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24 やってきました青い海




 オルフォード学院から東へ、徒歩で約一日。

 オルベリー海岸に面した宿泊所に、武術科と魔法科の二年生、そして星斗会メンバーの五人はやってきた。


 武術科、魔法科の二年生が参加する臨海学校。

 日程は一週間、自然豊かな海辺にて、サバイバル実習や模擬クエスト、息抜きの海水浴などが行なわれる。

 参加者は二年生のみだが、星斗会メンバーである一年のウィンと三年のラハドは例外。

 星斗会は全員強制参加だ。


「え、えっと、皆さん、長旅お疲れ様でした。部屋割の通りに荷物を置いて、十五分後にロビーへ集合してください」


 現在の時刻は午前十時。

 初日は砂浜で戦闘訓練、昼食を挟んで午後は自由行動となっている。


 ロッタの号令に従って、生徒たちは解散。

 まだまだ馴れない様子だが、なりたての頃よりは星斗会長らしくなってきていると、ロッタは自分で自分を褒め称えていた。


「ロッタ、達成感に浸ってないで、わたしたちも荷物を置きに行くわよ」


「あ、うん。最初は驚いたよ、星斗会は全員個室なんだって聞いた時」


 一般生徒は二人一組で同じ部屋に宿泊するが、星斗会メンバーに限り、個室が与えられる。

 実力至上主義の学院において、上位五名にのみ許される特権だ。


「本当はあたし、パーシィと一緒が良かったんだけど……」


 星斗会長になってからというもの、親友のパーシィと過ごす時間が極端に減っている。

 行事の準備に強制参加、早朝と放課後の不定期集会、そして日課の魔法修行。


「どれもこれも、削れないもんね……」


 寂しい思いをさせていないだろうか。

 この合宿中も、彼女と過ごす時間はあまり作れそうにない。




 個室のドアを開けたロッタの目に飛び込んできたのは、王宮の一室にありそうな、三人は並んで眠れる広さのベッド。

 大きな窓の外には、青い海がきらめく海岸を見渡せる、大きなテラスがある。


「きれいな部屋……」


 海辺に佇む宿泊所は、普段はバカンスに訪れる貴族も宿泊する高級宿。

 こんな場所を宿泊施設として使えるのも、貴族や騎士の家系の生徒が多いオルフォード学院ならではのこと。


(……えっと、まずは砂浜で戦闘訓練、だったよね)


 星斗会長が遅刻しては話にならない。

 ロッタはすぐに荷物を開き、準備を始めた。



 ☆★☆★☆



 戦闘訓練が終了し、昼食も終えて、自由時間が訪れた。

 丸一日の旅の疲れを癒すための時間だが、部屋でのんびりする生徒はほとんどいない。

 大半の生徒が水着を着て、海水浴を楽しんでいた。


「おっしゃー、海だーっ!!」


「あまりはしゃがないで。同類だと思われたくないから」


「アリサ、ノリ悪いよー?」


 ロッタが着ているのは赤い上下のビキニ。

 この日のためにオルフォードの街で買っておいた新品の水着だ。


「……わたしはあなたとは違うの。子供みたいにはしゃぐつもりはないわ」


 アリサの水着は上下黒のビキニ。

 彼女の瞳が、ロッタの胸部を鋭く睨みつける。


「えーっ、いいじゃん、一緒に泳ごうよー」


 ロッタが体を動かすたび、元気に跳ねる大きな膨らみ。

 視線を自分の胸へと向けたアリサは、なだらかな平原を前に敗北感を味わう。


「……いいから向こうに行って。これ以上わたしと並ばないで」


「ぶー。いいもん、あたしはアリサと違って他にも友達いるもん!」


「黙りなさい。これ以上いると揉むわよ」


「はいはい、消えますよーだ。……揉む?」


 死にそうな顔で自分の胸をぺたぺたするアリサをその場に置いて、砂浜を歩くロッタ。

 大勢の生徒で溢れる浜辺で、顔見知りを探していると。


「お、パーシィ発見! おーい!」


 青い髪の少女を見つけ、駆け寄る。


「あ、ロッタちゃん」


 ビーチボールを抱えた、青いフリル付きの水着を付けた青髪の少女が、ロッタに気付いて手を振り返す。


「星斗会長のお仕事お疲れ様。疲れてない?」


「へーきへーき。パーシィは優しいねぇ、アリサのヤツとは全然違うよ」


「……また、ケンカしちゃった?」


「そういうワケじゃないんだけどさ。アリサってば、わたしはあなたとは違うのっ、とか言っちゃってさ!」


「そっか、ケンカじゃないんだ。良かった……」


「うん、ケンカじゃないんだけど、いっつもトゲのある言い方するんだよね、アリサってば。あたしだって頑張ってるんだし、ちょっとは褒めてほしいっていうか……」


「……あの人のことばっかり、だね」


「へ? 何か言った?」


 小さく、本当に小さく呟いた一言を、ロッタは聞きとれず、


「なんでもないよ。それより一緒に遊ぼう?」


 パーシィもニコリと微笑み、彼女の呟きは誰の耳にも届くことなく虚空に消えた。


「うん、最近パーシィといられなかったし。今日は二人だけで——」


「おいーす、ろったん」


 二人だけで一緒に遊ぼう。

 その言葉もまた、彼女の登場によって、パーシィには届かない。


「おっ、タリス。……なに、その水着?」


 緑髪の少女が着けたおかしな水着に、ロッタは目を丸くした。

 胴体を丸ごと覆う紺色の水着、胸の四角く白い部分には『たりす』と書いてある。


「すくみず、というらしい。東方から伝来した珍しい一品」


「東方の国って一体……。と、ところでタリス、星斗会の男性陣はどうしてる?」


 このビーチに来てから、ラハドとウィンの姿を見ていない。

 彼らもどこかで海水浴を楽しんでいるのだろう、ロッタはそう思っていたのだが。


「らっさんは、あの無口な先生と一緒にいた」


「あぁ、ジュリアス先生……」


 少し怖いラハドと、不気味なジュリアスのツーショット。

 その空間には、出来ればあまり近寄りたくない。


「がーくんは泳がないって。多分自分の部屋にいる」


「ウィン君も? なんだか意外だ」


 彼なら真っ先に海へと飛び出し、遠泳数十キロを猛烈にこなしていそうなイメージだったのに。

 心底意外そうなロッタに、タリスは意味深な笑いを見せた。


「私としてはあまり意外では——おっと、このデータは秘密。絶対に漏らしてはダメ」


「秘密? ウィン君について何か知ってるの?」


「知らない。私は何も知らない。それよりろったん、ぱーしゃんも一緒に、この休暇をエンジョイしよう」


「ぱ、ぱーしゃんって私のことですか……?」


 独特なセンスのあだ名の洗礼を浴びて、パーシィは困惑する。


「そ、ぱーしゃん。そのビーチボール使って、波打ち際でレッツきゃっきゃうふふ」


 眩しい笑顔と共に、タリスは親指をグッと立てた。




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