30 先輩、見つけました
「結局ラハド先輩の手がかりは無かったね」
「だな。どこにいるんだろうな、あの人……」
『なんじゃお主ら、宝ではなく人を探しておったのか。ならば我に任せておけ』
自信満々に申し出るリヴァイアス。
目を閉じてなにやら集中を高め、カッと見開いた。
『うむ、見つけたぞ。こっちじゃ、ついて来い』
「分かるの?」
『この洞窟に侵入した者の位置ならば、我には手に取るように分かるのだ。この洞窟内限定の能力だがな』
「それでも凄いよ、ありがとね」
「ホント、もう一体の小物精霊とは大違いだぜ」
『んだとコラァ!』
魔導書から姿は見せず、シェフィの怒声だけが響いた。
☆★☆★☆
カンテラの明かりを頼りに、ジュリアスは一人洞窟を進む。
魔物に対する警戒を最大にし、ささいな物音も聞き逃さずに。
物音が聞こえるたびに明かりを消し、魔物の姿を確認すると即座に詠唱。
気付かれる前に先手を打ち、魔法を浴びせて一撃で仕留める。
それが、非力な後衛職であるジュリアスの、たった一人での戦い方だ。
「……また、物音か」
前衛職の手助けなしに魔物と一対一で向かい合うことは、非常に危険。
この時も彼は、カンテラの火を消して慎重に耳をすませた。
(これは……、戦闘音か?)
魔物のうごめく音とは少し違う、地面を蹴る音。
岩陰からそっと覗きこみ、様子をうかがう。
(……見つけたな)
そこにいたのは、半魚人タイプの魔物と対峙する銀髪の男。
手にしたカタナに手をかけた次の瞬間、魔物は細切れのミンチ肉と化した。
「そこにいるんでしょう。分かってますよ、先生」
「さすがだな……。俺程度の気配、簡単に読めるか……」
カタナを納め、脇置いたカンテラを拾って、ジュリアスのいる岩陰へと振り向くラハド。
一見して、怪我などは見当たらない。
「星斗会第三席ともあろうものが、ずいぶんと勝手な行動をするものだな……」
「お説教なら、あとでたっぷりと受けますよ。それにしても、僕を探しにきたのは、やっぱり先生でしたか。この島の伝承、教えてくれたのも先生ですしね。本当に感謝してます」
「……宝は、見つかったか?」
ジュリアスの問いに、彼は少しの間を置いて、
「——いいえ」
何食わぬ顔で、首を横に振った。
「……そうか。宝など、ただの伝承だったのかもな」
「あなたがそれを言いますか。夢追い人のあなたが」
「元、だ。今は宝探しを諦めた、ただの教師さ……」
自嘲混じりに呟くジュリアス。
と、その時。
「あ、いたー!」
「やっと見つけたぜ、先輩! あと先生も!」
見慣れない精霊に先導されて、ロッタとウィンがこちらへと走ってきた。
こうして四人は合流。
捜索が無事に終了したことに、ロッタはほっと一息。
「助かったよ。ありがと、リヴァイアス」
『我にかかれば容易いのじゃ』
「……その精霊は?」
シルフィード以上の力を持つ精霊に、ジュリアスが興味を抱く。
落とし穴に落ちてからこれまでの出来事を、ロッタは手短に話した。
「……なるほどな、島の守護者か」
「宝のことはなんにも知らねえみたいだけどな。ホントにあるのかも怪しいぜ」
『お主らが見つけられなかっただけであろう、きっと! ……ん?』
何かが引っ掛かったのか、リヴァイアスの目がラハドへと向けられる。
難しい顔で彼を見つめる精霊の姿に、ロッタは小声で問いかけた。
「……どうしたの、リヴァイアス」
『む…、気のせいならいいのじゃがな。あやつから、この洞窟に長く眠っていた何かの存在を、かすかに感じるのじゃ……』
☆★☆★☆
洞窟を抜けると、嵐はすっかり収まっていた。
雲の切れ間から陽の光が差し込み、幻想的な風景を創り出している。
ラハドとジュリアスは小舟に乗ってのんびりと、ロッタはウィンを後ろに乗せて、海面スレスレをジェットブルームでかっ飛ばす。
女の子だと分かっているため、ウィンと体をくっ付けることに抵抗はない。
「先輩と先生、まだあんなとこにいるね」
二人を乗せた船は、ようやく洞窟を抜け出したところ。
「砂浜からも向こうの様子は見えるし、先行っちまおうぜ。……それと、あのこと誰にも言うんじゃねえぞ」
「あのことって? ウィン君がウィンちゃんだってこと?」
「言うんじゃねえっつってんだろ!」
「あはは、ごめんごめん。大丈夫、言いふらしたりはしないから」
そんな会話を交わしている間に、一足先にビーチへ到着。
ロッタがほうきから飛び下り、ウィンに手を差し伸べる。
「ほらほら、捕まって」
「いいよ、一人で降りれるっつーの」
「かわいいなー。恥ずかしがらないで、ほらほらー」
「おま、態度変わり過ぎだろ……」
彼女が女の子だと知って、スキンシップに遠慮がなくなったようだ。
渋々手を取って、身軽にほうきから飛び下りる。
「意味、あんのか? これ」
「あたしがウィン君の柔らかおててを触れる」
「俺に得がねぇ!」
手を繋いだまま談笑していると、こちらに走り寄る一人の少女の姿が。
「ロッタ、ウィン、戻ったのね。どう、先輩は見つかった?」
「お、アリサ。先に戻ってたんだね。いたよ、ほらあそこ」
遠くに見える、二人が乗った小舟を指さす。
ラハドとジュリアスの無事を確認し、アリサは胸を撫で下ろした。
「良かった、やっぱりそっちだったのね。山の方はあまりに手がかりが無くて、早めに切り上げたから」
「そっか、これで一件落着だね」
「そうね。……ねえ、ところであなたたち、どうして手を繋いでいるのかしら?」
アリサの目が、繋いだままの二人の手をジロリと睨みつける。
「こ、これは、コイツが勝手に……!」
「なーに恥ずかしがってるのさ、別にいいじゃん。だって……」
「ちょ、おま、あのことは絶対言うなっつっただろ!?」
「分かってる分かってる。島でのことはあたしたち、二人だけの秘密だもんね?」
顔を赤らめて大慌てのウィン、ニヤニヤ笑ってからかうロッタ。
二人とも、手は、繋いだまま。
「……そう。そうなのね。ずいぶんと仲がよくなったのね。よーく分かりました」
「あ、アリサ? なんか顔、怖いんだけど……」
「どうやらわたしはお邪魔だったようで!! 先輩の発見報告はわたしがしておきますから、どうぞ二人っきりでごゆっくり、海岸でも散歩してきたら!!?」
まるであの決闘の最中のように声を荒げて、そのまま宿泊所へと足早に帰っていく。
「あれ……? どうしたんだろ。アリサってば、なんか怒ってる? ま、待ってってば、アリサーっ!!」
「ちょ、追いかけるのは待て! 二人が戻るまで待てってば!!」
手を引っ張って押しとどめようとするウィンを上昇した身体能力で引きずりながら、ロッタは親友の背中を追いかけるのだった。