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19 殴り合って、ぶつけ合って




「では、始めッ!」


 合図と共に、エルダの腕が振り下ろされる。

 その瞬間にはもう、アリサはロッタの眼前で剣を振り上げていた。


 いつ剣を抜いたのかも、こちらに間合いを詰める瞬間も、なにも分からなかった。

 時間感覚が鈍り、体が対応しようとする。

 左腕の腕輪に魔力を込め、斬撃の軌道上に左手の甲を向ける。


(一瞬で終わらせる。絶対的な力の差を証明して——)


 勝利を確信し、振り下ろされるアリサの剣。

 オレンジ色の刀身は、硬い手応えとともにピタリと止まる。


「……なに、それ」


「アリサの剣と、一緒だよ……!」


 ロッタの左腕に、半透明のシールドが出現した。

 強固な魔力フィールドによって、初撃のガードに成功した。


「フォースシールドっていうんだ。あげないよ?」


「要らないわ」


 アリサはすぐさま身を翻し、右手側から剣を振るう。

 今度は反応しきれず、側頭部を峰が直撃。

 ロッタの体は大きく吹き飛ばされる。


「……?」


 が、仕留めた手応えがない。

 先ほどの魔力の盾と同じ、硬いものに弾かれた感触が手元に残る。


「いっ……たいなぁもうっ!!」


 空中で回転し、体勢を整えたロッタが着地。

 戦闘不能からは程遠い彼女の様子に、アリサがわずかに驚きの表情を見せた。


「あなた、どれだけ石頭なの?」


「あんたも冗談言うんだね」


「……そう。それも、わたしの剣と一緒なのね」


「そういうこと。あと、これもあんたと同じ!」


 ほうきの髪飾りを外し、魔力を込める。

 巨大化したジェットブルームに跨ったロッタの前に、再びアリサが斬り込んだ。


 振り下ろす斬撃。

 しかし、今度はアリサの方がロッタを見失う。

 彼女がいたはずの、何も無い空間を、剣が虚しく薙いだ。


「どこ……——っ!」


 背後から感じた殺気に、反射的に剣を振るう。

 斬撃がファイアボールを斬り裂き、二つに分かれた火球が彼女の両側で爆発した。


「あちゃー、気付かれちゃったか……」


 アリサに向けられたマジカルマスケットが、銃口から煙を吐き出す。

 ほうきに跨ったまま、ロッタは使用済みの弾丸をガンベルトに納め、新たな弾を装填。


「……大盤振る舞いね。あなたが手に入れたという学院の宝、これではっきり分かったわ」


「そういうこと。アリサもなんでしょ、それ」


「ええ。わたしのフラガラックもあなたと同じ。条件は対等ね」


「そうかな? あたしの方が強いし、アイテムもいっぱい持ってるよ?」


「本当に負けず嫌いよね。あの頃からちっとも成長していない」


「そいつはお互い様でしょ、相変わらずの意地っ張り。こっから先、出し惜しみは無し。あたしの全部であんたを倒すから!」


 啖呵を切ると、ロッタはジェットブルームを発進させる。

 闘技場の外壁に沿って超低空飛行をしながら、アリサの視界の外へと逃れ、銃口を向けた。


(……ここっ!)


 トリガーを引き、死角からファイアボールを撃ち込む。


「同じ手が、通用するとでもっ!」


 振り向きざまの一閃。

 ファイアボールはあえなく両断され、二つに分かれて爆発した。


「だよね、やっぱり……」


 これで残弾は、ファイアボール二つに炎と風の大技が一つずつ。

 二つの最強魔法は、殺人的な威力と攻撃範囲を考えると使用不能。


(あと二発で、ケリをつけなきゃ……)


 ファイアボールの詰まった弾丸を取り出し、装填済みの弾と入れ替える。

 これを当てる手段を、何とか考えなければ。

 リロードを終えてアリサに目を戻すと、そこにいたはずの彼女の姿がない。


「……っ、どこに——」


 周囲を見回そうとした瞬間、棒状のものに顔面が衝突。

 ロッタはジェットブルームから落下し、ほうきが猛スピードで壁に衝突。


「いたぁっ!!!」


 鼻を押さえて倒れ込むロッタ。

 プロテクトリングの効果によって、鼻血が出る程度のダメージで済んだ。


 ロッタが衝突したのは、二十メートル弱の長い棒状に変化したフラガラック。

 外周を見えないほどの速度で飛びまわるロッタの軌道上を、アリサが薙ぎ払ったのだ。


「見えずとも、軌道が分かればこの程度。さあ、捕まえたわよ」


 剣の形に戻し、ロッタが起き上がる前に追い討ちをかける。

 ロッタはフォースシールドを展開するが、アリサは構わず魔力の盾に剣を何度も叩きつける。


「これであなたは詰み。もうガードは解けないでしょう。後はその防御フィールドが破れるまで、攻撃を繰り返すだけ」


 次々と斬撃を浴びせられ、防御フィールドに小さなヒビが走った。


「ぐぅっ……、このままじゃ……! まだアリサに、何も伝えてないのに……っ!」


「伝える? わたしに? こうして這いつくばって、敗北までの時間を引き延ばすことしか出来ない弱者のたわごとに、わたしが耳を貸すとでも?」


「……弱者、弱者ってそればっか。あたしがあんたと会うために、どれだけ頑張ってきたと思ってんの」


「頑張った? 頑張りました、褒めてください、とでも言いたいの? 子供じゃあるまいし、バカバカしい、下らない」


「別に、あんたに褒めて欲しいわけじゃないよ。ただ、あたしが頑張ってこれたのは、またアリサに会うため。あんたとまた、昔みたいな友達になるためだから!」


「わたしに……、会うため……?」


 アリサの眉が、ほんのわずかだけ動く。

 剣の振りに躊躇いが生まれたその瞬間を見逃さず、ロッタはシールドを解除し、手を伸ばす。


「——っ、しまっ……」


「捕まえた……!」


 アリサの右手首を、ロッタの左手がしっかりと握りしめた。

 アリサの力ならば、簡単に振りほどけるだろう。

 だが、一瞬でも動きを止めれば十分。

 右手で銃を引き抜き、アリサの腹部に押し当てる。


「再会祝いのプレゼント、受け取ってよ」


 ズガアァァアン!!


 爆発音と共に、火球が炸裂。

 アリサの体が背後に大きく吹き飛ばされた。


「——がっ!」


 衝撃に意識が飛びかけるも、何とか堪える。

 両の足で踏ん張って、砂煙を上げながら地面を滑り、片膝をついた。


「はぁ、はぁ……っ、まだ、この程度では……!」


「だよね、あたしの知ってるアリサはこの程度じゃ負けない。昔から、凄く強かったもんね。まだ小さかったのに、大人の騎士にも負けないくらい」


「……昔の話を掘り返して、今みたいに動揺を誘うつもり? 同じ手は二度通用しないって、さっきも言ったはずだけど」


「そんなつもりは最初ハナからないよ。あたしはただ、今日、アリサと話がしたいだけ」


 そう、力で倒すだけでは何も意味はない。

 気持ちを全てぶつけて、思いの丈を届けなければ。


「あたしは今から、言いたいこと全部ぶちまける。だからアリサも聞かせて。あんたが溜め込んでる全部、あたしに!」




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