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41 魔導書を手に入れるためのお金を手に入れるために




 五属性の最強魔法のうち、未習得の魔法は残すところ土属性の一つだけ。

 ロッタは今、この魔法の術式が記された魔導書を手に入れたい。

 とっても手に入れたい。


「……って言っても、お金なんてどうやって作ればいいのかなぁ。はぁ……」


 星斗会室の帰り、中央棟前のベンチに腰掛けて、悩みに悩むロッタ。

 精霊なしの魔導書なら買えるのだが、友達の精霊が宿った魔導書を買うと、シェフィに約束してしまった。

 書店に取り置きも頼んである。


「親に前借り……? 出世払いとか?」


 メダル装備は使用認証がかかっているため、売却不可能。

 食べ物ならば問題なしだが、社会的信用のない学生が売る大量の高級食材なんて怪し過ぎるものを誰が買うのか。


「はぁ……。お金の問題ばかりは、大人に頼るしか……」


「つまり私の出番ですかな?」


「ひっ……!」


 突然上から覗きこんで来た、細身の中年男性の顔面逆さ吊りドアップ。

 口から出かかった悲鳴を、喉の辺りでなんとか押し殺す。


「ピ、ピ、ピエール先生……っ!」


「いかにもピエールですぞ。このたびメデタク、謹慎が解かれました」


 顔を引っ込めてベンチの前面へと回り込む、不審者スレスレの教諭。

 バクバクと鳴る心臓の音を感じつつ、いっそ永遠に謹慎してて欲しいと思ってしまった。


「……あれ? 先生ちょっと痩せました?」


「気のせいでしょう。ところでッ!!」


「やめてください顔近付けてくるの、本当にやめてください」


「何かお困りのようですね、主に金銭面で! 具体的には、土属性の魔導書精霊付きが買えないという悩みで!!」


「もうやだぁ……、なんで知ってるんですかぁ……」


 全ての事情を把握されていることに、ロッタは半泣き。

 そんな彼女の様子は意に介さず、彼は懐からパンパンに膨らんだ革袋を取り出した。


「さあロッタさん、これを受け取るのです」


「……あの、これって一体?」


「あなたの欲しがっている魔導書が購入できるだけの金貨が、入っています!」


「う、うぇぇぇっ!?」


 無理やり押しつけられた革袋を開けると、中には本当に金貨がびっしり。


「それをあなたにプレゼントします! 見返りは一切必要ありませんぞ!!」


「いやいやいや、現金なんて受け取れるわけないじゃないですか!!」


 大量の魔導書のプレゼントも相当だったが、現金はもっと危ない。

 さすがにこれを、なんの対価も無しに受け取ることは出来なかった。


「っていうか、先生金欠だったはずじゃないですか! どうしたんですか、こんな大金!」


「また食費を削ってみたのですよ! 毎日ピーナッツにも、体が適応して参りましたぞ!」


「やめてください、死んじゃいますから!」


 通りで痩せて見えるはずだ。

 このままピエール教諭が死んでしまったら、自分のせいじゃないか。

 何かしなきゃと考えを巡らせて、ロッタはとあるアイデアを閃いた。


(食材、プレゼントすればいいんじゃ……)


 メダルで取り寄せた食べ物に、所有の制限はかからない。

 自分で食べるのはもちろん、他人にごちそうすることも、受け渡すことだって自由。


「先生、ちょっとここで待っててください。具体的には二時間くらい」


「な、なぜですかな……? それよりロッタ君、お金の方は……」


「ちゃんと後で受け取りますから!」



 ☆★☆★☆



「なーるほどねー。食材大量お取り寄せかー」


「そうなの! あのままじゃ先生死んじゃうよ!」


 部屋に戻ったロッタは、さっそくマリンを召喚。

 女神さまはイバトの板を取り出し、自信満々に食材をチョイスしていく。


「任せて任せてー。お姉さんがちょちょいと選んじゃうから」


「お願い。あたし、料理とかあんまり分かんないからお任せするね」


 最後にお取り寄せボタンをタップ。

 すると、食材を転送するための魔法陣が、部屋中に十個ほど同時に展開された。


「……あれ? 同時にお取り寄せできるようになったの?」


「新しいバージョンにアップデートしたからね。技術は日々進歩しているのだよ」


 よく分からないことを言いつつ、なぜかドヤ顔を決める女神さま。

 ロッタが疑問を口にするよりも先に、彼女は他の話題を持ち出した。


「それで、仲直りした彼女とはどうなの? 上手くいってる?」


「……そうだね、うん。上手くいってると思う。昔みたいに、戻れたかな」


「ほうほう、具体的にはどんな感じで?」


「どんな感じって。一緒のお布団で寝たり……」


「おう!」


「一緒にお風呂に入ったり……」


「おぉうっ! キスは? キスはした?」


「いや、するワケないでしょ!!」


 テンション爆上がりの結果、マリンはとんでもないことを口走った。

 顔を真っ赤にするロッタに対し、追及は加速する。


「お、その反応、さては何かあったな?」


「何もないから! アリサとはそういうんじゃ、その、全然、違うんだからっ!!」


「ムキになって否定するの、あーやしーいなー」


「うっさいこの駄女神!」



 ☆★☆★☆



 荷車いっぱいに高級食材を積んだロッタが、中央棟の前へと到着。

 ピーナッツをかじりながら待っていたピエールに、食材の山をお披露目する。


「はい、持って来ました! これを食べて、いっぱい元気つけてください」


「こ、これは……! マドルータ牛の霜降りに、ウェルド海の北海タラ、こっちはスコッタ豚……! 高級食材がこんなに! ど、どうしたのですかな、これは」


「秘宝の力ですよ。あたしの懐は全然痛んでないので、遠慮なく受け取ってください」


「そ、そんな、受け取れませんよ、こんな大層なもの」


 ピエールの反応に、ロッタはニッコリと笑った。


「やっとあたしの気持ち、分かってくれたみたいですね」


「あ……、あぁ。なるほど、確かに受け取りづらいですね、これは」


 ささやかなやり返しに、してやられたと苦笑い。


「でも、あたしは先生とは違いますから、ちゃんと対価は要求します。そのお金、食材と交換でありがたく頂きますね」


 食材を受け渡し、革袋を受け取るロッタ。

 ピエールは感謝を告げて、食材満載の荷車を引っ張っていった。


「……よし、これで——」


『これでダチ公を迎えにいけやすぜ、ひゃっほう! さあロッタン様、街まで今すぐ行きましょい! 魔導書買いに行きましょい!』


「いきましょいって……。そうだね、あたしも早く修行始めたいし」


 魔導書から飛び出したシェフィが、ロッタの周りをテンション高めで飛び回る。

 それほどまでに会いたい友達とは、どんな精霊なのか。

 自分のアリサへの思いと重ねて、微笑ましく見守るロッタだった。




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