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32 おや? 副会長さんの様子が……




 臨海学校が終わり、学院は夏季休暇に入った。

 生徒たちはそれぞれ、里帰りしたり学院に残ったり。

 そんな中、星斗会長であるロッタは学院に残り、


「大気に満ち満ちる水の精霊たちよ、我が声に耳を傾けたまえ——」


 リヴィアの宿った魔導書に記された、最強の水魔法を習得するために、魔術修練場にて訓練に励んでいた。


「我が欲せしは無限の螺旋、逆巻き、砕き、荒れ狂い、其の一切を深淵へ沈めよ」


 実戦を想定して、詠唱は短縮版。

 どの程度のタイミングで放てるのか、感覚として把握していく。


顕現けんげんせよ、すべてを飲み込む紺碧こんぺき波涛はとう!」


 体中に水の魔力が満ち溢れ、詠唱は完了。

 両手を前に突き出して、高らかに叫ぶ。


螺旋嘯葬タイダル・ボルテックス!!」


 修練場の内部に、大量の水が発生した。

 術者であるロッタの周囲のみを避けながら、ドーム内を高速で回転し、大きな渦を作っていく。


(本来なら、周りの岩や瓦礫を削って敵にどんどんぶつけていくんだけど)


 残念ながら今現在、周囲は魔力障壁に囲まれ、敵もいない。


(最後に、中心部に一気に水が押し寄せて……)


 水圧と押し寄せる波で敵を押しつぶし、行き場を無くした水が盛大な水柱を上げる。

 極太の水の柱が打ち上がり、ずぶ濡れのドーム内に雨のように降り注いだ。


「……ふぅ、成功成功。魔力障壁にも負担かからなかったみたいだし」


 これで最強魔法のうち、四つを習得出来た。

 いつも通り、連続魔法の分は弾丸に封印。


(……暇になっちゃったな)


 休みの間、ずっと修練に励むつもりだったのだが、一カ月ある夏季休暇のうち、半分の二週間で螺旋嘯葬タイダル・ボルテックスを完成させてしまった。

 残り半分、どう過ごせばいいものか。

 考えながらドームを出ると、そこにはアリサの姿が。


「お疲れ様。今日も頑張ってたみたいね」


「アリサ……? うん、ようやく螺旋嘯葬タイダル・ボルテックスを習得できたんだ。ところで、こんなところでなにしてるの?」


 ここは魔法科校舎の近く。

 武術科の校舎とも武術修練場とも、闘技場とも離れている。

 偶然通りがかったにしては、少し不自然な場所である。


「別に、たまたまよ。たまたま通っただけ」


「たまたま……?」


「そうよ、たまたまよ!」


 ムキになって主張するアリサの顔が、なぜだか赤い。


「たまたまでこんな場所、来るかなぁ……」


「うるさいわね、来てるんだから仕方ないでしょう」


「そういうものかな……」


「そういうものよ」


 どうも様子がおかしい。

 なにか他に本音があって、それを隠しているかのような態度である。


(アリサの様子がおかしくなったの、臨海学校の途中から……だよね?)


 あれ以降、何かにつけてアリサの視線を感じる。

 態度は以前と同じくツンツンしたままだが、一緒にいる時間も格段に増えた。


(ま、いっか。前より仲良くなれたってことだよね)


 このまま昔のように、親友の間柄に戻れたら、それはとっても喜ぶべきことだ。


「それよりも、あなた家には帰らないの?」


「手紙のやり取りはしてるし、家じゃ十分に修行出来ないし、別にいいかなって」


 マドリアード家は下級騎士の家系。

 騎士団員を無難に排出し、時々宮廷魔道師も現れる。

 そんな当たり障りのない、小さな家だ。


 アリサの家であるドルトヴァング家とは、主従の関係。

 跡取り娘のアリサとは歳も近く、同じ騎士団を目指す者同士、小さな頃から一緒に遊ぶことを許されていた。

 ロッタに前衛職の才能が無いと分かった、その日までは。


「……そう、帰らないのね。ずっと、いるのね」


 ロッタの返事を聞いたアリサは、なんだか嬉しそう。

 最近の彼女が、ロッタにはよく分からない。


「アリサこそ、帰らないの?」


「わたしには、家でのんびり遊んでいる時間なんて無いわ。星斗会長の座に舞い戻ることを諦めたわけじゃない。いつかまた、あなたを追い越してみせるから」


「アリサらしいね。いいよ、いつでも受けて立つよ」


「余裕ね、必ず吠え面かかせてやるわ。……と、もう寮なのね」


 会話を交わしながら歩くうちに、それぞれの寮へと続く別れ道まで来てしまった。

 このまま部屋に戻っても、暇で仕方ない。

 駄女神を呼んで無駄話をしてもいいのだが、どこか寂しそうな様子のアリサを放っておくのも気が引ける。


「……ねえ、時間はたっぷりあるんだし、ちょっと街まで行ってみない? 欲しいものがあってさ、付き合ってよ」


「つきあっ……! こ、こほん。いいわ、オルフォードに行くなら、わたしもついていってあげる」


「やったっ」


 特定のワードになにやら過剰に反応した気がしたが、きっと気のせいだろう。

 二人は寮には戻らず、そのまま街へと歩いていった。



 ☆★☆★☆



 魔法都市オルフォードは、国中の魔法技術が集まる最先端の都市。

 国中を探しても、魔導書店に最強魔法の魔導書が売られているのはここぐらいだろう。

 ロッタの欲しいものとは、最後に残った土の最強魔法が記された魔導書。

 一か月分の生活費に匹敵する高価な買い物だが、仕送りを娯楽に使わず貯めに貯めた今なら、十分に買える値段だ。


「まずは魔導書店だね。そのあとマジックアイテム……いや、そっちはいいか」


 いくら品ぞろえ豊富でも、メダルアイテムのラインナップには質、量ともに足下にも及ばないはず。


「あなた、凄い装備ばかり身につけてるものね。……そういえば、じっくり話したことなかったわね、あなたの見つけたお宝について」


「だね、お互いに」


 アリサもロッタと同じく、エクサの金貨で手に入る装備を使っている。

 使用認証がある以上、メダルはアリサが自力で集めたもののはず。

 ところが、彼女のフラガラックについて調べたところ、値段はメダル80枚。

 自力で集められるとは思えない。


「とは言っても、わたしの剣は一族でかき集めたメダルを使わせてもらっただけよ。十五歳の成人の誕生日に、特別に一つ分だけ」


「……あれ? メダルって見つけた本人じゃないと使えないんじゃなかった?」


「使えないのは装備だけね。メダルについては、メダルを司る神に所有権の破棄を申し出れば、誰の物でもなくなるわ」


「そうだったの!?」


 初めて聞いた事実に、ロッタは驚きの声を上げた。




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