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33 精霊さんの願い事




 メダルの所有権を破棄することが可能だなんて、今までマリンから聞かされていなかった。

 思えば、知らせる必要もなかったのだろう。

 ロッタとしても、この先も五千万枚のメダルを手放すつもりはない。


「なるほど、だったらアレも、誰かが所有権を破棄したんだろうな……」


 隠されていたメダルを使えた理由は分かったが、一体誰が集めて、誰が破棄して、あそこに隠したのか。


「アレって、ロッタが見つけたメダルの事かしら。あなたの装備の量と質、相当の枚数を見つけたみたいね。五百? それとも千?」


「五千万枚」


「……は?」


「五千万枚」


「……そう。そうなのね。分かったわ、魔導書店に行きましょう」


 片手で軽く頭を押さえて歩き出すアリサ。

 果たして冗談と受け取ったのか、それともあまりの数字に頭が痛くなっただけなのか。


「そだね、立ち話で続ける話題でもないし。行こっか」


 いずれにせよ、人ごみの中では誰に聞かれるか分からない。

 ロッタも彼女に続き、オルフォードの街並みを歩いていく。



 ☆★☆★☆



 魔導書店に入った二人。

 ロッタは棚に目を通し、土の最強魔法が記された魔導書を探す。

 精霊憑きの魔導書は値段が五倍近くに跳ね上がるため、通常の魔導書をチョイス。

 手に取ってページをパラパラとめくる。


「うん、これがいいかな」


 なんの変哲もない、普通の魔導書をレジへと持っていこうとしたその時、懐の魔導書からシェフィが飛び出した。


『ちょ、ちょっとお待ちくださいロッタン様ぁ〜!』


「ど、どうしたの突然……」


『実は、親友の土の精霊の宿った魔導書が、この書店にあるんでさぁ……。最強魔法の術式も載ってますからお願いです、その精霊が憑いた魔導書を買ってくだせぇ……』


「え、えぇ……。そんなこと言われても、お金ないし……」


『お願いします~……』


 必死に食い下がるシェフィと困り顔のロッタを、アリサは呆れた様子で見守る。


「……ねえロッタ。それ、長くなりそうかしら」


「う、うん……。ごめんね、待たせちゃうかも」


「いいわ、わたしは隣の武具屋で防具を見てるから。終わったら来てちょうだい」


「わかった。出来るだけすぐ行くからね」


『そんなつれないこと言わないでくだせえ! うんと言うまであたいは動きませんぜ!!』


 いつになくガッツを見せるシェフィの声を背に、アリサは魔導書店を出た。

 しかし武具をあさる気分にはならず、そのまま武具屋との間に置かれたベンチに座る。


「……はぁ、思ってたのとだいぶ違うわね」


 ロッタとのデートに胸を弾ませてみたものの、その実態は本当にただ買い物をするだけ。

 勝手に浮かれていた自分がバカらしくなるほどに、ロッタはいつも通り。


(そもそも、なんでわたしがこんな思いをしなきゃいけないのよ……。あの夜の出来事から、ロッタの顔が頭を離れなくなっちゃったじゃない)


 どういうつもりで抱きしめてきたのか、あんな甘い言葉を囁いてきたのか。

 あの日以来、胸に芽生えた何か。

 もしかしたら、もっと前からくすぶっていたのかもしれない。

 しかし、あの出来事があってから、その想いは無視できないほどに膨らみ、そして。


(自覚、しちゃったじゃない。どうしてくれるのよ、責任とってよ……)


「はぁ……」


「おや、アリサ君。こんなところでため息なんて、どうかしたのかい?」


 聞き慣れた声に顔を上げれば、銀髪の青年が穏やかな笑みを浮かべていた。


「ラハド先輩……? あなたこそ、こんなところで何を?」


「ちょっと、そこの武具屋に用があってね、その帰りさ。それより何か悩み事かな?」


「悩みなんて、そんな大したことじゃないわ。少し休んでただけ」


「そうか、悩みはないのか、良かった。——僕に負けた時の言い訳にされたら、たまったものではないからね」




『ロッタン様ぁ……、おねげぇしますだぁ……。えぐ、ひっぐ……』


 涙と鼻水を流しながら主人にすがりつく風の精霊。

 若干口調がおかしくなっている。


「だから、お金がないんだってば。無いものは無いの、どうしようもないの」


『しょんなぁ……』


「……はぁ、分かったよ。もう少しお金貯めて、そのうちその子が入った魔導書買ってあげるから」


『ほ、本当ですか!? さすがロッタン様、信じていやしたぜ!』


 あまりにも必死なシェフィのお願いに、ロッタはとうとう折れた。

 離ればなれの友達に会いたい、その気持ちが痛いほど分かるから。

 普通の土の魔導書を棚におさめて、店員に精霊が宿った魔導書の取り置きをお願いする。


(なんとかお金、作らなきゃなぁ……)


 仕送り貯金ではとても手が届かない。

 ピエールにお願いするのも気が引ける。

 メダルをお金に変える方法はないものか、考えながら店を出ると、


「……負ける? わたしがあなたに? 言ってる意味が分からないわね」


 アリサの声が耳に届いた。

 目を向けると、そこにはアリサと、そしてラハドの姿。


「あれ? 先輩、偶然ですね」


「あぁ、星斗会長。キミもいたのか、丁度いい」


 穏やかな笑みを浮かべたまま、彼は告げる。


「立会人になってくれないかな? 僕と副会長の入れ替え戦の、さ」


「い、入れ替え戦!? 先輩と、アリサが!?」


「……どういうつもりなの、ラハド先輩」


 ベンチから立ち上がり、ラハドの顔を睨むアリサ。

 彼女の放つ殺気をまともに浴びて、彼は顔色一つ変えない。


「どうもこうも、今言った通りさ。今からキミに、星斗会ステラクイントの入れ替え戦を申し込む。勝った方が副会長だ」


「……そう、本気なのね。分かったわ、相手をします。ロッタ、わたしからも立ち会いをお願いできるかしら」


「い、いいけど……」


「嬉しいよ。それじゃあ二人とも、今日の夕方四時、闘技場で待っているよ」


 普段通りの優しげな表情で、まるでなんでもないことのように言ってのけると、彼はその場を立ち去っていった。


「ねえ、アリサ。本当に大丈夫? 先輩、すごい自信だったけど……」


「平気よ。あの人の強さは知っている。その上で、わたしはまだあの人より強いと断言できるもの」


「う、うん……。でも、気を付けてね。もしかしたらラハド先輩——」


 孤島で彼が財宝を見つけた証拠は無い。

 だが、もしかしたら大量のメダル装備で身を固めて、圧倒的な力を見せつけるかも。

 その可能性を、アリサに伝える。


「そうなの、そんなことが……。確かにあの自信、裏付けはあるのかもしれない。それでもわたしは絶対に負けないから」


「アリサ……」


「あなたにも誰にも、わたしはもう絶対に負けない。だからあなたはわたしを信じて、安心して、わたしの勝利を見届けなさい」


「……うん、信じる。信じて見てるからね」




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