表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/76

22 星斗会長ロッタ・マドリアード




「ねえ、なんなのこれ。あたしにこんなの着けろっていうの」


「うん、むしろ今ここで着けてみてよ。お姉さんロッタちゃんの下着姿見てみたいなー」


 天使のブラ、お値段はメダル100枚。

 魔力ダメージの軽減効果があるらしい。

 プロテクトリングの効果は物理的なダメージの軽減。

 このブラジャーと合わせれば、どんな攻撃にも対応できるのだろうが、問題はそのデザイン。


「うん、あんまり着けたくないかな。胸のところ、天使の翼なの? これ」


「ナイスデザインでしょ」


「保持力大丈夫? 激しく動いたりしたら、ずれちゃうんじゃ……」


「大丈夫だって、安全製はばっちりです。ロッタちゃんのDカップおっぱいでもはみ出しません!」


「サイズ言うな!」


 バストを覆う部分が、それぞれ天使の翼を模したデザイン。

 非常に柔らかく薄いため、服の上からでも全然気にならないらしいのだが。


「うぅん、ちょっと気が引ける……。着替えの時とか誰かに見られたら恥ずかしいな……。まあでも、もう一つのに比べたら全然マシだけどね……」


 もう一つのアイテム、それはパンツ。

 パンツなのだが、透けている。

 大事な部分を覆う場所以外、もれなく透けている。


「……返品、お願い出来る?」


「なんで?」


「こっちがなんで、だよ! こんなん履いたら痴女じゃん! 制服ミニスカートだよ!? あたし、普段は見せパン履いてるからね!?」


「でも、効果はすっごい強力だよ? 魔力ダメージ五倍……」


「いらない! 返品する!!」


「仕方ないなぁ……。ロッタちゃんに履いてほしかったんだけど……」


 もの凄く名残惜しそうにイバトの板を操作し、透けパンを送り返す。


「はぁ……、さよなら、『えっちなパンツ』……」


「品名おかしい!! もう……」


 深く深くため息をつくロッタ。

 この女神は自分なんかにセクハラをかまして面白いのだろうか、と。


「なんかどっと疲れた……。そろそろお風呂の時間だし、マリンは帰ってもいいよ?」


「そう? 本当はまだいてほしいんじゃない? 寂しいんじゃない?」


「寂しくないから! ……でも、感謝はしてる。ありがとね」


「ロッタちゃん、今日はよくデレるねー。お姉さん眼福です」


「もう! 早く帰れ、この駄女神!!」


「照れ隠しも可愛い〜。それじゃ、さよーならー」


 いつものように、ぽん、と軽快な音を残し、煙のように消え去るマリン。

 彼女がいなくなった部屋で、ロッタは一人ベッドに寝転んだ。


「……本当に、仲直りできたんだよね。アリサと、また友達になれたんだよね」


 まだ実感は湧かないが、昔のように彼女と自然に言葉を交わせる時が来るのだろう。

 きっと、近いうちに。



 ☆★☆★☆



 翌日、中央棟の北側に位置する多目的ドームにて。

 授業が始まる前の朝の時間。

 演劇や集会などが行なわれるこの場所に、全校生徒が集められた。

 その理由が、星斗会長就任演説。

 新たな星斗会長のお披露目会である。


「う、うぅ……、緊張するかも……」


 舞台袖で出番を待つロッタ。

 彼女の心臓は、バクバクと激しい鼓動を刻んでいた。


「ろったん、そういう時は人を丸飲みするといい」


「えっ、人を……?」


「極東の国に伝わる習わしだと聞いたことがある」


「えっ、えっ、何それ怖っ……」


「冗談。少しは緊張、ほぐれた?」


 無表情のまま、親指をグッと立てるタリス。


「あー、冗談……。ありがと、ちょっとはリラックスできたかな」


 ちょっとだけ冗談に聞こえなかったが、今は彼女の気配りがありがたい。

 なにせ全校生徒の前に立ってスピーチをするなどという経験、ロッタは初めてだ。


「大丈夫よ、ロッタ。あなたのスピーチなんて、どうせ期待されてないもの」


「ひどっ! アリサの去年の就任スピーチだって、小難しいことばかりで大した内容無かったじゃん」


「ええ、そうよ? 即興で考えたものだから。いい加減でいいのよ、こんなのは」


「即興でいいの!? あたし、五時に起きてずっと考えてたのに!」


 親しげに言葉を交わす二人。

 アリサの顔には笑みすら浮かんでいる。


「……あの人のあんな顔、初めて見たぜ。なあタリス」


「ありちゃん会長、憑き物が落ちたような、すっきりとした感じ。きっと会長も、本心ではろったんと仲直りしたかった。きっかけが掴めなかっただけで」


「そんなもんかね。素直に仲直りしたいです、で済むだろうに。女ってホント、面倒くせぇよな」


「男だ女だは関係ないと思う。ありちゃん会長ってば、どうみても素直じゃない性格してるから」


「まあ、そうか……。それとよ、タリス。もう『ありちゃん会長』じゃねえんじゃねえの?」


「おっと、そうだった。今日からはただのありちゃん」



 ☆★☆★☆



 舞台の上に上がったロッタは、全校生徒の視線に晒される。

 一瞬頭が真っ白になりかけるが、舞台袖へと振り返って星斗会のメンバーの顔を、アリサの顔を見ると、少し心が落ち着いた。

 壇上に置かれた拡声装置の魔力源をオンにして、ロッタはスピーチを始める。


「……こほん。えっと……、皆さんおはようございます。あたしが今回星斗会長に就任した、ロッタ・マドリアードです」


 魔法科の生徒たちから歓声が上がる。

 ここからでは一人一人の顔は見えないが、きっとパーシィもあそこにいるはずだ。


「あたしは正直、なろうと思って星斗会長になった訳ではありません。ただ、挑まれた決闘に勝って、星斗会に入って……。友達と仲直りしたくて頑張って、そしたらいつの間にかここにいました」


 ダルトンから決闘を挑まれて、アリサから決闘を挑まれて。

 星斗会を目指してはいたが、星斗会長を目指していたわけではなかった。

 なれるとも思っていなかった。


「星斗会長になれたのは、きっとずっと頑張ってたから、そして、……運も良かったからだと思います」


 大量のメダルを見つけなければ、星斗会にも入れなかったかもしれない。

 努力も、運も、きっとどちらが欠けてもいけなかったのだ。


「……魔法科の生徒が、落ちこぼれ扱いされているのは知っています。この学校だけじゃない、国全体の風潮として、後衛職が軽視されているのも」


 ドルトヴァング家の、アリサの考えも、それが原因。

 長年ロッタを苦しめた、この国に深く根付いた考え。


「あたし一人じゃ、きっとその風潮を改めさせることは出来ません。だけど、魔法科のみんなが、一人一人が変わろうと思えば、最初は小さな波でも、もしかしたら世の中を変える大きな波になるかもしれない! だからどうか、非力なあたしに力を貸してください!」


 一人じゃ無理でも、全員で変わろうとすれば。

 現状に諦めを抱かず、足掻き抜けば、もしかしたら何かが変わるかもしれない。


「……えっと、ごめんなさい、偉そうなこと言っちゃって。えと、あの、とりあえず、言いたいことは全部言いました。以上です」


 少し偉そうに言い過ぎただろうか。

 星斗会長の就任演説として正しかったのだろうか。

 思うままに喋ってしまったことを少し後悔しつつ、一歩下がって頭を下げる。


 ……パチ、パチパチ。


 魔法科の生徒のうちの一人から上がった拍手。

 それが瞬く間に魔法科全体に広がっていき、やがては武術科の生徒まで。

 多目的ドームの全体が、大きな拍手に包まれる。


「……なんとかやっていけそうね、ロッタ」


 予想外の好反応に慌てる星斗会長を、アリサは舞台袖から見守っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ