39 幻の美少女うーちゃん、ここに降臨
突然の暴露に、アリサは言葉を失う。
春先からここまでの約四カ月間、ずっと男子だと思ってきた相手が女子だった。
そんなことをいきなり言われて、信じられるはずがない。
「……あの、それは何? 何かの冗談かしら?」
「論より証拠、髪の毛外して見せればいい」
「ちょ、待てってば!」
オレンジ色の短髪ウィッグが、タリスの手によって外された。
サラサラのロングストレートが解放され、毛先が腰の長さまで落ちていく。
「どう、ありちゃん。すっごい美少女でしょ」
「可愛いよね、ウィンちゃん! あたしもさ、初めて知った時は美少女過ぎてびっくりしたよ」
「び、美少女美少女言うんじゃねぇ! それと! ウィンちゃんって呼ぶなっつっただろ!」
「お、がーくん照れてる。可愛い」
「可愛いなぁ、ウィンちゃんは」
「やーめーろー!」
タリスとロッタに両側から挟まれ、頭を撫でられて顔を真っ赤にするウィン。
アリサはようやく現実を飲み込めてきた。
「……そう、本当なのね、ウィン。あなた、本当に女の子だったのね」
「副会長、見てないで助けろって!」
あの日、海岸でロッタがウィンと手を繋いでいた理由も、ワケを聞かれて言い淀んだ理由も、全てに納得がいった。
その後、タリスの口からウィンの事情が語られる。
アリサが全てを把握した時、ウィンはロッタに強く抱きしめられ、彼女の胸に顔を埋めてもがいていた。
☆★☆★☆
夏季休暇中の女子寮には、四分の一ほどの生徒しか残っていない。
ただ、いくら少ないとはいえ人の目はゼロではない。
男子の格好をしたウィンが歩いていれば、誰かに見られて不審がられてしまうだろう。
「いや、俺はいつも忍び込んでるし、誰にも見つからない自信あるぜ?」
と、ウィンは主張。
しかし、万が一誰かに見られたら、という可能性は捨てきれないと、そう熱弁したタリスとロッタ。
そして、規則にうるさい副会長も、
「男子の姿をしたあなたを女子寮に入れるわけにはいかないわ」
と、強固に主張し、ウィンの意見は満場一致で取り下げられた。
その結果、
「なんなんだよぉ……。なんで俺がミニスカートなんて……!」
ウィンは星斗会室にてウィッグを没収され、タリスがなぜか持っていた予備の夏服を着せられてしまった。
そして今、四人はアリサの部屋を目指して、武術科女子寮の廊下を歩いている。
丈の短いスカートを片手でおさえる、オレンジ色の長髪の美少女。
どこに出しても恥ずかしくない完璧な美少女だ。
「はぁ、ウィンちゃん可愛い……」
「涙目がポイント。恥じらいが可愛さを更に増している」
「やめろってばぁ……」
可愛いと言われ馴れていないウィンに浴びせられる、可愛い連呼攻撃。
彼女は耳まで顔を真っ赤にして、うつむきがちに廊下を歩いていった。
幸いにして、誰にも見られることなく、彼女たちはアリサの部屋の前まで到着。
アリサがカギを開け、三人を中へと招き入れる。
「ここがわたしの部屋。さ、みんな、入って」
部屋の中はしっかりと整理整頓されていた。
本棚に綺麗に並ぶ、教科書や参考書、資料。
床にはごみ一つ落ちておらず、ほこりっぽさもない清潔そのもの。
だが、なによりも目を引くのが、ベッドの上に形成されたファンシー空間。
「……くまだ」
「大量のくまさん」
「あたしは知ってた」
「……なによ、クマさんたち可愛いじゃない。なにか文句あるの?」
アリサの部屋にやってきた四人は、さっそく星斗会の資料を当たる。
自ら星斗会を辞任した者が出た場合の規則は、次のようなものだった。
「教師立ち会いの下、第四席が力試しをして、相応しい者を選出する……? な、なんだこれ……」
「つまりがーくん、じゃなかった。うーちゃんが挑戦者募集して第五席を決める」
「うーちゃんはやめろ! 二度とやめろ!」
「挑戦者の募集……。ウィンに勝たなくてもいいワケだし、星斗会に入るまたと無いチャンスになる。大々的に募集すれば、大勢の参加者が来るでしょうね」
「俺の負担がでかすぎねぇか……」
「何も一日でやらなくてもいいじゃない。数日に分けて見ていけば」
「ろったんはどう思う?」
先ほどからずっと黙りこんで何かを考えている星斗会長が、タリスに話を振られて、ようやく口を開いた。
「……文化祭って、数日間にわたって行われるよね」
「ええ、正確には三日間ね。それがどうかしたの?」
「星斗会で行う文化祭の出し物、これにしちゃえばいいんじゃないかな。星斗会第五席チャレンジ」
ロッタが考え込んでいたのは、このアイデアだった。
星斗会の出し物が解決し、大勢の参加者も見込めて、参加するための敷居も低くなる。
「挑戦してくれた人には、何か景品を出したりさ」
「参加者全員に出すとなると、予算の面で厳しいけれど。ウィンが戦って強いと思った相手に景品をプレゼント、なんてのは面白いわね」
「お、俺の負担……」
「ウィン君には、終わったらいっぱいご褒美あげるから! 好きな物を好きなだけごちそうしてあげる、どんな高級食材でもいいよ!」
「……ホントか? ウェルドガニでもスコッタ豚でも? マジで?」
「マジで。お宝の力でなんとでもなるから」
「マジか。おっしゃ、燃えてきた!!」
食材ならば、メダルの所有権とは関係なく誰でも食べられる。
必要枚数も少ないため、まったく負担にならない上に、ウィンのやる気を燃え上がらせることにも成功。
(食材交換、こんな使い道があったんだね。ウィン君がやる気になってくれてよかった)
「それじゃ、その方面で話を進めよう。まずは開催場所だね。やっぱり闘技場?」
「そうなるでしょうね。文化祭では人気のスポットだけれど、どうにでもなるわ。星斗会の権力さえあれば……、ね」
とっても悪い顔で笑うアリサ。
権力を振りかざすことにためらいがない、貴族ならではの姿であった。
こうして四人は、予算案、開催場所、商品の設定などを詰めていく。
話し合いはこの上なく順調に進み、日が沈む頃には職員への提出資料が完成した。
羽ペンを机の上に放り投げ、ロッタは両手を上げて伸びをする。
「うーん、終わったぁ。みんな、お疲れ様」
「お疲れ。さてさて、ここからはお楽しみのお風呂タイム」
「全員でお風呂? いいんじゃないかしら」
外は暗くなり始め、夕食まで一時間といったところ。
食前と食後、入浴はどちらでも自由なのだが、タリスは食前派らしい。
「あたしもさんせーい。……いや、ちょっと待って。お風呂ってことは服脱がなきゃいけない……、つまり、アレを見られる……?」
「なぁ、俺も一緒なんだよな、当然。嫌な予感しかしねぇんだが……」
恥ずかし過ぎるブラを着けていることを思い出したロッタ。
散々女の子として可愛がられたために、入浴を警戒するウィン。
ノリノリのタリスが、二人を見つめてニヤニヤと面白そうに笑っていた。