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31 仲直りが成功し過ぎた結果、何かが芽生えたみたいです




「はぁ……。アリサってば、なんであんなに怒ってるのさ……」


 結局アリサは一言も口を利いてくれず、部屋に閉じこもってしまった。

 自分の部屋に戻ったロッタは、ぐったりと寝転がりながら水の精霊に愚痴をはく。


「もうワケ分かんない……」


『そんなことよりロッタよ、我はあの銀髪の男が気になるのじゃが』


「そんなことで片付けないで……あの男って、もしかしてラハド先輩?」


 リヴァイアスが彼から感じたという、秘宝の気配。

 あの島で秘宝を見つけたのなら、なぜそれを隠すのか。


「確かに気になるけど、確かめる方法もないし」


『むぅ……。宝に関する権利を持たないことが、つくづく悔やまれるのじゃ……』


「ドンマイ、リヴィア」


『リヴィアとは、我のことかの?』


「うん。リヴァイアスじゃ、長くてちょっと呼びにくいからさ。愛称があればいいかなって。ダメかな?」


『……いや、構わぬ。我をリヴィアと呼ぶことを特別に許そう』


「良かった。よろしくね、リヴィア。……はぁ~」


 会話が一段落すると、またも深いため息が漏れた。



 ☆★☆★☆



 夕食の時間、生徒たちは食堂に集まって食事をとる。

 星斗会のメンバーは五人で同じテーブルにつく決まり手なのだが、この場にラハドは不在。

 彼は単独行動の罰として、自分の部屋から出ることを禁じられていた。

 そしてアリサは、残る三人と若干の距離を開けている。


「一体なんなのさ、あれ……」


 彼女がなぜ機嫌を損ねているのか、ロッタにはさっぱり分からなかった。


「……アレじゃね? 俺とロッタが手を繋いでたの見たせいじゃね?」


「なるほど、痴情のもつれ。面白くなってきた」


「面白がらないでよ……。そもそもなんであたしがウィン君と手を繋いでたら、アリサの機嫌が悪くなるのさ」


「そりゃ、お前……。あれ? なんでだろうな」


 ロッタとウィンが二人そろって首をかしげる。

 その様子にタリスは、やれやれ、と呟き、首を横に振った。


「二人とも乙女のくせに、乙女心が分かってない。あれは明らかに、せっかく仲直りできた親友に彼氏が出来ちゃって、自分といてくれる時間が減ったら嫌だっていう、ありちゃんの乙女心」


「そうなの? ……って、ちょっと待ってタリス。今サラっとウィン君のこと、乙女とか言わなかった?」


「ろったんも知ってるんでしょ? だから手、繋いだりしたんでしょ?」


 ウィンが女の子だという秘密を、どうやらタリスも知っていたらしい。

 思えば彼女は学院一の情報通、知っている方が自然である。


「お、おま、マジで秘密なんだから、あんまり大きな声で言うなってば!!」


「おっと失礼。これは大事な乙女の秘密」


「だからさぁ!! こんな場所で、そのこと言うなっつってんだよ!!」


 ウィンをからかうタリスと、大声を張り上げてかえって注目を浴びてしまうウィン。

 仲のよさそうな二人を微笑ましく見守りつつ、ロッタはさっそく彼女との仲直り計画を練り始めた。


(仲直りならお手の物だよ。ずっとアリサと仲直りすること考えてきたんだもん)



 ☆★☆★☆



 昼間までの嵐が嘘のように過ぎ去った、穏やかな夜の浜辺に、赤毛の少女が一人たたずむ。

 夏の夜の海風を浴びながら、アリサを待つこと数十分。

 砂を踏む足音が近づき、隣で止まった。

 海を眺めていたロッタは、微笑みながら彼女に顔を向ける。


「来てくれたんだね、良かった」


 ここに来る前、アリサの部屋のドアの隙間に、呼び出しのメモを差し込んでおいた。

 彼女が気づいて、ここに来てくれると信じて。


「……一体なんの用かしら。出来れば手短にお願いするわ」


 目を合わせずに、遠くの水平線を見つめながら、素っ気ない口振りで。

 仲直りする前のような態度だが、以前の氷のような冷たさは感じず、少し怒っているだけの印象だ。


「静かだね、夜の海って」


「……」


「波の音がざざーんって、途絶えることなく何度も聞こえてさ。ちょっと眠くなっちゃうかも」


「……そんなことを話すためにわざわざ呼んだの? なら、もう帰るわよ」


「待ってってば。本題に入る前のちょっとした会話じゃん」


 帰ろうとするアリサをとどめ、ロッタは話を切り出した。


「あのね、多分アリサ、なんか勘違いしてると思うから言っとくけど。あたしとウィン君は、別にそういう関係じゃないよ?」


「……そういう関係って、どういう関係よ」


「だから、付き合ってる的な? そういうんじゃないから。全然違うからね?」


「……そう。そうなの。だったらどうして手なんか繋いでいたのかしら。納得のいく説明をしてもらいたいところね」


 この程度の説明では、まだまだ納得してくれない様子。

 慎重に言葉を選ばなければ、さらに機嫌を悪くしてしまいそう。

 だからと言って、ウィンの秘密を暴露するわけにもいかない。

 悩みに悩んで、しばしの沈黙のあと、口にした言葉は。


「ウィン君の手、ぷにぷにすべすべだったから離したくなくって」


「……………………帰る」


「待って待って待って! 違う、違うから、えっと……!」


 もうどう説明しても、アリサに納得して貰えるとは思えない。

 こうなれば最後の手段。

 ロッタはアリサの右の手を、両手で強く握った。


「えっ、ちょっと、ロッタ……?」


「アリサの手の方が、もっと柔らかいね」


「やだ、そんなワケない……。ずっと剣を握ってきた、マメだらけの手よ?」


「柔らかいよ? ちゃんと女の子の手してる。ずっと触っていたいくらい」


 顔を赤らめるアリサに対し、このまま勢いで押し切るために、ガンガン攻め込んでいく。

 握った手を両手でさすりながら、少しずつ距離を詰める。


「ど、どういうつもりよ、あなた……。一体、何を考えて……」


「きっと手よりも、体の方がもっと柔らかいよね」


 そして、アリサの体を真正面から抱きしめた。


「……やっぱり。柔らかくてふわふわで、でもちょっと引き締まってて。それに、いい匂いがする」


「な、なんなのよ……、さっきから一体、なんなのよぉ……」


 濃厚なスキンシップの嵐に、アリサの頭は沸騰寸前。

 ウィンとロッタの関係に対して抱いていたモヤモヤなど、どこかにすっ飛んでいた。


「ねえ、次の行事は文化祭……だよね」


「え、ええ、そうだけれど……」


 夏季休暇を挟んで、秋の入りには文化祭。

 どうして今、そんな確認を。

 疑問と羞恥でアリサの頭がいっぱいになる。


「あたしたち、色々と仕事もあるけどさ。一日くらいは、あたしと二人で回って欲しいな。……ね、アリサの一日、あたしに頂戴?」


「あぅ、……か、考えて、おくわ……」


 これ以上ないほどに顔を赤らめて、視線をそらしながら答えると、


「わ、わたしはもう戻るから! あなたも早めに戻りなさい、もうすぐ消灯の時間よ!」


 体を離して、早足で立ち去っていった。


(……ふぅ。ひとまずは仲直り成功かな)


 達成感でいっぱいになりながら、水平線を眺めるロッタ。

 新たな問題が発生してしまったことに、何かが芽生えてしまったことに、彼女はまだ気付いていない。




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