表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/76

37 アリサの方が、ずっと強い




「五千……万枚、だと……?」


「先輩、この決闘、あと二回の魔法で終わらせるから」


 ロッタから感じ取った強烈な殺気に、ラハドは背後へ飛び退き、間合いを離す。


(バカな、五千万枚……? 二回の魔法で僕を倒す……? ハッタリだ、ハッタリに決まっている……!)


 彼女の発言は、どちらも信じられるものではなかった。

 戦闘中に、敵の発言に耳を貸して動揺する必要もない。


(攻撃が効かなかったのも、何か理由があるはずだ。まずはそれを探して——)


 冷静に勝利への道を探るラハドに、ロッタは無造作に銃を向ける。


「またファイアボールか? 水の壁には無力だと証明されたはず」


「うん、凄いねその水バリア。でもあたしの水の方がもっと凄いから。はい、まずは一発目」


 引き金が引かれ、魔力の塊が撃ち出される。

 水の壁に命中した魔力弾が弾け、大量の水へと変わった。


「なん……っ」


 渦を撒きながらラハドに殺到、すぐに彼の体は水流に飲み込まれる。


「が、がぼっ……!」


 観客席への被害は無い。

 全ての水がラハドの周囲に集まるよう、魔力をコントロールしているからだ。


「これが一発目。水の最強魔法、螺旋嘯葬タイダル・ボルテックス。……聞こえてないか。このままだと溺死しちゃうから、すぐに二発目いっとくね」


 水の魔力を制御しながら、同時に雷魔法の詠唱を開始する。


「大気に満ち満ちる雷の精霊たちよ、我が声に耳を傾けたまえ——」


 同時に二つの魔法を制御することは、非常に困難。

 だが、今の彼女には失敗する気がこれっぽっちもしなかった。


「我が欲せしは天空の裁き、瞬き、轟き、降り注ぎ、其の一切を討ち払え」


 極度の集中力の中、もっとも苦手とする雷の魔力を、必殺の領域にまで高めていく。


顕現けんげんせよ、すべてを誅する紫電の轟雷!」


 詠唱完了。

 螺旋嘯葬タイダル・ボルテックスを解除し、ずぶ濡れのラハドが空中に放り出される。

 標的を彼に定めたロッタは、高らかにその名を叫び、雷の魔力を解放した。


雷冥葬塵リザウンド・ライトニングっ!!」


 ビシャアアァァァァァァァアァンっ!!!!


「ぐああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁッ!!!」


 耳をつんざくような雷鳴が轟いた。

 低空に発生した小さな雷雲から、極太の雷がラハドへと落ちる。

 全身を電撃が走り抜け、彼は一瞬で意識を失った。


 ドサっ。


 力なく倒れたラハド。

 ロッタはゆっくりと歩み寄り、首元に手を当てて脈を確認。


「……キュアー」


 息があることを確かめ、低級の回復魔法を雑にかける

 そして、呆然と立ち尽くすエルダの顔をうかがった。


「あ……、と……、しょ、勝者、ロッタ・マドリアード!!」


 決着が告げられる。

 その瞬間、ざわめき混じりの歓声が巻き起こった。



「び、びっくりした」


「大丈夫か、タリス」


 落雷の轟音に飛び上がり、椅子から転がり落ちたタリス。

 あまり表情を崩さない彼女が、頬を赤く染めた貴重な照れ顔を披露している。


「がーくんこそ、なんで大丈夫なの……」


「雷雲が見えた時に、何が来るか分かったからな」


 ウィンは以前、あの魔法がリヴァイアスに炸裂した場面に居合わせている。


「来ると分かっている雷には驚かねえよ。よっぽど苦手でなければさ」


「……ん? よっぽど苦手?」


 ウィンの言葉で、よっぽど苦手な人物がいたことに思い当たる。

 先ほどからずっと静かな彼女、まさか気を失ってしまっているのでは。

 左隣を確認したタリスに、アリサはきょとんとした顔を見せてくれた。


「どうしたのかしら、タリス。そんな顔をして。ロッタが勝ったのに嬉しくないの?」


「う、うれしいけど。ありちゃん、雷平気なの?」


「平気よ? 雷と言っても、あれはロッタの魔法だもの。あの娘の魔法なら、全然怖くない」


「……ほう、なるほど。つまり愛の力」


「あ、愛って……っ!」


 アリサの顔が真っ赤に染まった。

 血液の量もしっかり回復したようだ。


「お、この反応。もしかして冗談じゃなくなっちゃったりする?」


「もう、黙りなさい!!」




 意識を取り戻したラハドは、上半身を起こして周囲を見回す。

 自分の敗北を悟ると、悔しさに顔を歪めて地面を殴りつけた。


「くそ……っ、メダルの力を手にしても、まだ届かないのか……! 五千万枚だと、ふざけるな……! そんな幸運があれば、僕にだって!」


「うん、あたしには勝てるかもね。けど同じ条件でやったら、アリサには絶対に敵わない」


「なんだと……。あの女は昨日、対等な条件で僕に負けた! 無様に負けただろう!」


「先輩の武器は、防御フィールドを展開するカタナと、自分の速度を大幅に上げるカタナの二本。対してアリサは、形を変えるだけが能力の剣が一本。さらに言えば、先輩はアリサの剣の能力の能力を知っていて、アリサは知らなかった。これが対等な条件? 笑わせるよね」


「何を偉そうに! 装備が無ければ何も出来ない分際で! 装備の強さに頼りきっているくせに、偉そうに説教か!」


「装備の強さに頼りきってる? それ、先輩も同じですよね」


「……っ!」


 アリサを侮辱された、彼女の強さを否定されたことが、ロッタには何よりも腹立たしい。

 どれだけ言っても足りないほどに、怒りが次々と溢れてくる。


「これでもまだ納得いかないのなら、アリサとお互いに、普通の武器で戦ってみてください。先輩は絶対に、アリサには勝てないから」


 これ以上続けたら、ただの罵倒になってしまう。

 何も言葉を返さなくなったラハドを置いて、ロッタは星斗会メンバーのもとへと向かった。


 観客席へと軽く飛び上がり、真っ先にアリサの前へ。

 彼女の両手を握って微笑みかける。


「アリサ、見ててくれた? ちゃんと仇は討ったから!」


「仇って。わたしは生きてるわよ?」


「ロッタさん、すンばらシイイィィィィィィィッ!! 私が授けた雷の魔導書、そこに記された最強魔法をこの短期間であのような精度に仕上げるとは、このピエール感涙にむせび泣いておりますぞぉぉぉぉぉおっ!!」


「ピエール先生、空気は読むべき」


 涙を流しながら、二人の空間に割り込もうとしたピエール。

 その暴挙はタリスによって阻止され、首根っこを掴まれた彼は闘技場の外へ連れ出されていった。


「生きてるけどさ、ホントに我慢ならなかったんだもん。聞こえてなかっただろうけど、あたしはともかくアリサの悪口まで。許せないよね」


「知っているわ」


「……うぇぇぇっ!? 嘘、アレ全部聞こえて……!? じゃあ、あたしのアリサ絶賛セリフも……」


「聞こえていた、というよりは読唇術ね。何を話していたかは大体分かってるわ」


「あうぅぅ……、恥ずかし過ぎる……」


 髪の色に負けないくらいに顔を赤らめるロッタ。

 普段隠し続けている素直な気持ちが筒抜けになってしまい、非常に恥ずかしい。


「ありがとう、ロッタ。あんな風に思ってくれていたなんて、とっても嬉しかったわ」


「やめてよぉ、もう……」


「でもね、ロッタが運だけで強くなったなんて、わたしは思っていないから」


 彼女がどれほどの努力を積んで来たのか、アリサは知っている。

 仲直りのためだけに、最強の火炎魔法を習得して、馴れないデータ集めをして、必死に魔力を高めていた。

 魔法の修行も、メダルを手に入れてからも一日だって欠かしていない。


「そんなあなたを悪く言うのは、たとえあなた本人でも許さないから」


「アリサ……。アリサぁっ!!」


 感極まって抱きしめる。

 仲直りを諦めかけたこともあったアリサが、自分をここまで想ってくれている喜びを爆発させて。

 決闘の勝者である自分に、闘技場中の視線が注がれていることに気付かないまま。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ