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02 豊富な品揃えとなっております




「メダル交換の権利?」


「おっと、知らなかったの? ならばお姉さん張り切ってレクチャーします」


「いや、知ってるけど。エクサの金貨を集めるとレアアイテムと交換できるってアレでしょ?」


「知ってるじゃん。お姉さんのやる気を返しなさい」


 ロッタの目の前にふわふわ浮かぶ、なんだかノリの軽い女神。

 多分、メダルの交換のためにやってきたのだろう。


「私はメダル交換係——じゃない。エクサ様に遣わされてきた女神が一柱ひとはしら、名前はマリン。気軽にマリンちゃんって呼んでね」


 その通りだったが、妙にフレンドリーだ。

 威厳や神秘性をまるで感じない。


「えっと、正直に言うね。このメダル、あたしのじゃないんだ。元々この部屋にあった物なの」


「そんなはずないでしょ。お姉さん騙されません」


 女神さまは謎の薄い板を取り出して、人差し指で画面をなぞって操作する。

 そして、表示された情報を見せつけた。


「ここのメダルは全部、あなたが見つけたことになってるよ? 間違いなく、全てあなたの物です」


「……うっそぉ」


 足下にぎっしりと、隙間なく敷き詰められたメダル。

 これが全部、自分の物。


「いやー、しかしハンパないね。これ軽く五千万枚はある? よく集めたもんだわー」


 あまりにも突然降って湧いた幸運に、ロッタの頭の中は真っ白になった。


「さてさて、早速だけど交換といこうかー」


「……はっ! こ、交換って、もしかして神話級アイテムと……!?」


 今までのことを思い出していたロッタが、『こうかん』の四文字で我に帰る。

 女神さまは彼女の隣に座り、画面を見せつつ平たい板を指で操作していく。


「そのとーり! なんせ五千万枚だからねー、交換し放題だよー! ほれ、何にする!」


 ここで強力なマジックアイテムを手に入れれば、決闘に勝てるかもしれない。

 ちょっと卑怯な気もするが、相手はそれ以上に卑劣な男。

 その場限りなら、使ってしまってもバチは当たらないだろう、きっと。


「神話級レアアイテム……。個人的にも興味あるし、どれどれ、どんな物が……」


 板の画面を覗きこむ。

 そこに映し出されていたのは、豊富な品ぞろえの高級食材だった。


「どうよ、このウェルド海で獲れた北海カニ、十年分。今ならメダル2枚で——」


「ゴメン、マジックアイテムの方見せて」


「おっと、そっちでしたか」


 画面に乗せた指を横にスライドさせると、表示された情報が映り変わる。


「さっきから思ってたけどさ、変わった板だよね。これもマジックアイテムなの?」


「イバトの板っつってね。色んな情報管理出来る便利ツールなのよ。あげないよ?」


「くれないんだ。一万枚でも交換無理?」


「無理なんだなぁ、これが。ささ、開いたよ、マジックアイテムのページ」


 操作を終えた女神さまが、板をこちらに渡してきた。

 イバトの板に映し出されたマジックアイテムの数々に、ロッタは息を呑む。


「すご……、これ、ほとんど神話とかに出てくるヤツだ……」


 かつて英雄王が振るい、邪龍を滅ぼしたという『聖剣イクスブレード』メダル80枚。

 表面が炸裂して敵の攻撃を相殺し、すぐに修復すると伝わる盾『リアクトシールド』メダル45枚。

 その他、神話級の装備がズラリと並ぶ。


「でもあたし魔法使いだし、こんな重装備使えないや」


「なーんだ、キミは後衛職か。それならそうと早く言ってくれなきゃ」


 板を奪い取り、スッスッス、と指でスライドさせ、魔法使い向けのページを開いて渡す。


「はい、どうぞっ!」


「あたしもそれ、操作したいんだけど。ダメ?」


「ダメ! 決まりとかじゃなくて、爪立てられて画面に傷が付いたりしたらなんかヤダからダメ!」


「決まりとかじゃないんだ……」


 女神のくせに器ちっちゃいなぁ……、とロッタは心の中で思った。

 思うだけで、口には出さない優しさと情けが彼女にはあった。


 気を取り直し、ラインナップに目を通す。

 やはり並んでいるのは神話級の武器防具ばかり。


「これ、古の大賢者が使ってた、あらゆる魔法を跳ねかえす『虹のローブ』だ! こっちは魔力を増幅するって伝わる『大鷲の杖』! もうさ、いっそ全部ちょうだい!」


「いいけど、一品につき取り寄せに10分はかかるよー。全部となると、かーなーりかかるよー」


「うっ、確かに。それに武器も防具も一つあれば充分だし。でも時間はたっぷり……ん? 時間?」


 ふと、気になった。

 決闘を挑まれてから、パーシィの手当てをして、廊下であれこれ考えて、この変な小部屋まで辿り着いて、おかしな女神と会話をして。

 今は一体何時で、四時半まであと何分なのか。

 イバトの板の右上の方に表示されていた時刻は、16:11。


「じ、時間ないじゃん!」


 マジックアイテム一品の取り寄せに、十分かかる。

 今すぐ決めなければ間に合わない上に、決闘には一つしか持っていけない。


「どしたー、マジカルガール。トイレにでも行きたいの?」


「違う! 四時半から決闘! もう時間無い!」


 早口かつ片言で答えつつ、大急ぎで探す。

 魔力を増幅するタイプの杖はダメだ。

 魔法を放つ前にやられてしまい、なんの意味もない。


 魔法使いでも、素早い剣士に一対一で勝てる武器を探さなければ。

 数多くの品揃えの中から、一つの武器がロッタの目にとまる。


「えっと、えっと……、これは何?」


 ロッタが指さしたのは、筒のような奇妙な形状の、多分魔法の杖。

 先端に穴が空いており、持ち手は握りやすいように曲がり、指をかけるためだろうか、突起のようなものが付いている。


「おぉ、お目が高い。これは新製品、その名もマジカルマスケット。お値段メダル90枚となって」


「性能! 手早くお願い!」


「術者の魔法を弾丸に込めて撃ち出す、魔法の銃だよー」


「……銃ってなに?」


「あぁ、まだこっちの世界には無かったかー。使い方の動画あるけど、見る?」


「見る! ……動画?」


 始めて耳にする単語に首をかしげるロッタ。

 女神様は慣れた手つきで画面を操作し、使用方法説明の動画を見せた。

 画面の中で、魔法使いが弾丸を握りしめ、魔法を詠唱する様子が映し出される。

 その弾丸を装填して引き金を引くと、銃口から火炎魔法が発射、マトを粉砕した。


「すっご、ずがーんって……。速射性も十分……、これに決めた! 今すぐ取り寄せて!」


「お買い上げ、ありがとうございまーす」


 指でタッチし、画面の中の決済ボタンをプッシュ。

 小部屋の中からメダルが九十枚消滅し、ロッタの前にお取り寄せのための魔法陣が展開された。


「さて、届くまで退屈だろうし、私の身の上話でも聞く?」


「聞かない」




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