深いため息が漏れ出た。


「はぁ……。ごめんね、ノーマ。こんなんと一緒になっちゃって」


『大丈夫ですの、シェフィちゃん、本当はいい子ですの。それにマスターさんが強くて優しそうな方で、わたい安心しましたの』


 長い袖をヒラヒラと揺らして、楽しげにステップを踏む土の精霊。

 あまりのいい子さに、シェフィのせいで荒んだ心が浄化されていく。


『なんじゃ、さっきから騒がしいのう。ロッタ、精霊の気配がするが新入りか?』


 今度は水の魔導書から声が上がった。

 本を開いてリヴィアを呼び出し、こちらも対面させる。


「リヴィアにも紹介しとくね、この子は土の精霊のノーマッド」


『は、初めましてですのっ、ノーマとお呼びくださいですの……』


『よろしくの。我はリヴァイアス、水の最上位精霊じゃ』


 握手を求めたリヴィアに、ノーマは少々怯えた様子を見せながら、ためらいがちに手を取る。

 そんな彼女に対し、リヴィアは穏やかに微笑み、優しい声色で語りかけた。


『そう怯えるな。我は永い時を洞窟の中に封じられておったのでな。外の世界のこと、色々と教えてはくれぬか?』


『は、はい……。えと、マスターさん?』


「のんびり話してていいよ。あたしはさっそく修行に入るから」


 どこぞの小狡こずるい精霊のせいで修行の開始日時が大幅に遅れてしまったため、ロッタはさっそく土の最強魔法の修行を開始。

 魔導書を片手に膨大な魔力を漲らせる主人を前に、ノーマはまたまた怯え始める。


『ま、マスターさん凄すぎますの……』


『あやつは強いぞ、何せこの我を一撃で沈めたからの』


『ふぇっ!? リヴァイアスさんを一撃で!? わたいなんか話にならないくらいの、高位の精霊なのに……』


『リヴァイアスでは長いじゃろ、リヴィアでよい。我もあれには参ったぞ、まさか瞬殺されるとは思わなんだわ』


 ズガアアッァアアァァァァァン!!


 二人の会話をさえぎるように、修練場内を地響きと轟音が包み込んだ。


『な、なんじゃ!?』


 リヴィアはとっさにノーマの体を抱き寄せて、危険からかばう。

 そのまま注意深く周囲の様子を伺った。

 腕の中の少女の顔が真っ赤になっていると気付かないまま。


 異変の正体は、ロッタの土魔法失敗。

 地面が大きく抉れ、一部が突き出し、平らだった砂地は見るも無残なありさまに。


「あちゃー……。まずったな、術式違ったか」


 ロッタの魔法習得は、いつもトライ&エラーの繰り返し。

 最適な魔力変換術式が完成するまで、失敗は当然、この程度では動じない。


「でも、あんまり失敗すると被害が大きいか……」


 この調子では、完成した時に修練場内はどうなっているのだろうか。

 自分の失敗で精霊二人の仲が急接近したことも知らず、ロッタは頭を痛めた。



 ☆★☆★☆



 しかし、その心配は無用だった。


「あのウワサ、マジだったんだ……」


 翌日の朝、朝食を終えて修練場にやってきたロッタは、目の前の光景にただただ驚いた。

 地割れと突き出した岩盤でひどいことになっていた修練場が、元通りの平らな砂地に戻っている。

 学院七不思議ナンバー5・いつの間にか元に戻ってる訓練施設。

 ただのウワサだと思っていたが、まさか本当だったとは。


「でもこれなら、遠慮なく修行できるね!」


 どういう仕組みかは分からないが、好都合。

 ロッタは失敗を恐れず、今日も修行を続行する。

 そして精霊三人は、


『わたい、リヴィアさんともっと仲良くなりたいですの……』


『む、我の友になりたいと申すか。良いぞ、お主とはこれからも親しくしたいものじゃ』


『お、おい新入り。シェフィ様の子分になるって話は……』


『なるつもりはない、と言うておろう。そもそもお主は何なのじゃ、やたらと偉そうに』


『シェフィちゃん、お友達になりたいなら素直に言わなきゃですの』


 順調に親交を深めていた。




 こうして三日が過ぎ、夏季休暇の終了を二日後に控えたその日。


「大地に満ち満ちる土の精霊たちよ、我が声に耳を傾けたまえ——」


 とうとう、それは完成した。


「我が欲せしは奈落の断崖、堕とし、揺るがし、地をはしり、其の一切を地の獄へ繋げよ」


 ロッタの習得した、五属性最後の最強魔法。


顕現けんげんせよ、すべてを封じる琥珀こはく陥穽かんせい!」


 その名は——。


地裂封葬アビスフォール・グレイブ!!」




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