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26 嵐の海の秘宝伝説




「ラハド先輩が、どこにもいない……!?」


 早朝、点呼作業を終えた時のこと。

 星斗会の四人は、エルダから衝撃的な報告を受けた。


「どういうことですか……?」


「荷物はほぼそのまま、カタナと数種類の道具だけが無くなっている。自分の意思でどこかに向かった、と考えるべきだろうな」


 宿泊所の外は、引き続きの大嵐。

 予定されていた山岳訓練は中止、今日の予定は室内での自習となっている。


「こんな天気に、一体どこへ行ったのかしら」


「無茶したり、一人で突っ走る人には見えなかったけどな……」


「でも、最近のらっさんの様子、どこかおかしかった。みんなも心当たり、ない?」


 タリスの問いかけに、ウィンは思いだす。

 ロッタとアリサの決闘が終わった時、憎しみの籠った目で二人を睨みつけていた彼の姿を。


「……そういえば、変だったぜ」


「そうなの? わたしは心当たりないのだけれど」


「ありちゃんはろったんと仲直り出来て浮かれてたから。ラブラブで周りが見えてない模様」


「「誰と誰がラブラブだって!?」」


 含み笑いのタリスに、声を合わせて叫ぶ二人。

 ウィンはため息をつきながら、話題の軌道修正をはかる。


「はいはい、そこまで。星斗会長、なんか指示」


「えー、えっと……、とりあえずみんな、手分けして探そう! ウィン君は手がかりがないか、先輩の部屋を調べて。タリスは足跡とか残ってないか、宿の外の確認をお願い。アリサはあたしと先生と一緒に、館内の聞き込み。三十分後にここに集合ね!」


「おう、了解」


「貧乏くじ。でも探偵みたいで燃える」


 二人はやる気満々、それぞれの場所に向かっていった。

 同じ男子のウィンに部屋を、観察眼の鋭いタリスに野外の手がかりを。

 的確な指示を出すロッタに、アリサは少々驚く。


「アリサ、あたしたちも。先生、ご協力お願いします」


「あぁ、お前たち主導とはいえ、引率は私だからな。……そうだ、もう一人の引率も巻き込んでやろう」



 教員が宿泊している二つの個室のうち、エルダではない、もう一人の部屋の前へと三人はやってきた。


「ジュリアス教諭、いるだろうか」


「……いる」


 短い返事が聞こえると、エルダは遠慮なく扉を開けた。

 部屋の中では、黒いローブを着た黒髪の男が古びた本を広げている。


「どうした、エルダ教諭……」


「そうだな、あなたとは会話も弾まないだろう。単刀直入に言う、ラハドがどこかに消えた」


「……なに?」


 本を閉じ、鋭い目をエルダに向けるジュリアス。

 彼の表情には動揺が見られた。


(……そういえば、昨日タリスから聞いたっけ)


 自由時間の間、ラハドはジュリアスと話していた。

 タリスは昨日、確かにそう言っていた。


「あの、ジュリアス先生。昨日ラハド先輩と、なにを話していたんですか?」


「……おとぎ話の類いだ。と、念を押したはずなのだがな」


 積み上げられた私物の本。

 その中から一冊を手に取り、開きながら、彼は語り始めた。


「島があるだろう。沖合に浮かぶ、岩礁に囲まれた小さな無人島だ」


 窓の外に見える、海岸から二キロほどの距離に浮かぶ小さな島。

 海水浴の時にも見えていた。


「あの島には、秘宝が眠るという伝説がある……」


「秘宝……、って……」


 あの島にも大量のエクサの金貨が、そんな可能性が、ロッタの頭に浮かぶ。


「熱心に聞いてくるのでな、昨日、その話をアイツにしてやった……。手に入れれば絶大な力が手に入る秘宝。嵐の日、それは姿を現すという」


「まさか、そんなおとぎ話を信じて、この大荒れの海を渡ったとでもいうのか!!」


「ラハド先輩が……、あの人がそんな軽はずみなことをするかしら……?」


 示された、一つの可能性。

 だが、アリサもロッタも、そしてエルダも、冷静沈着な彼がそんな行動に出るとは思えなかった。


「ともかく、ジュリアス教諭。あなたも捜索に協力してくれ」


「承知した……」



 ☆★☆★☆



 宿の従業員への聞き込みで、夜の間に玄関のカギが内側から開けられていたことが判明。

 他に有力な情報は得られず、三十分後、ロビーに集まった星斗会メンバーは、お互いに情報交換をする。


「俺の方は何もなし。ラハド先輩の部屋に、特に変わったものは無かったぜ」


「私は収穫あり。ラハド先輩のものと思われる足跡が、宿の外に残ってた。ただし残念なことに、宿を離れたところで雨風に掻き消されてる。それと、昨日桟橋に繋がれてた小舟が一隻減っていた。ただし、嵐で流されただけの可能性もあり。先輩が使ったと断言は出来ない」


「二人とも、お疲れ様。あたしたちの方は——」


 ロッタも二人に、集めた情報を伝える。

 ところどころにアリサの補足を受けながら。


「なーるほど。状況証拠的には、らっさんはお宝を探しに行ったと見るべき」


「でも状況証拠だけじゃあな。山の方に行った可能性もゼロではないわけだし」


「……ねえ、アリサ。あたしたち、探しにいくべきだと思う?」


 嵐は続いたまま。

 無闇に捜索に出れば、二次遭難の可能性もある。


「星斗会長はあなたでしょう? 判断はあなたに任せるわ。それに従うかどうかは、わたしたちがそれぞれ判断する」


「そっか……よし。じゃあ二手に分かれよう。山の方とあそこの島を三人ずつで捜索する。どうかな?」


 この提案に乗ってくれるかどうか、一同の顔を見回す。

 確かに危険だが、自分とアリサの力なら、遭難なんてしないと確信出来る。

 だからこその、二手に分かれる提案。


「……わたしに異論はないわ。戦力を考えると教諭一人ずつに、五席と星斗会長、四席と副会長の編成でいくべきね」


「俺はロッタとか。特に異議なーし。自習なんて退屈だしな」


「了承。ありちゃん、がんばろ」


 教師二人からも異論は出ず。

 ロッタ、ウィン、ジュリアスのグループと、アリサ、タリス、エルダのグループに編成は決定。


(アリサの方に女の人が固まっちゃったなー。なんかやりにくいかも。ジュリアス先生、ちょっと怖いし) 


「えっと、それじゃあどっちが島でどっちが山か、だけど……」


「……我々が、島だ」


 口を開いたのはジュリアス。

 彼の積極的な発言を意外に思いつつ、ロッタはその理由を問い掛ける。


「あたしたちが島の側……。何か理由があるんですか?」


「私が、知識を持っているからだ……。私は教師になる以前、トレジャーハンターをやっていてな。あの島にも一度、足を運んだことがある」




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