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27 ラハドを探して宝の島へ




 山間部を捜索する三人と宿の前で別れ、ロッタたちは嵐の海岸へとやってきた。

 目的地は、豪雨に霞んでうっすらと見える孤島。

 波は高く荒れ狂い、青かった海は茶色く濁り、雷光が分厚く黒い雲に瞬く。


「まずはあの島に渡らなきゃ。船で行くのは……ちょっと危ないか」


「ちょっとどころじゃないぜ、こりゃ。転覆、沈没、水死体間違いなしだ」


「と、なると、これだね」


 前髪を留めたヘアピンを取り外し、ジェットブルームに変形させる。


「これなら島までひとっとび。二人乗りが限界だから、まずはウィン君、後ろに乗って」


 最初にウィンを送り届け、海岸まで戻ってジュリアスを乗せていく。

 それがロッタの立てたプラン。

 ところが、


「私は必要ない……。自分で飛べるからな」


 短い詠唱を小声で済ませると、ジュリアスの体が重力を無視して三メートルほど浮き上がった。


「飛翔魔法を使えるなんて……。さすがは魔法科の先生ですね」


 飛翔魔法は、繊細な魔力制御を必要とする高等技術。

 速度も高さも出ないため戦闘には向かないが、こうした場面での移動には便利な魔法だ。


「よし、それじゃあウィン君、後ろに乗って」


「おうよ」


「……あの、あんまりくっつかないでね?」


「無茶言うな。変なとこ触らねぇように気を付けるから」


 ほうきに乗ったロッタの後ろにウィンも跨り、落ちないようにロッタの腰に手を回す。


(……あれ?)


 密着したウィンの体が、妙に柔らかい。

 拳闘士の少年ならば、もっと筋肉質でもいいはずなのだが、妙にむにっとぷにっとしている。


「どうした? 早く発進させろよ」


「う、うん。……マントのせいかな?」


 制服と厚みのあるマントのせいでそう感じただけだろう、きっと。

 二人を乗せたジェットブルームが浮き上がり、スピードを調整して発進。

 荒波の上を飛び、一直線に島へと向かっていった。



 ……十分後。


「先生、遅かったな。待ちくたびれたぜ。息切れてるけど大丈夫か?」


「だ、大丈夫だ。はぁ、はぁ……」


 飛翔魔法で海を渡ってきたジュリアスが、ようやく到着。

 ロッタたちが三分で着いたため、二人は嵐の中で七分間待ちぼうけを食らっていた。


「まあまあ、あの魔法本当に制御するの大変なんだから、大目に見てあげて」


 彼女たちが降り立ったのは、波がぶつかり飛沫が舞う岩場。

 島の周囲の海域は岩礁に囲まれ、海岸線は荒い磯となっているため、この島には船で乗り付けるのも一苦労。


「ホントに先輩、ここにいるのかな。船を停めておける場所なんて見当たらないし、そもそも流されちゃうよね」


「停められる場所なら、心当たりがある。あそこなら、嵐の影響も受けにくいだろう」


「んなとこあるのかよ!?」


「こっちだ、ついて来い……」


 足場の悪い濡れた磯を海に沿って、ジュリアスは迷いない足取りで進み始めた。

 二人も足元に気を付けつつ、彼のあとを追う。


「なあロッタ。先輩さ、時々怖い顔してたんだよな。お前、気付いてたか?」


「……実は、心当たりがあって。アリサの剣について説明した時のあの人、メダルの話をした時、ちょっと怖かったんだ」


 二人がラハドから感じ取っていた感情は、嫉妬、あるいは羨望せんぼう


「力が得られる財宝、か。なあロッタ、お前が見つけた宝ってどんなものだったんだ? いい加減教えろよ」


「え、えっと……。また今度ね」


「今度、ねぇ。その今度とやら、永遠に来ない気がするぜ」


「あ、あはは……」


 図星を突かれ、ロッタは苦笑いするしかない。


「二人とも、止まれ。この中だ」


 二人の前を歩いていたジュリアスが、足を止めた。

 彼が指し示すのは、ぽっかりと開いた洞窟。

 海の水が奥へと続いており、両サイドに人が辛うじて通れるだけの足場がある。


「この奥になら、船を停められる。そして、秘宝があると伝わるのもこの奥だ」


「なるほどな、冒険らしくなってきたじゃねえか。面白れぇ」


「ウィン君、遊びじゃないんだから、気を引き締めて。魔物がいるかもしれないし」


「分かってるって。じゃあ行くぜ」


 ジュリアスを先頭に、三人は洞窟へと足を踏み入れた。

 内部の海水は、濁りきった外とは違って澄みわたり、洞窟内は外の嵐を感じさせない静けさに包まれている。


「……もしも虫が苦手ならば、壁を見ないようにな」


 ジュリアスが忠告。

 フナムシ類がうぞうぞと蠢いていることが想像出来た二人は、青ざめながら頷く。


 そのまま奥へ奥へと進んでいき、外の明かりが届かなくなると、ジュリアスは手のひらに無詠唱のファイアボールを乗せ、照明にして周囲を照らした。


「……あったぞ、小舟だ」


 海の水が途絶えたところに付けられた、木製の小舟。

 海岸の桟橋に並んでいた小舟と、まったく同じものだ。


「確定だね。やっぱり、ここにラハド先輩が来てるんだ」


「おっしゃ、あとは探しだして連れ戻すだけだな」


「いるとするならば、この先だな」


 海の水が来ているのはここまで。

 だが、洞窟は更に奥まで続いている。


「気をつけろ。何が潜んでいるか分からんからな……」


「前に来たこと、あるんですよね?」


「あぁ、だが以前来た時は、そこは行き止まりだった。嵐の時にのみ得られる宝。伝承通りなら、その封印が嵐によって解かれたのだろうな……」


「難しい話は置いといてさ、進めばいいだけだろ。モタモタしてんなら先行くぜ」


 ウィンが先頭に立ち、奥へと進んでいく。

 封印されていたと思われる場所に足を踏み入れた途端。


「う、うわっ!?」


 足下が崩れ、ウィンの体は暗闇に落ちて行った。


「ウィン君!」


 ロッタもとっさに飛び込み、後を追う。


「……っ!」


 二人が穴に落ちても、ジュリアスは追いかけようとはしない。

 慎重に穴を覗き、炎で照らして深さを確かめるが、底は見えない。


「……深いな」


 小石を投げ入れても、落下音は聞こえてこない。


「この中へ飛び込むのは、愚策だな……」


 見捨てたくはないが、感情的になって飛び込んでも、共倒れになっては意味がない。

 それよりも、合流出来ることを信じて先に進むべき。


「星斗会長の力に、賭けるしかない、か……」



 ☆★☆★☆



「いったた……」


 どのくらいの距離を落ちただろうか。

 プロテクトリングの効果で、ロッタはちょっと転んだ程度の痛さですんだ。

 無詠唱のファイアボールを出してその場に浮かせ、周囲を照らす。


 そこは暗闇に覆われた、地下洞窟の中。

 前にも後ろにも道が続いており、上に開いていたはずの穴は塞がっている


「穴が無い? 自然の崩落じゃなくて、財宝を守るトラップだったってことかな。……そうだ、ウィン君!」


 先に落下した彼を探すと、すぐに見つかった。

 額から血を流し、意識は無くぐったりと倒れている。


「脈拍、呼吸は……!」


 鼓動はある。

 呼吸もしている。

 手当さえすれば助かる怪我だ。


「良かった……。じゃあ早速、覚えたての回復魔法を……」


 額の怪我に手を当てて、回復魔力を流し込む。

 細胞を部分的に活性化させる、初歩の治療術。


「キュアー!」


 淡い光が発し、ウィンの額の傷を塞いだ。


「ふぅ、これで良し。……あれ?」


 ファイアボールの灯りに照らされた彼の頭に、何か違和感がある。

 短いオレンジ色の短髪が、なんだかズレているような。


「おかしいな……。暗いし、見間違い?」


 試しに髪の毛をつまんで、かるーく引っ張ってみる。

 すると。


「うぇ、と、取れた!?」


 オレンジ色の短髪が取れ、その下から同じ色の長い髪の毛が現れた。

 どうやら、普段の髪型はかつら(ウィッグ)だったらしい。


「びっくりしたぁ。でもなんで……、も、もしかして」


 あの日、女子寮に走っていったウィン。

 ほうきに乗った時に感じた、妙に柔らかかった体。

 色々なことが、ロッタの中で結び付いてしまう。


「ちょっと失礼……」


 制服のシャツ、そのボタンを少しだけ外してみる。

 露わになった胸元には、なんとスポーツブラ。


「や、やっぱり。ウィン君、女の子だったんだ……」




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