20 気持ちを吐き出し合った、その先に
全部聞かせて。
ロッタのその叫びに、アリサは肩を震わせ、拳を握りしめる。
「……ふざけないで。ふざけないでっ! どうしてあなたはそうやっていつもいつも! なんでわたしの前に現れたの!? 切り捨てたのに、わたしはもう、あなたを不要だと切り捨てたのにッ!」
沸き上がる感情に任せて、ロッタに突進する。
フェイントも緩急もつけない単調な攻撃は、ロッタの展開する魔力盾によって、あっさりと受け止められた。
「あなたが追いかけて来なければ、わたしはずっとわたしのままでいられた! こんな思いをしなくてすんだ! あなたさえいなくなれば、わたしは元のわたしに戻れるの! だからもう消えて、わたしの前からいなくなって!!」
「……嬉しいよ、アリサ。正直な気持ち、ぶつけてくれて」
「なんで……、笑ってるのよ……! そういうところが、わたしは……っ!!」
もう一度力任せに叩き付けると、魔力の盾は限界を迎え、ロッタの体は大きく吹き飛んだ。
「ぐっ、……大気に満ち満ちる炎の精霊よ——」
吹き飛びながら詠唱に入るロッタ。
「させないっ!」
アリサは彼女の飛ばされる先に回り込み、剣の峰を頭に叩きつけた。
「いだっ……」
詠唱は中断。
頭部を強打し、さらに顔面を砂地にこすりつける。
「っつつ、プロテクトリングが無ければ死んでるって……」
「降参しなさい! もうこれ以上……っ」
そこまで口にして、アリサは言葉を止める。
鼻を擦りながら彼女の顔を見上げるロッタ。
その眼に映った彼女の顔は、今にも泣き出しそうだった。
「……ねえ、どうしてそんなに辛そうなのさ。この決闘、あんたから挑んだのに」
「わかん、ないわよ……っ! 全部、全部全部、ロッタが悪いの……! わたしのことなんて、もう放っておいてよ!!」
「放っとけない」
全身が痛む。
身体強化の装備だけでも貰っておけばよかった、なんて泣きごとすら、頭を過ぎる。
それでも諦められない。
アリサのあんな顔を見て、諦められるはずがない。
「放っとけないよ。あたしは絶対あんたに勝つ。そして……、昔みたいに友達に戻るんだ!」
「もう、黙って……。黙って! 黙ってよぉっ!!」
目尻に涙を溜めながら剣を上段に振りかざし、感情任せに巨大化を命令。
極太の柱のように変化したフラガラックを、渾身の力で振り下ろす。
ズゥゥゥゥン……!
重低音と共に地面が揺れ、砂煙が舞い上がる。
エルダは戦いを止めようとして、思いとどまり足を止めた。
これはアイツらの戦い、思う存分やらせなければ悔いが残る、と。
(それに、まだ終わってないみたいだからな)
舞い上がる土煙、観客席は騒然とする。
ロッタは潰されてしまったのか、もう決着はついたのか。
星斗会の面々にも、これという確信は持てないまま。
「……あそこ。見て」
その動きに、最初に気付いたのはタリス。
彼女が指をさした先、転がっていたジェットブルームが一直線に、砂煙の中へと飛び込んでいった。
「はぁ、はぁ……っ、もう、これで終わって……」
剣を元の大きさに戻し、荒く息を吐く。
戦闘の消耗だけではない。
ロッタを攻撃することによる精神的なストレスも、また彼女を追い詰めていた。
「もうこれ以上、続けたくない……っ」
自分で決闘を挑んでおいて、何を身勝手な。
そう思われても仕方ない。
それでも彼女自身、ここまで心身共に辛い戦いになるとは思わなかった。
格の違いを見せつけて、一瞬で終わらせるつもりだったのに。
「なのに、なんであなたは……っ!」
振り向き、剣を振るう。
斬撃の衝撃で砂煙がまとめて薙ぎ払われ、同時に背後から迫るファイアボールが両断された。
「あれ、まいったな……。砂煙で目くらましすれば当たると思ったのに……」
ほうきに跨ってマジカルマスケットを構えたロッタが、アリサの反応速度に苦笑いする。
「今ので弾は撃ち尽くしちゃったし、さてさてどうしようかな……」
「だったらもういい加減、負けを認めてよ!」
叫び、突進するアリサ。
ロッタはジェットブルームから飛び下り、盾を展開。
突っ込んでくるアリサの攻撃を受け止める。
「そういう訳にはいかないんだな、これが」
「なんで……? なんでそんな、ボロボロになってまで……、そこまでして、わたしなんかと仲直りしたいだなんて、あなたバカなの……!?」
「バカ……なのかもね。だってさ、アリサと一緒に遊んでた時が一番楽しかったんだもん。あの頃に戻れるなら何でもしてやるって、そう思ったんだ」
「楽しかった、って……、ただ、それだけの理由で……?」
「それだけだよ? あたしが弱い魔法使いだからアリサに会えないってんなら、強い魔法使いになってやる。たったそれだけの理由で、あたしはここまで来たんだ。まだ足りないってんなら、アリサ、あんたも負かして認めさせてやる。それがあたしの、この決闘にかける気持ちの全部だよ」
「……もういい、もう十分! こんな戦い、もう終わらせる!!」
決着をつけるために、全てを終わらせるために。
アリサは剣を、長さ四メートルほどの大剣に変化させた。
「へえ、中々冷静じゃん」
巨大な柱のようにしては、また避けられて砂煙で身を隠されてしまうだろう。
確実に仕留めるための、これが最後の一手。
「また余裕ぶって! すぐにその顔を——」
ズドォォォォン!
「——え」
腹部に命中し、炸裂する火炎弾。
両手で剣を握っていたアリサは、ロッタの手から無詠唱で放たれたファイアボールに反応できなかった。
「なん、で……っ」
一歩、二歩と後ずさるアリサ。
この衝撃は、無詠唱の威力ではない。
しっかりと詠唱し、魔力を練り上げなければ出せない威力。
「ごめんね、ウソついちゃった。砂煙の時のファイアボール、実は詠唱して放ったヤツなんだ」
呼子の帽子の二重魔法の効果で、一発目を放ち、二発目は温存。
今この瞬間に、満を持しての二発目を放ったのだ。
「……っ、ま、まだ……っ」
装備によって強化されているとはいえ、所詮は最下級魔法。
鍛え抜かれたアリサの体は、ファイアボール二発分のダメージでは倒れない。
「で、これがホントの最後の一発」
が、三発目を立て続けに受ければ。
マジカルマスケットが抜かれ、最後の弾丸が放たれた。
ズドォォォォン!
直撃、爆発。
アリサの体は仰向けに倒れ、エルダの右手が上がる。
「そこまで! 勝者、ロッタ・マドリアード!」