04 お仕置き、そしてお取り寄せ
ファイアボールの直撃を受けて吹き飛ばされたダルトンは、大の字になって気絶。
無様な瞬殺っぷりと、大口を開けてよだれを垂らした間抜けな気絶顔に、ファンの女子たちがざわめく。
「勝者、ロッタ・マドリアード!」
エリダの手が上がり、決闘の勝者が告げられた。
ロッタはホルスターに銃身を納め、パーシィに向かって親指を立てて見せる。
「や、やったぁ! ロッタちゃん、勝ってくれた! すごい、魔法学科から星斗会誕生だよ!」
「なるほど。あの武器、非常に興味深い。そして彼女自身も。私たちの新しい仲間、今後が楽しみ」
隣ではしゃぐパーシィに、タリスの呟きは聞こえなかった。
そのまま彼女は音もなく立ち去り、武術科校舎の中へと消えていく。
仲間たちに、新たな星斗会の誕生を伝えるために。
「さぁてと、起きろダルトン。あんたいつまで寝てるのさ」
気絶したダルトンの頬をぺしぺし叩き、無理やり叩き起こす。
「ん、んんっ、なんだい、僕の高貴な顔に……」
「負けたでしょ、あんた。パーシィに謝って」
「ぼ、僕が負けた!? そ、そんなはずは……。先生! 確かなんですか!?」
跳ね起きたダルトンが、エリダに確認を取る。
「確かだ。お前はロッタの魔法を受けて、今まで気絶していた」
「あ、あり得ない……。僕が、公衆の面前で負けて、星斗会の地位も、名誉も失うだと……っ」
「謝って。早く」
「うっ、うぅ……っ」
もはやこれまで。
パーシィの前までとぼとぼと歩き、愛想笑いを浮かべる。
「す、すまなかった、許してくれ、な?」
「どうしてあんなことをしたんですか? 正直に話してください」
「そ、それは、だからたまたま手が当たって……。ぐえっ」
往生際の悪い彼の後頭部が、剣の鞘で殴られた。
その拍子にダルトンは前のめりに転倒、お尻を突き上げてまたも気絶する。
「決闘の約束事を違えようとは。恥を知りなさい、星斗会の風上にも置けない男」
彼を殴り倒したのは、夜の闇のように深い黒髪の女生徒。
長い髪を風になびかせ、赤い瞳と整った顔立ちは、凛として鋭い。
彼女の顔を、名前を知らない者は、この学園に一人としていない。
星斗会長、アリーセルス・フォン・ドルトヴァング。
王立オルフォード学院始まって以来の天才にして、全校生徒の頂点に立つ実力者。
彼女は振り向き、ロッタを横目で見る。
「アリサ。来たよ、ここまで」
「……」
ロッタの言葉には何も返さず、彼女は無言でその場を立ち去った。
その後ダルトンは、マジカルマスケットでケツを叩かれて目を覚ます。
星斗会長の一発がよほど効いたのだろう。
お尻を突き上げたままの姿勢で泣きながら土下座する彼に、逆にパーシィの方が申し訳なくなった。
「本当にすまなかったぁぁぁっ! 許してくれ、この通りだぁぁぁっ!!」
「あの、もういいですから。回復魔法で治りますし、もう十分罰は受けたと思うので」
天使のような笑みで、彼の罪を許すパーシィ。
しかし、ダルトンの醜態はファンの心が離れるには十分だったようで、黄色い歓声を送っていた女生徒たちはもれなく彼を見限ったらしい。
☆★☆★☆
決闘から一夜明けて。
ロッタは寮の自室にて、朝の身支度を整えていた。
白いシャツを着て、チェックのミニスカートを履き、ネクタイを締め、黒いニーハイソックスを着用し、最後に薄紫のブレザーを羽織る。
制服が完成したところで、次は肩甲骨の辺りまで伸びた髪の毛を櫛で梳かす。
最後に、両側に垂れたもみあげの右側の房に、白いリボンをちょうちょ結びに装着。
「よし、完成!」
身だしなみは整え終わった。
今は朝の五時、時間はたっぷりある。
わざわざ早起きしたのは、この時間を作るためだ。
「さてさて、では遠慮なく呼ばせてもらおうかな」
昨夜は疲労が激しくて、駄女神召喚をためらってしまった。
今回は気力充分、品物を取り寄せるための時間も充分。
取り出した呼び出しボタンを、遠慮なくプッシュ。
ポンっ。
「すぴー、すやぁ。むにゃむにゃ……」
煙と共に現れたマリンは、パジャマ姿で夢の中だった。
「うん、お姉さんもっと常識的な時間に呼び出して欲しかったかなーって」
「ごめん。まさか神様も寝るとは思わなかった」
寝起きで機嫌が悪いマリン。
枕を抱きしめつつ頬を膨らませる姿に、神聖さは欠片もない。
「で、こんな朝早くからなんの用事? お姉さんと仲良くしたいのかな?」
まだ寝言を言っているのかな、と心で思っても、口には出さない優しさがロッタにはあった。
「昨日は時間無くって、じっくり見れなかったからさ。今なら時間に余裕あるから、交換出来るアイテム見せてよ」
「はいはい、分かりましたよー。どーせメダルの景品にしか興味ないんでしょーよ」
唇をとがらせて拗ねながら、イバトの板を手慣れた手つきで操作する女神さま。
彼女の説明を受けながら、ロッタは気に入ったマジックアイテムを片っ端から取り寄せるのだった。
そうして約二時間後、ロッタの部屋には大量の神話級アイテムが並ぶこととなった。
「それじゃあ、取り寄せたモノのおさらいするけど……、大丈夫? マリン疲れてない?」
「へいきふああぁぁぁぁ〜……」
返事の途中で大きなあくびをするマリン。
明らかに大丈夫ではなさそうだ。
「えっと……。じゃあまず、このマジカルマスケットのおさらいから」
銃身は白、弾丸装填数は一発ずつ。
合計六つの弾丸に、大小、種類に関わらず様々な魔法を込めることができる。
「つまり、あらかじめ強力な魔法を込めて、いざという時にノータイムで放てる切り札。そんな感じだね」
「うんうん……、そんな感じ……」
「半分寝てるね、あんた。次はこれか、フォースシールド」
値段はメダル50枚。
防御力なる謎の数値が+85アップするらしい。
一見するとただの青い腕輪、しかし、わずかな魔力を込めることで半透明の防御フィールドを盾状に展開させる。
「いつもは腕輪だから目立たないし、実体を持たない盾だから重さもゼロ。これなら魔法使いのあたしにも使えるね、マリン」
「うん……、むにゃ……」
「もう完全に寝てるし。仕方ないな、あとは自分で確認してくか……」